二十三話
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「コネリウスさまの声だ! 」
と、語り部トゥルーズがおもむろに喜色満面に叫んだ。
ひょろりと背の高い、そばかす顔の少年の姿をした魔人トゥルーズの主人であるヒューゴ王子は、金髪碧眼の色男である。
「コネリウス? ……誰だっけ」
かたわらの兄にたずねると、彼は神経質そうに弟を睨んだ。
「……ジーン陛下の廃嫡された弟君の名が、コネリウスだったな」
「でもそんな人が助けに来るか? いま生きてたら何歳だよ。うちの父親より年上なのに」
「御存命のはずだよ」
と、さらにその横から言ったのは、熊に眼鏡をかけさせたような大男だった。
「魔法使いの辺境伯家に婿として入られて、いまは九十を超えていたはず。病んだというお話は聞かないから、お元気なのだろうね」
「いやいや、それにしたって、外国から助けが来るのは早くないか? 」
「トゥルーズの言うコネリウスが、そのコネリウスなのかは分からないだろ。まださ」
次男のケヴィンは、『そんなことも分からないのか』という顔で弟を見つめた。
「確かにな。おい、トゥルーズ。そのコネリウスはどこのコネリウスのこと言ってんだ」
「そのコネリウスさまの若いころのお声がするんですう」
「はあ? おまえまた語り部のくせに適当言いやがって」
「……また亡霊じゃあないだろうな」
兄弟は顔を見合わせた。ふざけあっていた空気は払拭されて、緊張感が漂った。ケヴィンの空咳だけが響く。
「ケヴィン」
「分かってるよ兄さん。任せる」
ケヴィンは床に敷いていた布の上から立ち上がり、一番奥の本棚まで下がる。大柄な長男グウィンと、俊敏そうな三男ヒューゴが、闇に沈む本棚の奥を睨んで、体の弱い次男を守るように立った。
静寂の中に、近づいてくる足音が聞こえた。
「誰だ」
「わたしです」
「なんだ、ダッチェスか」
皇子たちは肩を落とした。
「なんだとはなんですか。こんなに愛らしいわたしに向かって失礼ですこと! 」
「コネリウスさまだ! 」
甲高い声でトゥルーズが叫んだ。とぼけた語り部に指をさされて気まずそうにした少年が、ダッチェスの後ろに立っていた。
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「これこそ、『役者が出そろった』ということ。素晴らしいですわね」
皇子たちは、「そうなのかなぁ」という顔で、三方からダッチェスを見下ろした。
「……コネリウスさまの曾孫? 」
ケヴィンがサリヴァンに向かって言う。複雑な気持ちで、サリヴァンは頷いた。
「魔法使いの国では、その大いなる奇跡を成すために、ひとり一本、かならず杖をお持ちになるとか。サリヴァンさまは、国唯一の杖職人であり偉大なる魔女アイリーン女史の一番弟子であらせられます」
「なんでアンタが誇らしげに紹介するんだよ」
ダッチェスの簡潔な説明に、ジジが不満そうに口を歪めた。
「あら、語り部の口から出る言葉に嘘偽りはありませんから、身上を明かすに手っ取り早いでしょう? 」
「ねえサリー。ボクさ、この小娘のこと、きらいかもしれない」
「まあ! 小娘ですって! 見た目で判断なさらないでちょうだい。これでも稼働してから二千年。稼働中の語り部で最年長なのよ! 」
「ほらぁ! こいつ小娘じゃん! 」
「……お前らさ、似た者同士なんだから我慢しろよ」
「騒がしいのが増えたなぁ」
感嘆したようにヒューゴが言った。見た目からしていかにも陽気な三男坊は、うれしそうにグウィンを見る。
「うん。きみの語り部とダッチェスは良い関係のようでうれしい。歓迎するよ」
サリヴァンの頭をすっぽり包めそうなほど、大きくて分厚い手が差し出された。まるで大人と赤ん坊のような握手を交わして、サリヴァンは肩をすくめる。
「ジジは語り部というわけではないんです」
「そうなのかい? とてもよく似ているけれど」
「その似ている意味を、調べている途中で」
「ほう」
グウィンの眼鏡越しの灰色の瞳が興味に輝いた。「ここを出たら、調査に協力したいところだな」
「おしゃべりは後だ。差し迫った問題について話し合おう」
場を仕切り直したのは、次男のケヴィンだった。
神経質と生真面目の擬人化のような痩躯の男は、「それで」と、ダッチェスを見る。
「語り部であるきみが、自主的に彼をここまで案内してきたというのは、どういうことなのかな」
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