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【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
後編 灼銅の魔人

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五十三話

次の更新は昼12時半ごろです。

 卵から伸びたそれは、ダッチェスを貫いたまま巻き戻っていく。躍り出たのは長剣を構えたサリヴァンだった。刃が弾かれる。

 左手に『銀蛇』を振りかざし、右腕を伸ばしながら、胸からダッチェスにぶつかっていく。黒衣の矮躯を抱え込んだサリヴァンは、棘に引きずられながらもダッチェスを離さなかった。ズルズルと少女の体の中を通過した棘は、名残惜し気に殻の中へと戻っていく。


「ダッチェス! 」

 皇子たちが、サリヴァンの抱えた語り部に駆け寄った。

「ダッチェス……! おまえ、なぜ……!」

 レイバーンは顔を歪め、石畳を叩く。

 黒い卵の中で驚くほど小さな人影が、緩慢に立ち上がったのを、視線の端に捉えた。


「広間の外に! 」

 グウィンが叫ぶ。瓦礫を飛び越え、一行は瓦礫の向こうへと駆け出した。


 背後から破壊の音が響いている。ドン、と建物が揺れて、思わず振り向いた広間には、天井に大きな穴が開いているのが見えた。

 赫赫と光があふれ、熱波が背中を焼く。地響きを立てながら殻を破った中身は、触手を伸ばして上へ、上へ。


 地下にいるのは危険だった。

 走り抜け、ようやく立ち止まったのは、サリヴァンがジジとともに巨人のスート兵を斃した、あの玄関ホールだった。

 開け放たれた大扉の外では、いつしか雨が降っている。


 サリヴァンがレイバーンの元へとダッチェスを運ぶと、ダッチェスはうすく瞼を開き、「……あたしってばかね」と、小さく自嘲した。白い額を、冷や汗が濡らしている。


「き……消えかけの、くせして……死んだ主を、守ろうとするなんて……なんってバカなの」

「ダッチェス、なぜこんなことを! 」

「わっかんないわよ、あたしにだって。あたしは、あたしのことが、いちばん分かんないだから……」

 ダッチェスは顔を歪めながら笑った。


「大丈夫。もう少しは消えないわ。語り部はね、長生きするほど魔力を蓄えンのよ。年取ると無駄なことをしたくなるの。こんな傷、たいしたことないわ。王様でしょ……」

「……おまえ」


 ダッチェスの額から流れる汗をぬぐおうと手を伸ばしたレイバーンは、その手が彼女に触れられないことに気が付き、こぶしに固めて床に下ろした。

 ダッチェスはその手を引き寄せるように促し、自分の手と重ねて、頬に当て、苦し気に息をつくと、まぶたを閉じる。


「……あたしね、今ほど、子供の姿を恨んだことないわ」

「……なぜだ? 」

「絵にならないでしょ……女心が分かってないわね……ふふ」

「なぜ笑う? 」

「笑うしかないでしょ。……あ~あ。バカね。あんたもあたしも、二人とも。……いや、もうあんたは、あたしの主じゃあ無いのよね」

「………」

「ねえ……後悔があるなら、それを捨てる努力をすべきよ。レイバーン・アトラス。あたしはそうしたわ。したから、ここにいるの。今の状況は、貴方にとってチャンスだと考えるべきだわ。貴方には、やり直す猶予が与えられたのだから……」


 それきり、ダッチェスは目を閉じて黙った。

 やがて小さな寝息が、血の気を失った唇から漏れ出す。

 その身体には、絶えず金色の燐光が纏わりついていたが、彼女が言うようにまだ消えるには猶予がありそうだった。


「……少し、彼女を見ていてくれるかい」

「はい」

 サリヴァンが頷くと、レイバーンは立ち上がり、息子たちのほうへと歩いていった。

 レイバーンと息子たちが、連れだって大扉の外の雨を眺めに行くと、サリヴァンの腰の下から伸びた影からジジが言った。


「……上手な狸寝入りだね。語り部が眠るわけないじゃない」

「あら、あたし、空気が読める女だもの」


 ダッチェスは身を起こし、背後にあった大扉の残骸に背中を預けて座った。ジジもその隣へ腰を下ろす。

 サリヴァンは無言で、火をおこし、温かい飲み物を作った。


「手際がいいもんね。でも、あたしはいらないわよ。語り部だもの」

「うちの魔人はよく食べるし飲むんだ。負担にならないのなら、湯冷ましくらい口に含んでもいいだろう? 」

 まだ温かいカップを差し出され、ダッチェスは苦笑しながら両手で抱える。


「ねえ、魔法使いさん。ほんとうにアルヴィン様を助けられるの? 」

 ダッチェスは微笑みながら、そう口火を切った。


「すくなくとも、もとの心は取り戻すことができるだろう。これがあれば」

 サリヴァンは銅板を取り出し、ダッチェスに見せた。


「『星よきいてくれ』……あの子の詩歌の一節ね。らしい言葉だこと。『星』なんて」

 ダッチェスは腕を伸ばし、指先で表面を撫でた。


「足りる? これだけで」

「あるいは」

「それじゃあ困るわ」


 ダッチェスは憮然とした。

「ずいぶんと穴だらけの計画ねえ 」

「わかってるよ。準備に時間が足らない。かなり行き当たりばったりになる」

 サリヴァンはぼりぼりと頭を掻いた。


「もったいぶらずに、知っていることを教えてくれ」

 ダッチェスは喉の奥で、くくくと笑った。


読了ありがとうございます。

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