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【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
後編 灼銅の魔人

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六十六話

次回、最終話

 ●


皇帝特権施行スート』! 『剣の王』全軍展開せよ! 」


 グウィンの号令とともに、船の外壁から黒鉄の兵たちが起き上がった。背から翼を広げ、次々に飛翔していく。

 飛鯨船の前に相対するのは、棍棒を構えた『赤』のカマエルである。

 十三体のゴーレムたちに「へへぇ」とにやけたカマエルは、炎を踏んで空を駆け出した。


「天におわします我が神よ! この叩きがいのある異教徒を私のもとにお導きいただき感謝しまァす! 」


 ●


 ジジが東の空を睨む。サリヴァンもまた、同じところを見ていた。

「……あっちを先にどうにかするしかないか」

「魔術師、どうする? 」

「とりあえず、退路はひとつ塞いでおこう」

「オッケー。発破だ、マリア。トゥルーズに伝えて」


 サリヴァンの影に間借りしていたマリアが、頷く。

「トゥルーズ、発破の許可が出ました」

「おっけー! 」


 轟音が城を揺らした。

 爆発音は途切れることなく、城の地下だけを的確に爆破していく。

 トゥルーズはそれを、城の影から影へ飛ぶように移動しながら観測していた。


 上にある城部分を崩落させず、地下だけを崩す。それは、語り部の測量がなければ不可能だったことだ。冥界の扉は、こうして表面上は通行不可となった。魂ではなく、肉を持った魔術師らは、これでもう穴じたいに近寄ることは難しい。


「うーん。まさしく匠の技ですねぇ」

「なんでおれの語り部はこんなにアホっぽいんだ」

 座席にしがみつきながら、飛鯨船の中でヒューゴが嘆いた。



 サリヴァンは轟音の中、立ち尽くす石の像を縫うように駆ける。

 城の上には花弁のような火の粉が降りそそぎ、近寄るごとに肌がちりちりと焙られた。


「サリー! ボクは中まで行けないかも! 」

 ジジが悔しげに言った。熱と光。それこそ、ジジの弱点だった。

 もはやこの先は、鍛冶神の加護があるサリヴァン以外の人間は踏み入ることを許さない。


「ボクは魔術師を探す」

「任せた」

 短くそれだけ告げて、サリヴァンは箒にふたたびまたがった。その背を見送り、ジジもまた黒い霞になって粒子を周囲に拡散しながら、城門を離れていく。


 サリヴァンの胸に収まるミケの銅板の欠片が、共鳴している。

 サリヴァンはぎょっとして、焦げていくポケットから欠片を取り出した。片手に握り締め、上へ。


 体に降り注ぐ火の粉が吹雪くようだった。眼鏡ごしに目をすがめて、もはや視界を覆いつくす火炎の中心を見る。貌のない人の形をしたものが、そこにあった。


「“星よきいてくれ゛」

 短くそれだけ刻まれた銅板の欠片が、呪文に呼応してわずかに光を纏う。


「……銀蛇」

 腿で箒の柄を支え、サリヴァンは弓の弦を引いた。

 銅板の欠片は、飴のようにサリヴァンの手の中で形を変える。



 銀蛇の弓に赤銅の矢をつがえ、サリヴァンは火炎の中心へと放った。

「――――ミケの『意志』が宿った鏃だ。どうか思い出してくれ」



 ごうごうと鳴る風に、つぶやきは搔き消される。

 一矢は降り注ぐ火炎の吹雪の中を進んだ。サリヴァンには、光の中に消えたようにしか見えなかった。

 それでも目を凝らし、耳をすませる。


(アルヴィン皇子の体と意思を銅板は浸食したのなら……)

 サリヴァンは、アルヴィン皇子を救う手立てとしてこう考えた。

(アルヴィン皇子の心を望む『意志』が、浸食し返すことができれば――――)


 あの星の海で、ミケがこの銅板の欠片に込めた願い。意思。そこに、サリヴァンの魔力を紐づけて放った。


「……届いた! 」

 サリヴァンは確信をもって、柄の先を下げて降下した。


「鍛冶神よ、わが身に炉のご加護を――――! 」

 叡智の炎が降り注ぐ。火の粉が降り積もった石畳は、融解して赤と黒のまだらになっている。

 サリヴァンの体の表層だけが、加護で淡く光の膜を張っていた。草木が立ち枯れた庭園の中心で、サリヴァンは足を止める。


「ダッチェス。力を貸してくれ……」

 ジジに影を通して魔力を送るように、きょうだいであるダッチェスの銅板を介してサリヴァン自身の魔力を、ミケの銅板に送り込む。欠片の意思が浸食しきれば勝ち。逆に浸食されて焼き潰されたら、このまま炎に押しつぶされ、城とともに形も残らず消えるだろう。


「届け――――! 」

 強い熱風が吹き付ける。鐘楼の中で、カラコロと、口の割れた小瓶が転がった。中身がこぼれ、火炎の吹雪の中へと巻き上がる。

 サリヴァンは魔力を送り続けた。吹雪が雨になり、雨が霧雨になっていく。そしてやんだ。


 空を塞ぐものはもうなかった。

 雲が晴れ、淡い水色の空が広がっている。

 サリヴァンはまだ熱くくすぶる地面の上で、うずくまって浅く息を吐いていた。


「……晴れてる」


 仰向けに体を横たえ、胸の上にダッチェスの銅板を置く。そこにはまだ、ダッチェスの蓄えた魔力が残っていて温かい。繋がりはまだ切れていなかった。その先にアルヴィン皇子の命がまだあることを感じている。


「アルヴィン皇子は、どこに……」

 成功を見届けるより先に、サリヴァンの意識は落ちていった。




読了ありがとうございます!

次回、最終話です。

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最終話までの数話は、深夜一時~早朝にかけて投稿されます。(この作品は、この時間帯の更新が一番アクセスがあるためです)

寝て起きたら更新されていますので、起き抜けにでも覗いてやってください。

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