表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】星よきいてくれ  作者: 陸一じゅん
前編 シリウスの魔術師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/71

二十九話


『かち……かち……』

 時計が針を刻む音がする。

『かち……かちち……かちっ……』

 何かが起こる。そんな予感の音がする。

『かち……かち……かち……かち……かち……―――――』


 真っ白な文字盤にある一本きりの金色の針だけが、規則正しく働いている。その時計の時を刻む針は、不思議なことに、秒針一本しか存在していなかった。

 懐中時計を握る女が座すのは、漆黒をした棺に似た『なにか』の屋根である。

 細身で引き締まった、長い手足を持つ女だった。

 女はその『何か』が、船であることを知っていた。眼下にマグマのように沸騰している冥界の炎を望み、底の浅い、歩きやすそうな革靴を履いた足裏を、虚空にぶらぶらと揺らしている。


 冥界からの青い光に照らされて、いっそう白い顔のまわりを、縁取る黒髪がさらさらと流れていた。

 その表情は『無』である。

 感情による歪みも、経年により備わるはずの、筋肉の使い方の違いから顕れる皺などの個性も、女の肌にはいっさい無い。なめらかな白い肌は、しかし無機質なそれではなく、どちらかといえば、爬虫類や魚を思わせる『そういうもの』とした印象があった。女は小さく――――男性的にも見える外見からはギャップのある、横笛のような柔らかい声で――――囁いた。


「陰王として【認証】。宣誓する。『私は未来を終わらせない』。

 ”命ある限り夢に馳せよう” 

 ”なぜならこの意志は、青薔薇の魔女と寄り添うものだから”

  ”朋よ” 

 ”我が恋はいま”

 ”おまえの観た未来へと委ねた”

 これにより、陰王アイリーン・クロックフォード『女教皇』を担うわたしの、世界への宣誓とする」


 宣誓を終え、しばし。女の相貌に、はじめて感情が顕れた。

 優しげな、慈愛に満ちたその微笑みは、手中の時計に落されている。文字盤に落とす目は、赤みの強い茶色である。あたたかな紅茶色の瞳だけが、女に色彩を与えている。屋根の淵でぶらぶらと揺れていた足を引き上げ、女は子供のように膝を抱いて頬を預けると、紅茶色の瞳を閉じた。


「……我が弟子よ。おまえの望みはなんだろう? 」

 応えの無い問いかけは、冥界へ繋がる虚空へ消える。


「……サリヴァン。どうか、おまえの心望むままに……」



読了ありがとうございます。

よろしければ、X(旧Twitter)での読了ポスト、お気に入り登録、評価、いいね、ポチッとお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ