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【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
後編 灼銅の魔人

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六十四話

 明日、土曜日朝に最終話です。

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 単純計算で、五人の評価が入るとランキングの末席に乗る可能性があるそう。現状、ブックマーク四件の作品がどこまでいけるか分かりませんが……!

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 ●




 『黄金の人』。

 それは、神の王の命により、『鍛冶』の神が新しい生き物の創造を任され生まれた人類の祖だ。


 鍛冶神は混沌の泥と黄金をあわせて焼き固め、最初の人『金の人』を創り出した。

 無垢なるその『人』は、神々によって養育され、愛された。

 しかし、それをよく思わなかった『叡智の神』が、罠にはめる。

 燃えやすい布と木でつくった箱に火を閉じ込め、『黄金の人』の目に触れるところに置いておいたのである。


 火を知らぬ金の人は、その綺麗な箱を手に取り、もっとよく見ようと蓋を開けてしまった。たちまち『黄金の人』は火にまかれてしまうが、神々と同じように永遠の命を持っていたその人は、死ぬこともできずに三日三晩を苦しんだ。


 ついには自ら死を賜ることを哀願した『黄金の人』は、神の手により灰となる。

 その後、鍛冶神は再度人類を作り出すことを依頼される。

 そこで『黄金の人』の灰と、銀を素材に、あらたな人類をつくった。そうすれば『金の人』が学んだ知恵や注がれた愛情を知ったままに、新しい人が生まれてくると思ったのだ。


 しかし無垢だった『黄金の人』は、最期に裏切りと、怒りと、恐怖を学んでいた。


 ――――そんな銀の人類の生末は、語るまでもない。

 



「アルヴィンの体を使って『黄金の人』を蘇らせる? 頭湧いてんのか」

 ヒューゴが吐き捨てた。

 サリヴァンは難しい顔で見解を述べる。


「けれど、筋は通ります。最初の人類は、混沌の泥と黄金、そして神の血を注いだものを、鍛冶神が炉で焼き固めて生まれたと。それに置き換えて、語り部の銅板と神の血を引くアトラスの一族。なかでも、『先祖返り』と呼ばれるアルヴィン皇子を選んだ。おそらくこれから黄金の人を蘇らせるために、遺灰を使った儀式があるはずです」


 グウィンの視線がサリヴァンの目を射抜いた。

「阻止できるか? 」

「ジジの索敵能力で魔術師を探し、おれが叩くことができれば、あるいは……。でもそうなると、グウィン陛下を狙う他のやつらの対処が……」

「わたしはここから、予定通りスート兵を飛ばして迎撃するさ。十三体もいるんだ。たった数人、なんとかなる。魔術師を叩けば、他のやつらは冥界に戻るしかないのだろう? 」

「わかりました」


 サリヴァンは箒を取り、ハッチに足をかけた。

「お互い生き残りましょう」

 グウィンが操縦席で、背中越しに腕を振り上げた。

「ああ! 」



 サリヴァンは、大小二枚の銅板をひそませた上着に手を当てた。息を吸い、飛鯨船から滑り出す。すでに黒い卵はなく、蝗の雨は止んでいた。


「ジジ! どこだ! 」


 城下に降り立ち、体に魔力を巡らせる。影を通して送りこんで、そのつながりを追って目でも見慣れた姿を探した。空に渦を巻く赤い光で、霧に浸かった街は濁り、血の色に沈んでいる。視界の悪さに、サリヴァンは舌打ちした。


(ここに降りたのは失敗だったか。どこか別の場所でジジのほうから来るのを待つべきだったかも)


 霧がわずかに流れた。サリヴァンは転がるように姿勢を低くして、剣先を交わした。

 長い黒髪がひるがえる。着物も、鎧もまた黒い。顔には半身の火傷の跡を隠すように、陶器の仮面がかかっていた。アポリュオンが化けていたのとは別の、アルヴィンの記憶の中で見た黒髪の男。


「……『黒い騎士』」

「おまえが、蝗の王をやったという妖術使い。……まだ子供なのだな」


 赤黒い世界に立ち、サリヴァンはその人物をじっくりと観察した。

 秀麗な男だ。すらりとした立ち姿は隙が無い。思っていたより大柄ではなく、腰に小刀を、手には細身の槍を携えていた。半分だけ見える白い貌は、細く整えた髭こそ蓄えているものの、女性的な印象もある。

 相手の抜け目のない黒い瞳もまた、サリヴァンの全身を眺めていた。


「お前だけ、心構えが違うようだな。楽しめそうだ」

 言いながらも、男はにこりともしなかった。鋭い突きが正面からやってくる。雷のような速さだ。サリヴァンもまた長く伸ばした『杖』の側面で受け流し、半円を描いてステップを踏んだ。


「避けるか。生きる時代が違えば……」

 槍先がジグザグに跳ね上がり、サリヴァンの杖を絡み取ろうとする。サリヴァンはいつもの短い剣に切り替えると、懐に飛び込む隙を狙う。


「……やがては優秀な将として、重用される腕前だろうに」

「今の時代にいるから価値がある」サリヴァンは答えた。「この時代に生まれたから、あんたと剣を交えてる。違うか? 」

 男ははじめて笑った。「それもそうだ」


 サリヴァンは踏み込んだ。男の下を向いた穂先が、ほとんど反射的といっていい速度でグルリと進行方向を両断する動きをする。しかしサリヴァンは直前で軌道を変え、大きく横に跳んだ。伸ばした腕が、伸ばした剣先を槍の軌道の通らない空間を突く。男はそれを、難なく首を傾けることで避け――――そして背中から黒い霞にからめとられた。ぎょろりと男の目が見開かれる。


「これか! 妖術! 」

「違うよ。ただの助太刀さ」

 ジジは絡み取った男を、跳ね返すようにしてサリヴァンの前へ押し出した。そこに、鍛冶神の炎を宿した剣が通る。


「――――はぁ、はぁ……なるほど」


 首と肩の間に刻まれた傷を押さえ、男は、理知的に呟いた。

「これは……その熱い剣は、死者の魂も焼き斬るのか」


 男の傷口から噴き出すのは血ではない。黒く、腐臭のする何かだった。治るきざしのない傷に、男は興味深そうにサリヴァンを見つめる。


「……そうか。おまえが我々の天敵だったんだな」

 ――――ドプリ。

 男の輪郭が崩れた。あとには、腐臭のただよう黒い泥だまりだけが残っていた。



読了ありがとうございます。

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