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第10話 誕生日の魔法石(6)

二週間後、エリーゼはダリウスと共に宮廷へやって来た。

ダリウスからプレゼントされたドレスを身にまとい、桃色の髪も美しく飾り付けている。

いつものステッキは持っているが、それが無ければ、本当にどこかの令嬢のように見えそうだ。

普段よりも華やかな格好のエリーゼに、ダリウスも満足そうだった。


「やはり、エリーゼはこの世で一番麗しいな」


「まったくこの人は……」


そういうダリウスこそ、衣装と髪型を整えて着飾った姿は、いつもの何倍もかっこよくて人目を引く。

こちらが恥ずかしくなるぐらい美しい男を引き連れて会場に入る勇気を何とか振り絞るしかなかった。


「エリーゼ様、お荷物を預かりますよ」


「ありがとうルイスさん。あ、そうだ、ちょっといいですか?」


仕事で使っているトランクをルイスに預けダリウスから離れて、彼に近づく。


「なんでしょうか?」


エリーゼはルイスの耳元にそっと唇を寄せると、こっそりと周りに聞こえないように話す。


「あのね、───────」


「え、いいんですか」


エリーゼの言葉を聞き終えたルイスは驚いている。


「いいんです。それじゃあ、よろしけれお願いしますね」


ルイスへにこやかに手を振っていると、案の定、背後にいるダリウスが不機嫌になる。


「おい、俺の前で普通そういうことするか」


「公爵が思っているようなことは何も無いですよ」


「嫌だ。例えルイスでもあんなに近づかれるのは許せん」


「もう、今日は一日中一緒にいてくれるんですからいいじゃないですか。ほら、エスコートしてくれるんでしょう?」


「……まあいい」


エリーゼの方から腕を絡ませると、ダリウスは満足したように文句は言わなくなった。

自分からしておきながら、公爵がこんなに扱いやすくていいものかと思ってしまう。

ともかく、二人で入場するとダリウスとエリーゼの名前が高らかに呼ばれた。

セラフェン公爵家当主、という言葉に周囲の視線がざっと集まるが、その次の魔法鑑定士というエリーゼの肩書きにさらに注目が集まる。


「大丈夫だ。全員お前の美しさに目を奪われているだけだからな」


「あなたの方だと思うんですけれど……」


こんなに多くの人の視線に晒されたことは今まで無かった。

緊張で少し震えるエリーゼを、ダリウスが冗談を言ってリラックスさせてくれる。


「あの方が魔法鑑定士なのね!」


「なんて綺麗なのかしら……。お人形さんみたいよ」


「素敵ねぇ〜!やっぱり噂通り公爵様ともそういう関係なのかしら」


通りすがりに、令嬢たちの囁く声が聞こえた。

やはりここでもそれを言われるのかと辟易したくなる。


「まずは皇子に挨拶に行くぞ。エリーゼは適当に挨拶するだけでいいから」


アーネスト皇子は、華やかな可愛らしい令嬢たちに囲まれて談笑していた。

ダリウスの姿に気づくと、令嬢たちから離れてこちらへ来てくれる。


「お誕生日おめでとうございます、アーネスト殿下」


全くおめでたいとも思ってなさそうな態度だが、アーネストは気にすることなく嬉しそうだ。


「久しいな、セラフェン公爵か。あなたは社交界を避けているから、来てくれないと思っていたが出席してくれて嬉しいよ。隣の美しい女性は、魔法鑑定士だな」


「お招きいただきありがとうございます。私が、魔法鑑定士のエリーゼ・トワイライトです」


丁寧に挨拶をする。


(女性好きのようだけど、馬鹿に見えないかな……)


事前に聞いていた話の通り、賑やかなのが好きで明るい性格だということはよく分かる。

ダリウス相手にも物怖じせずに話していて、王族らしく凛としているよう。

と、思っていた矢先のことだ。


「しかし……本当に綺麗だな。その桃色の髪も、ガーネットのような赤い瞳も心が奪われてしまいそうだ。ふふっ」


「……ひっ!?」


ぐっとアーネストが近づいてきて、手を握られる。

さっきまでの凛々しい顔はどこへやら、下卑た笑みでエリーゼのことを見ている。


「ははっ、初々しいなぁ。舞踏会は初めてらしいな。どうだ、私が直々に手解きをしてやろうか」


(う、うわー!嫌だー!)


振りほどいて頬をひっぱたいてやりたいが、当然、皇子にそんなことはできなくて、精一杯表情を取り繕うことしか出来ない。

ダリウスがなぜ馬鹿と言ったのかようやく理解した。

とんだ命知らずか馬鹿でもなければこんなことできないだろう。


「殿下。お戯れが過ぎるかと」


思った通り、ダリウスがすぐさまアーネストの腕を掴む。

その恐ろしい形相に、アーネストの喉からひぃと小さく悲鳴が出た。


「そ、そそうだな。ちょっとからかいすぎたようだ、すまないな!は、はははっ」


皇子相手なのでいつものような力ではないだろうが、やっぱり痛かったようでアーネストは完全に腰が引けている。

しっぽを巻くように令嬢たちの中へ逃げていった。

せっかくの誕生日なのになんだか可哀想だなあと思ったが、アーネストの自己責任なのでなんとも言えない。


「ちょっと、魔力溢れてますよ。痛いです」


ダリウスが抑えきれなかった怒りが魔力として溢れて、エリーゼにもちくちく刺さる。


「悪かった。守れなくて」


アーネストに怒っているだけでなく、自分自身に対しても怒っていたようだ。

俯いて悔しそうな顔をしている。


「いいですよ、十分守って貰ってますし!皇族相手では公爵の方こそ手を出しづらいでしょうから」


公爵家の立場で皇子殿下に怪我をさせたとなると、政治上で大問題になるはずだ。

いくら公爵とはいえ許されないだろう。

その上、ダリウスのような武人が力を振るえば、アーネストは一溜りもないだろう。絶対に重症を負うことになる。

エリーゼとしては、あの覇気で十分すぎるぐらい守ってもらったのでもういいのだ。

アーネストが青ざめる様を見ていれば、他の男も手を出せないだろう。

そもそも、アーネストが考えなしだっただけで、ダリウスという存在が隣にいるだけでも安心できるのだ。


ともかく、これ以上変な輩に絡まれることはないだろうと安心した時だった。


「おや、セラフェン公爵ではありませんか!来ていたのですね」


急に声をかけられて振り返ると緑髪の青年がいた。


「メイナードか。相変わらず暇そうだな」


ダリウスの知人のようだ。

軽口を叩いているので、友人関係にあるのだろう。


「ははっ、頑張って仕事を片付けて暇を作ってるんですよ。それより、そちらのお嬢さんは魔法鑑定士さんですよね」


挨拶をしようとすると、それより先にメイナードが口を開く。


「知ってますよ、僕。ようやく、ダリウスの可愛い可愛い妹弟子に会えて嬉しいですねぇ」


セラフェン公爵が夢中の魔法鑑定士、ではなくダリウスの妹弟子の方で知っていたとは。


「こいつとはただの腐れ縁だ」


ダリウスがぼそっと教えてくれた。

なんでも、アカデミーで知り合ったのだと。

ダリウスにも学生時代からの友人がいたのだなぁとしみじみ嬉しく思う。

再会してからというもの、ダリウスが友人と仲良くしている素振りを一切見せないのでちょっと心配していたのだ。


「僕も今日は妹の付き添いで来ているんです。まあ、目を離した隙にどこかへ行ってしまったんですけど。もし会ったら、貴方と歳が近いですし、どうぞ僕の妹とも仲良くしてやってください」


「もちろんです。ありがとうございます」


「さて、僕は妹を探しに行かねばならないのですが、どっちへ行けばいいんでしょうねぇ……」


メイナードはそう言って、人混みのなかへふらふらと消えていく。


「消えたのは妹の方じゃなくてあいつの方だな。いい歳してすぐ迷子になるんだ、あいつ」


「大丈夫でしょうか……」


「さあな」


ダリウスは肩を竦めた。


その後も、様々な人に話しかけられっぱなしで忙しく、当初エリーゼが考えていた、ひっそり壁の花になるという予定にはまったくならなかった。

しかし、この客人の多さから考えるに、アーネスト皇子が社交界での顔が圧倒的に広いというのは本当で、たしかにここで活躍すれば良い宣伝効果は期待できると頷ける。


依頼の魔石鑑定の時間までは、まだ少しある。

エリーゼとダリウスは、バルコニーへ移動して二人きりでようやく落ち着ける空間で一息つく。


「それにしても、アーネスト皇子殿下はなかなかの評判ですね……」


「ああ。本人の性格を矯正しない限り、悪評は消えないだろう」


女好きの浮気者。

顔と財力以外なんの取り柄もない。

職務を放棄して夜な夜な遊んでばかりの皇宮のお荷物。

誕生日パーティーに招かれている客の言うことではないような悪口がいくつも聞こえてきた。

先程エリーゼに手を出そうとしてダリウスを怒らせていた様子を見ていた人々からも、嘲笑されていた。


「兄君は素晴らしい方ですのに、どうしてアーネスト殿下はあんなふうに育ったのでしょうねぇ」


バルコニーを通りすがった数人の令嬢たちから、そんな言葉が聞こえてきて振り返る。


「本当に、アーネスト殿下が第一皇子でなくてよかったですわ……って、こ、公爵様!?」


「まあ!セラフェン公爵様ではありませんこと!」


思いっきりアーネストの悪口を言っていたところを公爵に見られて、相当気が動転したのだろう。

令嬢たちは手早く挨拶をすると、ほほほと誤魔化すように笑いながらそさくさと引き返していった。


「ほらな」


「あはは……」


苦笑い以外何も出来なかった。


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