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憧れと丸焼き

 昔から勇者というものに憧れがあった。

 世界のピンチに駆けつける勇者は僕の中では未だにヒーローだ。

 だからこそ勇者が出て来る本は全て網羅している。

 僕ことラバンは昔はそんな人間だった。

 輝かしい人間を追うことで自分の現実から目を逸らす。

 多分そんな一種の現実逃避だったのだろう。


 現実はそんなに甘くはなかった。

 助けを求めている可愛いヒロインは現実には居ないし国を滅ぼされかけて困っている国王もいない。

 魔王が倒された現在、世界は平穏そのものだ。


 ◆◆◆


「本当につまらない世の中なんだなぁ……」


 僕は思わず教室で溜息を吐く。

 そんな僕の背中を誰かが思いっきり引っ叩いた。

 多分いつものいじめの一環だ。

 人間としても勇者候補としても三流らしい僕は現代勇者育成学校へ入学しても生徒のフラストレーションを受け止める役割しかできない。


「よう零! 元気か〜?」

「能力が何もないのに入学してきたクズは学校史上初ってまた言われてたぞ!」


 僕がこうしていじめを黙って受けている理由は単純明快だ。

 こうして黙っていじめを受けているうちはこの学校に在籍させてやると担任のダカール先生から言われているから。

 ちなみに零というのは僕の才能(ギフテッド)が何もないことと任務用のコードネーム『0』をかけているらしい。

 よく出来ていると初めは感心したものだ。


「またダンマリか。いい加減つまんねぇな」

「なぁアレンの才能(ギフテッド)で零を燃やしてみようぜ!」

「ははは! そりゃいい! というわけで零君、ちょっとだけ俺たちの将来の為に燃えてくれない?」

「嫌に決まってるだろ!」


 僕は恐怖から初めていじめっ子に口をきく。

 でもこれが間違いだった。


「口聞けるならわかんだろ? 俺達には能力を試す場が必要なの」

「そんなことしたら周りが放っておかないと思うけど」

「それはどうだろうなぁ。このクラスで零君を燃やさないほうがいいと思う人は挙手してくださーい!」


 教室には50人近くの人間がいるにも関わらず誰も手をあげることはなかった。

 それどころかアレンを応援する声さえ聞こえてくる。


「というわけだ。この国は民主制を採用してるから多数決は絶対なんだよ。残念だったな!」


 アレンはそういいながら炎を片手に僕に近づいて来る。

 嘘だよな。

 まさか僕はこんなところで死ぬのか……?


「じゃあな! 零! 俺のことは恨んでもらって構わないぜ。最も生きてまた会えればだけどなぁ!!!」


 アレンが片手の炎を僕に押し付ける。

 次の瞬間、僕の視界は赤い炎に包まれていた。

 炎の奥でニタニタと笑うクラスメイト達の顔がとても腹立たしい。

 いつか絶対に復讐してやる!

 僕はそこまで考えたところで熱さで意識を失った。


 ◆◆◆


「ここは何処だろう。僕は……いたっ!」

「無理はなさらないでください。今は全身に包帯を巻いてで治療中ですから」

「あの貴方は?」

「私は聖……いえこの教会の修道女マリーです。貴方がうちの神殿の入り口に捨てられていたのでこうして治療をしている次第です。名前は言えそうですか?」

「名前——思い出せません」

「そうですか。とても酷い目にあったようなのでもしかしたら思い出させないようにしているのかもしれませんね。思い出すまでは是非うちに居てください」


 マリーさんは朗らかな笑顔を僕に向け、そんなことを言ってくれた。

 何故だか少しだけ起きた時に感じていた心のもやが取れた気がする。


 ◆◆◆


「急遽、お父様に連絡を」

「は! して内容は?」

「そうですね。ここは大々的に現代の勇者現るとかでどうですか?」

「それはまた。至急連絡致します」


 付き人はそれだけ言うと急遽、王都へ馬車を走らせていった。


「これでまた世界は争いを求めるでしょう。そうすればきっと……」


 空になった部屋にはぽつりと呟かれたマリーの言葉と歪な笑顔で笑う少女だけが残されていた。

このお話が面白かった方はブックマーク又は広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に面白くなかった方は☆☆☆☆☆を★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです!


最後になりますがこの作品を読んでくださっている皆様に最大限の感謝を!


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