十三話
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「これで、全部かな」
ヒースの手が、箱に収まった貴金属をサリヴァンの前に並べた。ピアスや耳飾りが七割、腕輪と指輪、首飾り、髪留めが残りの三割を占めている。ヒースは一つ一つを指差して、サリヴァンに『効果』を説明していった。
「この橙色と水晶のやつは魔力増幅。こっちの水色の丸いのは精神統一系。この黒と赤と青の三つは、ぜんぶ魔除けだとか呪詛そらし。サリーは火の魔法が得意だから、このルビーと磁石とダイアモンドを使った髪留めがいいと思う。水晶とダイヤはなんにでも合うから、数に迷ったらその中から選べばいいよ」
サリヴァンの三白眼が凶悪なほど吊り上がり、箱の中身を睨みつけている。そんなものでは、ビロード張の化粧箱に収められた粒の煌びやかさは損なわれない。やがて手だけが、気圧されたようにすでに耳にぶら下がっている菱形の石をいじった。
「売り物だろ。いいのかよ」
「売り物じゃあないよ。このヒース・クロックフォードが、こんな時もあろうかとサリーに用意したやつだ」
「いや、でも、こんな高価そうなやつ……」
「こんなところで小市民の貧乏性を発揮しないでよ。デザインに留意しないなら、ほしい効果のやつを僕が見繕ってやるから」
ヒースは笑って、いくつかの箱の蓋を締めてひっこめた。『デザインに留意しないなら』とヒースは言ったが、その装飾もそろいのものだ。明らかに一式セットのあつらえである。
「……三十くらいあるんだが、いくらしたんだよ」
「こんなの投資と保険だよ。自分の船を持つと、こういうものにはお金を惜しまなくなるんだ。ちゃんと天然石を加工してあるからね。どれも一級品だよ」
サリヴァンは気まずそうに、三つ四つと指定をしていく。そのうち開き直ったのか、より詳しい効果を聞き出して吟味を重ねた。その様子は、あたかも剣を吟味する武器屋と戦士だ。
交渉がノッてくると、ヒースは化粧箱のほかに、黒い小さなトランクと、そこに詰め込んだ水晶の小瓶も山ほど取り出した。香水瓶のようにも見えるが、手書きのラベルが貼られたそれらは、大量の魔法薬だった。魔法薬といっても様々だ。服用して効果を発揮するものもあれば、投げ割ることが前提の一風変わった火炎瓶のようなものまで。
便利になった現代、一般的な魔法使いは必要最低限の技術しか体得しないものだった。
『魔法戦士』がゴロゴロしていた時代は、半世紀も前に終わっている。そしてサリヴァンは時代錯誤の魔法戦士だった。
『魔法戦士』の戦い方にも様々あるが、彼らの強みはとにかく『手数の多さ』だ。
何もない所から火を取り出し、魔法の剣は刃こぼれ知らず。搦め手、罠、不意打ち、呪詛、幻覚。魔法での戦いは、あらゆる道具を駆使して勝つことを目的としている。体中に便利な道具を装備するのは当たり前。サリヴァンの魔力をたくわえた長髪や、特別な宝石をぶら下げるために耳に開けた穴も、戦いに備えた日頃の準備である。
魔法は技術だ。手順と準備を間違えなければ、魔法は必ず作動する。
万全の備えというには、きっと足りないだろう。しかしサリヴァンは時代錯誤な魔法戦士で、今はそんな時代錯誤な『勇者』が必要な状況だった。
「……十日だ」
ヒースは微笑んだ。
「十日以内に、かならずフェルヴィンに戻ってくる。それまで持ちこたえて」
「ああ。ついでに皇子たちを見つけて待ってるよ」
「………気を付けて」
「エリも。無茶はするなよ」
「無茶はそりゃするさ」
立ち上がりながら、いたずらっぽい口調でヒースは言った。
「僕はこのために航海士になったんだぜ」
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