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【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
後編 灼銅の魔人

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五十五話

 ●


 レイバーンは、ダッチェスの訃報に「そうか」と一言、呟いた。

 古びて黒ずんだ銅板の端には、真新しい断面の欠けがある。グウィンの指が、なめらかな飴色の断面を撫で、小さく祈りの言葉をつぶやいた。


「……あれは誇り高い()だった。私も、彼女にじゅんじる頃合いだな」

 レイバーンはそう言って、息子たちに微笑んだ。憑き物が落ちたような笑顔だった。


「……グウィン。そろそろいこうと思うのだ。いいだろうか。あとは任せても」

「早く迎えに行くべきですよ。父さん」

「待ってる女が三人もいるんだからな」

 グウィンが微笑んで言い、ヒューゴも軽く返した。


 レイバーンはふと、微笑みを引き締め、まっすぐに瓦礫を眺めた。

「……最期におまえたちと話せて良かった」

「……それは本心からか? 」

「本心だとも。後悔は山ほどあるさ。けれど死人が遺せるのは、言葉だけだから」


 グウィンの低い声が、銅板の文字を読み上げる。

 本来なら、語り部自身が主の葬儀で口にする言葉だった。


「”硝子の靴を履き、葬列の末尾を踊ろう”

 ”涙を真珠に変えて撒き、野ばらの戦士の旅路を飾ろう”

 ”言祝ぐうたはいずれ蒼穹へと刻まれる”

 ”硝子の棺は光なき場所へ収められる”

 ”しかし、その上には永遠を誓う野ばらが茂り、わたしが共に横たわる”」

 言葉が音になるたび、銅板の文字が魔法の残滓で金色に輝く。

「”数多の言葉を墓標としよう。わたしは屍に寄り添うもの”

 ”九度ここのつの愛。九度ここのつの誓い”

 ”死も、時も、わたしとあなたを別たない”

 ”わたしはあなたに寄り添うもの。あなたを永遠に変えるもの”」



 瓦礫の城でひっそりと、城のあるじが消えていく。

「――――”わたしは、あなたの葬列を言祝ぐもの”」


 銅板が煌めいた。その光がグウィンを照らし、風が光をまとって巻く。

 新たな王の生誕を祝福した銅板は沈黙し、あとには、古い王がいなくなっただけだった。


 ……地響きが聴こえる。

 グウィンの背後で、門の向こうが急速に赤く染まった。

 サリヴァンが足早に門の外へと駆け出す。城の全景を視界に入れ、サリヴァンは黒い目を大きく見開いた。

 その目に映ったのは――――。


「―――――なんだ、あれは……っ! 」

 ぐらぐらと揺れる地面に抗いながら、全員が城を出た。そして、頭上を覆うものに驚愕する。

 ヒューゴの顔が悲しみと絶望に歪んだ。


「アルヴィン……!」


 ――――それは、さながら空に咲いた『あかい花』。

 燃え盛る業火の花が、今にも落ちてきそうに空に咲いている。

 固く結ばれた蕾の先は、いまにもほころびそうに、炎を吹いて揺れている。

 その炎の先に、黄金に輝く人影がある。

 全身からダッチェスを貫いた赤く焼け爛れた()を伸ばし、束ねて、体をくるむ翼の形に広げ、花芯のように逆さにぶら下がる人影がある。

 火炎のあかい影は、フェルヴィンの空を覆う雲を照らし、世界を血濡れを思わせる真紅に染めていた。



「―――――『皇帝特権施行スート』。『剣の王』」

 グウィンの低い声が、一行を正気に戻した。


 紅い影に塗れながら、瓦礫がガラガラと音を立てる。最初は手。次に腕、肩、頭――――。


 数は一そろいで十二。

 『王』を守る近衛兵たちは、サリヴァンには見上げるほど大きな皇帝グウィンよりも、さらに二回りは大きい。

 漆黒の鉄の体は、レイバーンのそれよりも洗練され、曲線的な線を描いている。露出した口元は優し気で、女性的である。兜の奥では、柔らかな赤い光が、大きく一つ灯った。


 ガツン! と、グウィンの背後に立った『剣の女王(12)』が、大盾を地面に突き立てた。


 扇状に展開した兵たちもまた、盾を打ち鳴らす。



 ―――――ガン! ガガン! ガン! ガガン!

 ―――――ガン! ガガン! ガン! ガガン!

 ―――――ガン! ガガン! ガン! ガガン!

 ―――――ガン! ガガン! ガン! ガガン!



皇帝グウィン』が拳を上げる。兵は静止した。

「行くぞ」

 鬨の声が上がった。


読了ありがとうございます。

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