二十五話
●
一のさだめは愚者。やがて真実を知るさだめ。
二のさだめは魔術師。種をまいた流れ者。
三のさだめは女教皇。始まりの女。
四のさだめは女帝。あらゆる愛の母たれや。
五のさだめは我らが皇帝。秩序の守護者。
六のさだめは教皇。知恵を授かりしもの。
七のさだめは恋人たち。自由なる苦悩の奴隷。
八のさだめは戦車。闘争に乾いたもの。
九のさだめは力。力制すもの。
十のさだめは隠者。愚者がやがて至るもの。
十一のさだめは運命の輪。予言に逆らいしもの。
十二のさだめは正義。秤の重きは全の重き。正義の剣は全のために。
十三のさだめは吊るされた男。真実に殉じるもの。
十四のさだめは死神。再生の前の破壊。破壊の前の再生。
十五のさだめは節制。意思なき調整者。
十六のさだめは悪魔。恐れるは死よりも孤独。誘惑を知り、操るもの。
十七のさだめは塔。巡り合わせた罰。楽園からの転落。
十八のさだめは星。希望の予言。賢人の道しるべ。
十九のさだめは月。透明な狂気のヴェール。魔女の後継者。
二十のさだめは太陽。祝福されし生命。
二十一のさだめは審判。神の代官。審判の具現化。
二十二のさだめは宇宙。あらゆるものの根源にして、全きが至るもの。
「それは? 」
「魔術師の間に伝わる、『選ばれしもの』二十二人を暗示する始祖の魔女の預言です」
「へえ、覚えてるのか」
諳んじたサリヴァンに、グウィンは目を丸くした。
「アトラス王家にも伝わっているが、とても全部は覚えてないよ。教養のためだと言われていたが、こんなに大事になるとはなぁ」
「まさか自分たちの代で最後の審判が起きるなんて、思わなかったからだろ。今でも信じられねえもん」
「ヒューゴ、不謹慎だぞ」
「そういうケヴィンは肩肘はりすぎ」
ダッチェスの先導で皇子たちを引き連れ、サリヴァンはふたたびあの廊下を歩きだしていた。
グウィンが低くつぶやく。
「皇帝は、『秩序の守護者』か」
「治世者なら誰もが目標とする文言だな」
次男のケヴィンが、眉間に皺を寄せて皮肉っぽく言った。「アトラス王家のすべての皇帝が『秩序の守護者』であったわけじゃないのに」
「おまえの言うとおり、そうありたいとは、すべての皇帝が思ったことだろうね。大丈夫さ。わたしの側にはお前たちがいるのだから」
「兄さん……」
「アーもう! 暗いなぁ! 」一番後ろを歩いていたヒューゴが、長い脚を駆使して列の前方に躍り出た。
「トゥルーズ! おまえ、さっきの預言の詩に曲つけて歌にしろ! 子供でも覚えやすいようなやつだ」
「いいんですかぁ! 」
ぴょん、と飛び跳ねながら、壁際の影から、そばかす顔の痩せた青年が躍り出た。にこにこと自分の影から弦楽器を取り出し、歩きながらチューニングを開始する。
「サリヴァン。紹介するぜ。こいつがおれの語り部トゥルーズ。頭がゆるいが、楽器全般なんでもできるすげー奴だ。次は兄さん」
「そういう流れか? 」グウィンが苦笑して、自分の語り部を呼んだ。
「ベルリオズ」
執事のようないでたちの黒衣の男が、グウィンのすぐ横からあらわれて目礼した。天井に頭を擦りそうなほど大柄な主人とはずいぶん差があるが、サリヴァンの目からは十分大柄に見える。体が分厚く、背筋のしゃんとした壮年の男だった。
「このオヤジが、うちの長男の語り部ベルリオズ。無口でデキる雰囲気だけど、じつは我が家の語り部の中ではミケの次に若い。ほら、ケヴィン」
「……マリア」
ケヴィンが不承不承といったふうに呼ぶと、床に長く伸びた影の中から、見えない階段を上がってきたかのような足取りで、黒いヴェールの妙齢の女があらわれた。
「この、主人そっくりなのがマリア。こんなんでも恋愛小説の名手だ。浮いた話もない兄貴のどこに惚れたんだか分かんねえけど、見ての通りお似合いだろ?
あとは姉貴のダイアナには会ったな? アルヴィンのミケは飛ばすとして、最後にそこを歩いてンのが、親父の語り部のダッチェス。多忙な親父の語り部で、おれたちの母親代わり。得意技は、誓約の穴を突いて説教すること」
「ヒューゴさま! 」
「そうそう。こうして名前を叫ぶんだ。名前を呼んだだけなら誓約には触れないからな。ただ声がクソでかいから、すげー怖い。……まあ、別に全員覚えなくてもいいんだ。どうせ勝手に出てくるトゥルーズ以外はずっと影にいるからな。でも一緒にいるなら、名前と顔くらい知っといてほしくてさ」
おもむろに、トゥルーズが細い声で節をつけて歌い始めた。豊かな演奏が、美しい歌声に続く。
「……ヒューゴさま、出だしはこんなんでどうですか? 」
「いやお前、もっと早いほうが歌ってて楽しいだろ」
「荘厳なかんじを目指したんですけど」
「荘厳なかんじのまま、テンポを早くするんだよ。耳に残る感じになるだろ。たとえばこうだ」
高らかに歌い出した弟に、ケヴィンが顔をしかめて、サリヴァンにはじめて話しかけた。
「騒がしくてすまない。語り部をバンド仲間にする変な弟なんだ」
読了ありがとうございます。
よろしければ、X(旧Twitter)での読了ポスト、お気に入り登録、評価、いいね、ポチッとお願いいたします。




