表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
後編 灼銅の魔人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/71

五十二話

 ●


 ヒューゴが唾を飲む。

 今、再び、この講堂へと足を踏み入れようとしている。あれが遠い昔のようだ。


 荘厳なあの石の扉は、片方が外れて横たわっていた。

 扉に刻まれた巨神アトラスも倒れ伏している。踏み越え、暗闇と静寂に包まれた地下の講堂へ、サリヴァンを先頭にして、グウィン、ヒューゴと踏み入れる。魔人たちは、それぞれの主の影へと消えている。影の中からようすを伺っているだろう。

 しかし、三人が動揺したのはそのありさまにではない。


 中央に鎮座する禍々しい黒鉄の奇像と、その前に座り込む、老人の亡霊の姿。背を向け、奇像を見上げている姿は、拝礼のようすにも似ている。

 しかしここは、もはや神聖な場所では無く、悲劇のあとの残骸になってしまった。


 その奇像は、黒鉄でできた無数の手が、足が、胴が、頭が、絡み合い、溶けあって、いびつな卵にも似た、ひとつの大きな塊になってできている。

 それはあまりに醜悪。

 埋め込まれた顔たちが、穏やかにも見える無表情だというのが、逆に異様さを際立たせている。


 サリヴァンがグウィンと視線を交し、頷いた。……亡霊と対話を試みても良い、という合図だ。


「父上……? ここで何が……」

 レイバーンは疲れたようすで首を振り、近寄る息子たちに向き合った。


「……すまなかったな。サリヴァン、きみも……」

「いいえ、陛下。巻きこんだと思われたのなら、それは違います。おれはきっと、爺さんの代わりでもあったんです」

「ありがとう。……今更だが、きみに会えてとても嬉しい。息子たちを助けてくれてありがとう」

「お約束は、果たせましたか」

「ああ……。確かに果たしてくれた」

 レイバーンは目を閉じて頷いた。

「……グウィン、ヒューゴ」


 そして目を開けた時、レイバーンの青い瞳は、冷徹な皇帝の瞳に戻っている。

「よくぞ無事に戻った。話すことがある」

 そう言って、レイバーンが息子たちに片腕を広げて歩み寄ろうとした、そのときだった。


 不吉な音がした。

 カツ――――ン……。

 その音は、広間にやけに大きく響いた。


 カツ――――ン……カツ――――ン……カツ――――ン……。


 その場の誰もが息を殺し、『それ』を見た。

 悪趣味な、黒い卵のようなオブジェが、小刻みに揺れている。音はオブジェが動くことで、石畳を瓦礫が叩く音だった。


 空気が漏れる音が、そこから漏れている。

 フゥ――――……と、溜息や、寝息にも思える音が。


 ズッ、と、黒い卵は身じろぎした。少しだけ、石畳をこすって卵は前進する。

 ズズッ……目を見張る一行の目の前で、それはまた少し、歩を進めた。


 黒光りする表面に、うすく赤い光が漏れる。

 鼓動にも似た、赤い点滅。

 高い天井に届くほどに大きなそれの――――内側で蠢くもの。


 崩壊は一瞬だった。黒い卵は前のめりに倒れ、瓦礫の上に横倒しになった。その瞬間、ほんとうに卵の殻が割れるようにあっけなく、枷は破られた。


「レイッ! 危ない! 」

 レイバーンは、ダッチェスの腕が、突き飛ばすように自分に伸ばされるのを見た。


 生前ならば、ダッチェスは絶対にレイバーンに手を伸ばすなんてことはしなかっただろう。ダッチェスの中で変わった何かが、レイバーンを助けようと、とっさに身体を動かしたのだ。

 レイバーンの青白い輪郭に伸ばされた小さな手は、しかしその魂の中心を突き抜けるだけだった。ダッチェスの金色の瞳が、レイバーンの右目の横で大きく見開かれる。

 金色の燐光をまとった彼女は、しかし、まだ実体を保っていた。


 その黒衣の腹を、爛れたように赤く焼けた棘が、刺し貫いている。

(……あたしの、ばか……っ! )


「―――――ダッチェス……ッ!!! 」



読了ありがとうございます。

よろしければ、X(旧Twitter)での読了ポスト、お気に入り登録、評価、いいね、ポチッとお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ