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【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
後編 灼銅の魔人

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四十九話

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 赤黒い空には、鳥一匹も飛んではいなかった。気温は湿気を含んでやや肌寒く、低い場所にうっすら霧がかかっている。


「二人とも、ほんとうに食べたくならないんですか? 」

 サリヴァンは、ポケットから携帯食料を取り出し、齧りながら歩いていた。二人にも勧めたが、兄弟は三人とも、遠慮して食べなかった。


「ああ。不思議とな。緊張しているからかもしれない」

「そうだな。こりゃ後で死ぬほど減るぞ」

 兄に向ってヒューゴはそう言ってカラカラと笑ったが、サリヴァンの顔は晴れなかった。ヒューゴも笑顔を収める。


「どうした? 」

「ちょっと嫌な予感がします。……いえ、対処法は分かってるんですが、少しまずいことになったかもしれません。確かめる時間を、三十分だけください」


 ダッチェスの金色の目が、値踏みするように、下からサリヴァンを見つめた。

 不安そうな二人を連れ、サリヴァンが城下町から山肌が触れる場所まで戻った。山沿いに歩けば、そのまま城壁のすそにつくという適当な場所だ。


「ここに何かあったか? 」

 あたりを見渡してグウィンが尋ねた。

 サリヴァンは、手頃な石で道の横にそびえる崖の土を掘り、湿った粘土質のそれを、石と一緒に袋へ入れていく。


「火山の土が必要なんです」

 サリヴァンは駆け足で戻ると、土に塗れた手を叩いて落とす。

 サリヴァンは土の上に腰を下ろし、その袋をかたわらに置いて準備を始めた。


 左耳に下がった黒い雫型のピアスを確かめるように片手で少し触れながら、銀杖を指先ほどの刃がついた剃刀にして握ると、ピアスをいじっていた手で自分の後ろ頭を探った。手慣れた仕草だったが、サリヴァンの表情は固い。

 後ろ頭で一本に縛って垂れ下がる髪の中から、特に長いところの束を小指ほどの太さだけ切り取り、右の指にぐるぐる巻く。その髪を切る様子を見て、アトラスの兄弟たちはサリヴァンの束ねた髪がざんばらの長さになっている理由を察した。


「これからやるのは交霊術です。占いみたいなもんですね。本当は失せもの探しあたりがおもな使い道なんですけど。先に言っておきます。おれ、こういう『魔術』は苦手なんです」

「魔術にも個人差があるのか? 」


 サリヴァンは頷いて、鼻に皺を寄せた。

「魔術は学問の一面がありますから、そりゃ個人で得意不得意の分野があります。おれは本当に、こうした深くて繊細な手間を求められる魔法は得意じゃあない。成功した試しが無いんです。でも今回の場合は、成功のきざしがある。ここが冥界に最も近いフェルヴィンで、しかも冥界の扉そのものが開いたこと、おれに曽爺さんの血が流れていること、一緒に陛下たちがいること。こうした条件が、適正よりも成功に傾くかもしれない」

「じゃあやってくれ。それで、何を確かめるつもりなんだ? 」


 円座になるように、ヒューゴとグウィンも土の上にあぐらをかいた。

 グウィンの後ろで見守る姿勢のダッチェスの視線を気にしながら、サリヴァンは苦い唾を飲んで口を開く。


「冥界神の真意を尋ねたいと思います」

「冥界神の真意……? それを急いで確かめる理由が何かあるのか」

「気づいたんです。殿下たちは、いつから食事をとっていないんですか? 最後に肉や、肉を加工したものを食べたのはいつですか? 」


 皇子たちは顔を見合わせた。二人が口を開くより先に、語り部が答える。

「グウィン様は八日間、ヒューゴ様は六日以上、水も食事も口にしておりません」

「最後に食事をしたのもそれくらい前ですね。口にされたのは、穀物粥だったかと思います。肉類は十日以上口にされていません。たぶん、グウィン殿下もそうだと思います」

「そうです」

「陛下。皇子。おれは二人に会ってから、少なくとも三回は、この携帯食を勧めました。……この意味、わかりますよね? 」


 兄弟は、ぽかんと語り部たちを見た。

「……嘘だろ? おれたち、地下にいたのはせいぜい三日だぜ? 」

「冥界と地上の時間の流れは違うという話があります。体感よりも長いか、短い。……正直、おれも今地上でどれくらい時間が経っているのか見当がつかない」


 冷や汗を垂らして苦笑いする弟の右隣りで、兄の方はこぶしで口を押えて考え込んでいる。

 二人の不安を断ち切るように、サリヴァンは大きな声を出した。


「ああ、大丈夫ですから! 二人はちゃんと生きてますって。ただ……少し、食事の手間がいらない体になっているだけです。そこで、この儀式なんです」

 サリヴァンは身振りも交えて説明した。


「『最後の審判』とは、神々の試練です。選ばれしものが天上の神の庭まで辿り着くことが試練だといいますが、おれは、『試練』がそれだけだとは思いません。今は飛鯨船がありますしね。この国の状態がそれを表しています。今回の事態は、あれに似ている。人々が石になる『石の試練』。これは、第三の世代である『銅の人類』が滅びのときに起こった災いの一つです。そうですね」

 皇子たちは緩慢に、語り部たちはうんうんと何度も頷いた。


「おそらく神々は、今までの人類に与えた災厄を『試練』として与えるつもりなんでしょう。そこで、です。『石の試練』。これはどういった試練か? ってことですよ。最初から思い出してみてください。まず何が起こったか? 」

「それは……最初に『魔術師』が現れて城を蹂躙し、父上とアルヴィンも殺されて、ジーン・アトラスが……そうか。死者が蘇っていて」

「そうです。『石の試練』とは、生者が石に、死者が生者の世界に蘇る。そういう試練です。だとすれば、この試練は冥界神の采配なくば行えない。冥界の神々の別名は、『魂の裁判官』、『平等を敷く者』、『秩序の管理者』。冥界の法律に従い、一日に命を失う魂の総数は明確に決まっていて、例外はありません。冥界の神々にとって、死者たちはどうでもいい存在ではないはずです。何千、何万年と一日も欠かさず管理してきた魂たちが、現世へ出ることを見逃すはずが無い。冥界神はなんらかの処置をして、霊たちを現世へ送り出していると仮説します。その『処置』のせいで、殿下たちは食事が必要なくなっている。

 結論から言いましょう。おそらくこの最下層……第二十海層は、今、冥界に落ちています」


 ヒューゴとグウィンが真っ青になった。

「それって……完全に落ちきったら、どうなるんだ? 」

「確かめてくれ」グウィンが言った。

「恐怖は未知からやってくるんだ。分からないうちは、何も動けない。きちんと準備してから、向き合おう」

次の更新は、週末のため朝8時半ごろを予定しています。

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