二十四話
「まあ、ケヴィン様! よくぞお聞きくださいました! 今のわたしは、ただの語り部ではなく、『皇帝の語り部』としての職務に従事しております。端的に申し上げましたら、グウィン様が『皇帝』を継承なされる儀式に、このサリヴァンさまが必要なのでお連れいたしました次第です。我が国の戴冠式は、本来であれば、かの国から高位の神官をお呼びして同席していただくしきたり。皇子さまがたは、レイバーン様の戴冠式のときはまだお生まれではありませんでしたもの。知らないのも無理はありませんわ」
ダッチェスは嬉しそうに微笑んだ。
「それでは、アトラスの皇帝が、この世界にとってどんな意味を持つのか。この現状において、それがどんなに大いなる結果を生み出すのか。それをご説明いたしますね」
ダッチェスはおもむろに立ち上がり、天井に向かって円を描くように腕を振るった。
灯りが一瞬にして消え、天井に星が瞬く。実際の夜空よりもさらに深く、どこまでも続いていそうな満天の星空が、六人の頭上を覆った。
「かつてこの世には、混沌だけがありました。そこから最初に生まれ出でたのは、一匹の蛇。『混沌の蛇』は、泥の中から一柱の神の目覚めをともにし、その『混沌の神』が、泥から世界の部品をひとつひとつ、拾い上げることをお手伝いしました」
それは、魔法使いなら子供でも知っている創世神話だった。魔法使いの国の国土は、この『混沌の蛇』の抜け殻が、そのまま今の大陸になったと伝わっている。
「太陽が生まれ、昼と夜が生まれ、海と大地が生まれ、雨が生まれ、空が生まれました。夜に月ができると、混沌の蛇は、『時』を作ろうと空に光を投げました。それらは空に張り付き、星となり、いくらかは落ちて卵となり、龍が生まれました。蛇は落ちた星のいくつかを『混沌』に戻すために呑み込み、そして未来を預言する力を得たのです」
空の星々が、禍々しいほどの極彩色に輝きを増す。
「蛇は、世界の終焉をその目に見ることとなりました。絶望し、眠りについた蛇が再び目覚めたのは、蛇が生み出した神々が何代も世代を重ね、人類が鉄の時代まで下り、神々の戦乱の時代『混沌の夜』が始まってすぐのこと。始祖の魔女が、蛇のもとへやってきたのです」
星が流れる。
流星が幾筋もの帯を引いて、地平線で赤く燃えていく。
「始祖の魔女が蛇に交渉材料として持ってきたのは、未来の改変でした。人々を救い、英雄を育てること。ほろびの預言をくつがえす、二十二人の人間たち。結果として、蛇は始祖の魔女に協力し、世界に光を取り戻し、神々との交渉の場を持ちました。
まずは、人類存亡の審判をやり直すこと。始祖の魔女が要求したのは、人類にチャンスを与えることです。神々が定めた試練を、二十二人の人類の代表者が乗り越え、神々の国へ辿り着くこと。それが人類最後の審判。
『愚者』『魔術師』『女教皇』『女帝』『皇帝』『教皇』『恋人』『戦車』『力』『隠者』『運命の輪』『正義』『吊るされた男』『死神』『節制』『悪魔』『塔』『星』『月』『太陽』『審判』『宇宙』
我がアトラス王家は、その審判に備えるために設けられた墓守の一族。語り部とともに、この最下層で『二十二人の選ばれしもの』たちの旅の始発点を守り、その旅に同行を許された『皇帝』の称号を受け継ぐもの。そして『皇帝』の血を絶やさぬために我々語り部が与えられました」
小さな見習い魔術師のように、ダッチェスが大きく腕を振った。本棚の森の奥から、黄金に輝く銅板があらわれる。
「フィガロ、フィリック、シャイアム、オリヴィア、ギデオン、トーマ、ルナルド、シャーロット、シルベスター、クロウ、バロン、トミー、キッド、ガーフィール、ダイアナ、アルテミス、モルガナ、セクメト、ベルリオズ、マリア、トゥルーズ。
そしてわたしダッチェスと、破壊されたミケとルナ。以上、計二十四枚の語り部魔人たち。我々の役割は三つ。
皇帝一族の血を守ること。『審判』の儀式の概要を保全し伝えること。そして『審判』そのときのために、九人の主からたまわった魔力を使い、選ばれしものへ、おおいなる力を与えること。
語り部たちの銅板が、瞬きながら消えた。
星空も姿を消し、そこは暗く沈んだ『本の墓場』だった。
「『審判』はすでに始まっております。すでに『魔術師』や『宇宙』をはじめとする四枠が、神々により選出されてしまっているのです。そのうち『皇帝』の権利は、いまだ亡霊であるレイバーン陛下のもとにある。
グウィン様は、『皇帝』の全権をレイバーン陛下から剥奪するため、戴冠の儀を早急に行わなければなりません」
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