魔王との戦いに疲弊した帝国は、勇者を召喚する。「今更召喚して済まないと言ってももう遅い! 信頼する仲間と共にこの世界を支配して、俺を利用しようとした王の娘は仲間の妻にする!!」
魔王との戦いに疲弊した帝国は、王国に命じ勇者召喚をする。
だが、勇者は魔王との戦いを拒否した。
それに怒った帝国と王国は、勇者に対して拷問をする。
これは、理不尽な転生をされた勇者が、スキルによって自身の世界の信頼出来る仲間を呼び出し、自身に拷問した世界に対し、復讐する物語である。
「ああ、なんておいたわしい」
「あんなに素敵な方々なのに、まるで生贄だ」
「可哀そうに……」
私達は、今、馬車で隣国へ向かっている。
私はこの国の第二皇女、クレア・レインフィールド。
一緒にいるのは、第一皇女、アリア・レインフィールド。
そして、第三皇女ミリア・レインフィールドだ。
私達が隣国へ行く理由、それはこの世界を支配する、神聖エクセリア国へ嫁ぐためだ。
だけど、これは政略結婚と言う言葉すら優しい、実際は人質、生贄、見せしめと言ってもいい。
何せ、私達の世界の宗教では、一夫多妻は禁じられている。
王族ですら、妻は一人なのが当たり前、側妃すら持たない。
さらに、結婚する年齢は男女共に十八歳以上である必要がある。
私とお姉様は十八歳と二十歳、問題ない。
だが、妹のミリアは未だ十歳だ。
普通なら宗教団体総本山から怒りの声が出るはずだが、何も言ってこなかった。
むしろ、お祝いの声明を出したくらいだ。
それほどまでに、神聖エクセリア国は恐ろしい存在なのだ。
神聖エクセリア国は、一つの浮遊大陸と、四つの州に分かれている。
私達が嫁ぐのは、その州の一つを支配する州の代表、通称【州王】だ。
州のトップなのに彼らが自身を王と呼ぶのは、もちろん意味がある。
彼らの上、つまり神聖エクセリア国の真のトップは、自らを神としている。
その者は自身は浮遊大陸に住み、大陸は自身の配下四人に任せているのだ。
神……自らそう名乗るなどおこがましい。
普通ならそう思うだろう。
だが、私達はその者の力を見て来た。
神と言われてもおかしくない、その力を。
そして、私達はその力に全面降伏したのだ……
時は二年前に遡る。
当時世界を支配していたレインフィールド帝国は、突如現れた魔王軍との戦いを何年も続けていた。
今は無き複数の国々と対魔王同盟を結び、協力して戦っていたのだ。
何とか戦線は膠着していたものの、戦いは続いていた。
姉のアリアは自身が持つ癒しの魔法で兵士を癒し、兵士達からは聖女と慕われていた。
私も、自ら前線に立ち、姫騎士と言われ兵士達の戦意高揚の為に頑張っていた。
そんな際に行われたのが、勇者召喚だった。
行われた理由は、小国で貧しい一つの王国――幸い魔王の支配地域と隣接していなかったので武力衝突はしていなかった――が前線の国に送る支援金をずっと支払えなかったために、支援金代わりとして勇者を召喚せよ、と帝王である私達のお父様が命じたからだ。
勇者……それは強力な力を持つといわれる異世界の人間。
かつて勇者召喚が行われたのは、千年以上前らしい。
だから、本当に成功するなんて誰も思っていなかった。
必要なのは、対魔王同盟の為に仕事をした、という事なのだから。
だが、成功してしまった。
それだけならよかった。
だが、戦争参加を拒否した勇者に対し、王国は召喚した勇者に暴行、拷問を行ってしまった。
勇者を自分達の思い通りに動く人形にする為に。
お父様はその事実に気付いていたらしいが、無視してしまった。
異世界の人間、そんな生物は私達の世界の人間の為に戦うべきだ。
召喚してあげたのだから、当然だ。
なのに戦争への参加を拒否するなど、ありえない。
喜び勇んで参加するのが当然なのだ。
お父様はそう言っていた。
誓って言うが、もし私がこの事を知っていれば、止めさせた。
お姉様もそう言っていた。
私達の世界とは関係ない世界から誘拐同然に連れてこられて、しかも戦争に参加しろ?
そんなもの嫌がって当然だ。
そして、勇者の調教が終了し、王国から最前線へ勇者を移送する際に、事件は起こった。
調教のせいでまるで人形のようになっていた勇者が、急に自意識を取り戻し、王城にいた全ての人間、王侯貴族、働いていた人間全てを皆殺しにしてしまったのだ。
どうしてそのような事が出来たのか?
それは、勇者が持つ【スキル】の力だった。
このスキルという物は、私達が使う魔法の完全上位互換と言えるものだった。
例えば、お姉様が使う癒しの力は、他者の傷を癒す事が出来る。
だが、癒す為には魔力を使い、無くなると何も出来ない。
当然だが、一度に複数人あるいは重症の者を癒すと、大きく魔力を消耗する。
だが、スキルは消耗などしない。
どんなに大きな力も、消耗無しで使えるのだ。
そして、勇者が使う能力【ルールブレイカー】。
その力は、常識では起こりえないことを起こしてしまう。
例えば、拷問などしていないのに、拷問を行ったように道具が血にまみれ、拷問官も行った記憶が出来たり。
心を失った人形同然になっていないのに皆がなったものと思ったり。
それから、病気でもないのに勝手に心臓が止まったり。
逆に、必ず老い死ぬ人間を、不老不死にしたり。
浮遊大陸を造ったり……
そのスキルによって王城を支配した勇者は、王国の支配を宣言した。
当然、残っていた王国貴族は反発し、討伐軍を出した。
だが、討伐軍は皆殺しにされた。
その際に最前線で戦ったのは、彼が自ら呼んだ四人の配下。
今は州王と呼ばれる四人だ。
勇者は自らの力で自身の配下を呼び寄せたのだ。
そして、配下四人も当然強力なスキルを持っていた。
こうして討伐軍を壊滅させた勇者は、王国を支配した。
これを聞いた私とお姉様は、お父様に勇者と和解するように提案した。
そもそも、この事態を招いたのは私達の国だ。
それに、勇者一味は恐ろしい力を持っている。
勇者一味の王国支配を認め、我らの同胞として対魔王の協力を仰ごうと。
だが、お父様は聞き入れなかった。
異世界の劣等種族に対し、そんな事出来ないと。
そして、大陸中の全ての国と協力し、勇者一味抹殺へと動き出したのだ。
結果を言えば、それは間違いだった。
討伐軍を出した国々は次々と征服され、その国の貴族は皆殺しにされ、首都は炎上した。
さらに勇者一味は魔王を退治し、魔王が支配していた領地すら自分達の物にした。
こうして多くの領地を支配した勇者は、自らを神とし、支配地域を神聖エクセリア国と名付けた。
これに対し、宗教団体は当然反発したが、教祖含む団体の幹部全員が同時に謎の死を遂げた事で、黙ってしまった。
そして、私達の国以外が征服され、ここでようやくお父様は和平交渉の使者を出した。
文面に謝罪の言葉を入れた手紙を使者を通じて勇者に渡したのだ。
私とお姉様は、この文面には現在の支配地での支配を認め、謝罪、および賠償金の支払いをし、今後は同盟国として協力していくよう依頼する文面が書かれていると思っていた。
事実上の降伏宣言だが、それによって国と民の安寧を守ろうとする物と思っていた。
無論お父様にも確認を取った。
だが、お父様は私達に嘘を言っていた。
手紙の内容は勇者が最初に支配していた王国を勇者の地と認める代わりに、他の土地を返却せよ、という物だった。
当然こんな強気な交渉が認められるはずもない。
当然のごとく使者は惨殺され、帝国と神聖エクセリア国の戦争が始まってしまったが、物の数日で領土の半分が支配された。
もはや滅亡は避けられない。
そんな私達に対して、神聖エクセリア国は降伏を勧めて来た。
だが、その内容は実質植民地化、支配下に入れ、言いなりになれという物だった。
けれど……私達は受け入れた。
お父様は最後まで全国民による玉砕を選択していた。
だが、もうここまで来ては親子の情も関係ない。
こんな事はしたくはなかったが、半ば脅す形で認めさせた。
その頃には神聖エクセリア国の四人の州王の治世に関しての情報が私達の耳に入っており、彼らが民に対し善政を行っていた事も受け入れた理由の一つだ。
私達王族は、民を守る為にこの身を捧げなければならないからだ。
こうしてレインフィールド帝国改めレインフィールド王国は、神聖エクセリア国の植民地となった。
一応自治は認められたものの、毎月の献上金等、様々な制約がされている。
そして……勇者抹殺を命じていたお父様は公開処刑され、今も遺体は国立公園にさらされている。
お母様は私達が嫁ぐ州王とは別の州王の元へ連れていかれた。
その州王は、ちょうど生きたおもちゃが欲しかった、と笑いながらお母様を連れて行った……
ここまでなら、まだよかった。
私達は身勝手にも勇者召喚を行い、戦争参加を要請し、断られると拷問をして無理強いさせようとした世界の人間だ。
そして、私達姉妹は父を止められる立場にいながら家族の情を優先してしまった人間だ。
父を諫められなかった私達にも責任がある。
だが……
神聖エクセリア国は、私達の国が植民地になると、私達を大切なモノを奪っていった。
一つはもちろん宗教だ。
私達が崇めていた宗教の教えはことごとく無視された。
私達のような一夫多妻や、結婚可能年齢の破棄を始めとした様々な戒律の無視。
同時に世界中で行っていた神を祀る祭りの禁止が通達された。
一応、個人で神を崇める事は禁止されていないが、集団で行う神を崇める儀式や祭りは禁止された。
祈祷所も破壊され、残っているのは総本山だけだ。
そして、文化も奪われた。
今まで何百年にも渡って使われていた共通通貨が破棄され、新しく鋳造された通貨が使用される事になった。
数年の内に、今使われている通貨は使用不可になるそうだ。
そして、文字も奪われた。
共通文字も、段階を追って使用不可にするそうだ。
既に、文字を教える場所では、使われていた文字を教える事が禁じられている。
私達が幼い頃から知っていた文字は、やがて過去の遺物となるだろう。
このようにして、私達の日常や文化の多くが奪われた。
そして、反発する人間を次から次へと強制労働所へ連れて行った。
強制労働所の様子は勇者のスキルで時々空に映されている。
最低限度の食事しか与えられずに、大変な肉体労働をさせられる様子を……
これらのほとんどは勇者の指示によって行われた。
……
確かに州王は民に対して善政を敷いている。
彼らは勇者の決めた事に歯向かう者や武力をもって反抗する者には容赦しないが、そうでない者には寛容だ。
彼らが支配を初めて早半年程が経つが、彼らの支配地では、餓死者はいなくなったそうだ。
魔王軍との戦い以前にも、そんな事はなかった。
それに、頻繁に民の声を聴き、可能な限りそれに応えている。
歯向かう者といっても、勇者が決めた法以外に対する反発意見等は、王によって限度の違いはあるが、むしろ積極的に聞いているぐらいだ。
だから、彼らが行っているのが善政か悪政かといえば、善政に決まっているだろう。
だが、あいつらは私達の大切なモノを奪っていったのだ。
あいつらは異世界の人間だから、私達が守ってきた大切な事を何の躊躇もなく捨てて行ったのだ。
そして現在、勇者改め神から、私達に対して州王に嫁ぐよう命じられた。
私達が嫁ぐ州王は、私達帝国との戦争を指揮していた人間だ。
お父様の処刑を命じた人間だ。
お姉様は、延期になっていた婚約者との結婚を破棄された。
国民からは、お似合いの二人だ、と言われた二人。
両想いだった二人……
お義兄様となるはずだった人は、気丈に振舞っていたが、誰もいない所で泣いているのを見てしまった。
私も、婚約者との婚約を破棄された。
共に戦場で戦い、互いに背中を預けた戦友……
死ぬ時は一緒と誓いあった……
私は彼との未来を疑う事はなかったのに……
彼もまた、悔しさで涙を流していた。
そして、妹のミリアは……
まだ十歳になったばかりの妹は、泣きじゃくっていた。
お父様……お母様……と言いながら、お姉様に抱き着いている。
そして、国は……
新たな王となったのは、まだ十二歳の私の弟だ。
実際の政務を行うのは、貴族達になるだろう。
国は上手く回ってくれるだろうか……
お姉様はミリアを抱きしめながら、頭を撫でている。
気丈に振舞っているが、今にも泣きそうだ。
きっと私も、そんな顔をしているのだろう……
こうして私達は今、夫になる州王の前に並んでいる。
彼と会うのは、お父様の処刑の日以来だ。
ほんの数か月前なのに、もう何年も前のような気がする。
お姉様は、もう覚悟を決めているのか、おとなしく首を垂れている。
未来の夫に対する顔つきをしている。
でも、妹の私にはわかる。
ただ、それっぽい顔をしているだけだ。
演技をしているだけだ。
仮面をかぶり、彼の良き妻となるつもりだろう。
そうなる事で、少しでも夫の心証をよくするつもりだ。
きっとお姉様は、一生心から笑わないだろう。
ミリアは、泣いている。
一応、お姉様から言われているので首を垂れているが、泣き声は謁見の間全体に広まっている。
私達の大切な妹であるミリアには、幸せになってほしい。
だけど、この環境で幸せになれるのだろうか。
そして私は、お姉様と同じようにおとなしく首を垂れているが、神を殺す事ばかり考えていた。
神は現在浮遊大陸にいる為、私達が会う事は出来ない。
でも、州王は別だ。
州王なら神に会う事もあるだろう。
そして、州王の妻なら、いずれ会う機会もあるはずだ。
そして……その時、私は絶対に神を殺してやる。
お楽しみいただけましたでしょうか?
この作品、読者様からのご意見でいろいろ指摘されました。
しかも、納得のご指摘。
正直落ち込みました。
今回出て来たスキル【ルールブレイカー】は、いわゆる「僕が考えた最強の能力」です。
強すぎてつまらないので、嫁ぎ先は部下にしました。
よろしければ、ご意見ご感想、レビュー以外にも、誤字脱字やおかしい箇所を指摘していただけると幸いです。星での評価もお願いいたします。