6、入学、そして竜姫との出会い
勇者養成学園の入学式は入寮してから数日後に大聖堂で執り行われた。一応荘厳な雰囲気に包まれてはいたが、その内容は割と淡白なものだった。
適当に整列された新入生たちの前でフランが素っ気無い挨拶をしてそれで終わり。期待されるのは卒業生、即ち勇者たちなので新入生に対してはそんなものなのだろう。
「ヤバイよルーくん、何故か知らないけど私浮いているみたい……」
「みたいじゃなくて浮いています」
何事もなく入学式が終わり、百人以上は居る新入生たちはそれぞれ割り当てられた教室に入って初めてのクラスメイトたちと自己紹介も兼ねた雑談を楽しんでいる。
一クラス三十人の中、すでにいくつかのグループが完成しており、完全に二人で取り残されている状況だ。
「やばいよー、友達百人出来ないよー……」
「貴女は何をしにここに来たのですか……。その前に、リィンさんって人見知りするのですね。少し意外でした」
「知っていると思うけど私すっごい田舎育ちでさー。同年代の友達とか全然居なかったからどうすればいいか困っているんだよねー。向こうから話し掛けて来てくれたら何とかなるんだけど、どうして誰も私と話したがらないんだろう。何が原因かな?」
「では、まずボクとベタベタすることをやめましょう。恐らくそれが原因です」
「え、どうして?」
「……貴女が入学式からずっとボクを離さないせいで、周囲に余計な誤解を与えています。そのせいで話しかけたくても近寄りがたいのでしょう」
「どういうこと?」
周囲の会話に聞き耳を立ててみる。様々な雑談が入り混じっている中で、こちらのことを話題にしているであろう会話を探し当てる。
『ねぇねぇ、あの二人、式の時からずっと一緒にいるよね?』
『うんうん。今もピッタリくっ付いているし、やっぱりそういう関係なのかなー』
『どっちも美形だしお似合いだよね! あー気になる。色々聞いてみたいっ!』
『やめなよ、完全に二人の世界が出来上がっているんだから邪魔しちゃ悪いって』
『美男美女カップル……。はぁー、そんなの創作でしか見たことないよー。羨ましいなぁ』
姦しい雑音から、そんな内容の会話が聞こえてくる。そこでリィンはようやく原因が理解できた。
「えっとつまり、私たちが美人だから話しかけにくいってことか。いやぁ、ルーくんはともかく私まで美人って言われると照れちゃうねー」
「違います。そこではありません。今の会話でどうしてそっちに食いつくのですか……」
「じゃあどういうことなの?」
「どうって、それはボクとリィンさんが、その……」
珍しく言葉を詰まらせるルグレイ。結局原因が何なのかわからないままだ。
「と、とにかく、あまりボクに構わないで下さい。仕事柄、変に目立つのは都合が悪いのです。良いですね?」
「ルーくんがそう言うならそうするけど、でもこのままじゃ二人で孤立しちゃうよー」
「……出遅れてしまったのはもう仕方がありません。リィンさんの方からアプローチしていきましょう。人見知りするのならもう出来上がっているグループではなく、こちらと同じように少人数或いは一人でいる人に絞って話しかけてみて下さい」
「おーなんと的確なアドバイス。ありがとうルーくん!」
賑やかな教室を見渡す。やはり殆どが既にグループになっていて、なかなか条件に適合する人は見つからない。
直感的に、今の段階友達が出来なければこの先ずっと出来ない気がする。焦るように隈なく探す。
そんな中で、一人教室の隅で大人しくしている赤い髪の女性を発見した。
「一人寂しそうな美人さん発見。ちょっと行ってくるね」
「どうぞご自由に……って待って下さいリィンさんその人は!?」
ルグレイが何か言いかけたような気がしたが、気にせず赤毛の女性の前に駆け寄る。
「こんにちは!」
「え!? こ、こん、にちは……?」
いきなり話しかけられたことに驚いたのか、赤い長髪の女性は目を丸くしていた。
背は高めでスタイルが良い。他の生徒とは違い身なりが華やかで、軍服のようにも見えるが本人のスタイルの良さと豊満な胸から来る女性らしさがその堅苦しさを跳ね除けている。顔立ちも凛々しく、どことなく高貴な印象から姫騎士という言葉が相応しい。
「……何、アンタ?」
こちらを訝しむように視線を這わせてくる。しかし、警戒こそはしているが心底嫌がっている、という様子ではないのは声のトーンから伺える。
「私はリィン・ダージィ。よろしくね。貴女名前は?」
「……この私に名を尋ねる者が居るなんて驚きね。まぁ、一年目だし、アンタみたいな程度の低い者がいてもおかしくはないわね」
「え、もしかして貴女って有名なの?」
「仕方ないわね。けど、物怖じせず私の前に立った気概は買おうじゃない。良いわ、特別に教えてあげる。アシェリア・グランヴァニラ。それが私の名よ!!」
さぁ恐れ慄き平伏すがいい、とでも言わんばかりに高らかに語る赤毛の女性アシェリア。どことなく声が弾んでいる様に聞こえるのは気のせいだろうか。
「うーん……聞いたこと無いかなぁ」
「なっ!? アンタ、本気で言っているとしたらどれだけ世間知らずなのよ!?」
本気で驚かれる。しかし実際聞き覚えがないのだから仕方がない。そんなに有名な人なのだろうか。
「無礼をどうかお許し下さい殿下。この者は辺境育ち故、世間に大変疎いのです」
お互い困っているところにルグレイが慌てて割って入り、アシェリアに膝をついて頭を垂れる。リィンには何が起きているのかさっぱりわからない。ルグレイの態度からしてとても身分の高い人だということは何となくわかったが、あまりに情報不足だ。
「えーっと、ルーくん?」
「その様子では本当に何も知らないようですね。この方はアシェリア・グランヴァニラ殿下。セイローン皇国の第三皇女です」
「皇女って、え、本物のお姫様ってこと!?」
貴族出身もそれなりに居るとは聞いていたが皇族まで入学していたとは予想外だ。教室でずっと一人で居たのにも説明がつく。普通は皇族の人間に気軽に話せるわけがない。
何故大国の皇女が勇者になろうとしているのか、という疑問は一度置いておく。勇者を志す理由は千差万別。きっと何か事情があるのだろう。
「許す。けどここは勇者養成学園よ。皇族だろうと貴族だろうと一度門をくぐれば全て平等に扱われると聞くわ。そんな堅くならないでくれない?」
「ご慈悲、心より感謝申し上げます殿下。しかし、堅くなるなと申されましても御身は第三皇女。例え学園が平等に扱おうとも、私の忠誠は変わりありません」
「忠誠……? 何アンタ、私の国出身なの? その様子を察するに平民出ではないみたいね。名を名乗りなさい」
「申し遅れました。お初にお目にかかります、ルグレイ・ヴェルガと申します」
「ヴェルガ……随分古い名ね。確か前皇帝の代で途絶えたと教わったけど、それは?」
「若輩者ではありますが家督は今私にあります。ただ途絶えかけたのも事実ですので殿下の認識も間違いではありません」
「そう、それはご苦労様。勇者を志すのは失われた地位を取り戻すってわけ。殊勝なことね」
「……恐縮です」
「あのー、何の話をしているのかさっぱりなんですけど?」
知らない話がどんどん進んでいくのに堪らず割って入る。このままではリィン一人取り残されてしまう。
「ていうかルーくんいつにも増して堅苦しすぎだよ。アシェリーも堅くなるなって言っているんだからさー」
「ア、アシェリー? 私のこと?」
「リィンさん!! また貴女は勝手に変な呼び名を……!!」
「別に変じゃないでしょ? 級友として親しみを込めて、だよ」
「相手を選んで下さい。さっきも言ったようにこのお方は皇女殿下で――」
「……別に構わないわよ?」
ルグレイの慌てた言葉を遮るアシェリア。どことなく嬉しそうなのは気のせいではない。
「下々の者がどのように呼ぼうが私は私よ。それに、下々の者は近しい間柄の者をあだ名で呼ぶと聞いたことがあるわ。この学園に来た以上そういうことにも慣れておかないとね」
「殿下がそうおっしゃるのでしたら……」
「ルグレイ。今の私は第三皇女ではなく一人の生徒に過ぎないわ。 アンタもリィンと同じように砕けて話しなさいよ」
「ぜ、善処します」
「よろしくねアシェリー」
「ええ、よろしく。ところで、アンタたちはどういう関係なの?」
「どういう関係……えーっと……」
勇者と監視官です、と答えそうになったところをなんとか飲み込む。間違ってもその真実だけは伝えられない。
不自然に捉えられるだろうが、二人で一旦離れて小声で耳打ちし合う。
「ルーくん、この場合どう答えればいいのかな?」
「迂闊でした。リィンさんがここまでベタベタしてくるのは予想外でしたのでそれらしい言い訳を用意していません。困りました」
「えー私のせいなの?」
「だからあれ程ボクのことは無視して下さいって言ったんですよ。嘘でもいいので余計な誤解を与えないような辻褄の合うことを言っておくしかありません」
「なかなか難しいこと言うね。でもわかった。やってみる」
秘密の相談を終え、再びアシェリアの前に立つ。向こうは明らかに不審がっているように見えた。即答できなかったのが悔やまれる。
「一言では言えないけど、ずっと一緒に居なければならない約束がある関係、かな」
「それって、つまり……」
「ちょっ!? どうして変に含みのある言い方をするのですか!?」
「え、何か間違っていたかな? 一応隠すところは隠したつもりだけど」
何が悪かったのかわからないまま、会話を聞いていたであろう教室内の生徒達が一斉に騒ぎ出す。
『やっぱりそういう関係だったんだ!!』
『しかも将来まで誓い合っているとか!?』
『あんな美人と恋人とか羨ましすぎるぜ……』
『ああ……だが男の方がそれに釣り合いが取れちまうくらいの美形だから張り合う気すら起きねぇぞ……』
『並んでいて絵になるもんねー。何故神様はこうも残酷なんだろ?』
『オレは男の方でもイケるぞ』
女子生徒だけでなく男子生徒までもがこちらを話題にして盛り上がっている。そこでようやくリィンは自分の失態に理解した。そして今までどうルグレイに接してきたか、それを見ていた周りはどういう感想を持つのか、色々な事が脳内に浮かび上がってくる。
「あ、あはは。どうしようルーくん」
「もう完全に手遅れです。ボクはもう知りませんからね」
わかってしまってからは顔が熱い。頼みのルグレイはもう打つ手無しと呆れ返っていた。
「あー、そういうこと。じゃあ私もアンタたちの邪魔はなるべくしないようにするわ」
「ま、待って違うの!! アシェリーや皆が思っているような関係なんかじゃないから!!」
「じゃあどういう関係なの?」
「ええっと、その、だから、ええっと……」
必死で言い訳を脳内で作成するが恐らく何れも役に立たない。真実を伝えないまま誤解を解くのは本当に難しい。
ルグレイはもう諦めたのかフォローに入ることすらしない。この局面を乗り越えるにはリィンだけでは既に不可能なので、これはもうどうしようもない。
「はーい、みんな盛り上がっているところ悪いけど適当に席について下さいねー」
混沌としてきた教室の扉が開かれ、一人の女性が中に入ってきた。茶色い三つ編みに大きな眼鏡が特徴で、それ以外は何とも地味な女性だ。
真っ直ぐ教壇の方へ向かって歩いていくのを見るに、この学園に勤める教師だと理解できる。
先程まで騒いでいたことが嘘だったかのように教室内は静まり返り、各々が適当に席に着く。その様子に驚き、少し遅れたタイミングでルグレイの横に座る。逆隣にはアシェリアが腰を掛けている。教室の隅で話していた為、教壇から一番遠い位置となってしまった。
「どうもー。今日からあなた達の教官を任されることになりました、ユヴァ・ミルキスと言いますー。新米教官ですがこれからよろしくお願いしますねー」
眼鏡の女性、ユヴァは気の抜けそうな程ゆっくりとした口調で自己紹介し、ぺこりと頭を下げた。物凄くのんびりとした人のようだ。
「えーと、今年は大きな問題がいきなりありましたねー。みなさんもよーく知っているとは思いますが、なんと入学前に祝福されてしまった新入生がいるとかー」
唐突に出た自分のことに一瞬だけ動揺する。
リィンが勇者だと知る者はごく一部。ユヴァは知らないはずだ。首筋の刻印はフランからもらったマフラーで隠してある。だから大丈夫だと自分に言い聞かせて落ち着かせる。
「余程凄い力を持った人なんでしょうねー。みなさんもその人に負けないように、頑張りましょうねー」
おー、と一人教壇の上で意気込むユヴァ。なんというか、変わった人のようだ。この様子では彼女にバレることは無さそうだ。
「ではまずこの学園の説明からしますねー」
ユヴァの前に魔法陣が浮かび上がり、その上に学園全体を縮小した半透明の模型のようなものが現れる。
「ある程度はみなさん知っていると思いますので、校則だとか卒業条件だとかは省きますねー。ええっと、現在皆さんは第八学舎の一年教室に居ます。一年目はここで過ごしもらいますねー」
空中に浮かぶ半透明の模型を回転させ、数十棟あるうちの一部分を拡大し場所を教える。
「次に各施設を紹介しますー。この学園、本当に色々あるのでみなさん全員が関わるであろう所だけを掻い摘んで紹介ますねー。まずは実戦訓練場ですー」
半透明な模型を回し、学園内の屋外施設を指し示す。
「実戦訓練場は文字通り、実戦を想定した訓練を行う場所ですー。平原、森林、渓谷など様々な地形を用意してありますー。授業で使用するのは勿論、常に開放状態なので個人的に鍛錬するのに使用しても結構ですー。ただ、とにかく広い上に訓練用に魔物を放っていますので気を付けて下さいねー。続いてこっちは魔導図書館ですー。世界最大規模の図書館で一般的な書物からかなりマニアックな魔道書まで揃っていますので気になる人はぜひどうぞー。ええっと、次はー」
目まぐるしくクルクルと模型を回転させて説明を続ける。掻い摘んで説明しているつもりなのだろうが、施設が多過ぎるのか終わる気配が無い。
「――で、最後に闘技場ですー。ここでは定期的に行われる闘技大会に使われることが多いですねー」
ようやく最後の施設紹介。示された場所は円形状の石造建築物。中央に広い空間がありそれを囲むように観客席があるその様は戦いを見せものにする場所に相応しい所だ。
「闘技大会では優秀な成績を収めると結構なポイントが貰えるので、腕に覚えがある人は奮って参加してみて下さいねー」
『ポイントって何だ?』
急に出た聞きなれない単語にどこからか疑問の声が溢れてくる。恐らくこの場の全員が同じことを思っただろう。
「あーすみません。その話がまだでしたねー」
忘れるところでしたー、と付け足し手を叩いて目の前に展開していた模型を閉じる。
「ポイントとはこの学園内で使えるお金みたいなものですねー。この学園では何をするにもポイントが必要です。そしてポイントの数がそのまま当人の成績につながりますー」
『成績って?』
「はい。生徒の成績は学園に納めたポイントの数で決まりますー。ちなみに進級するにもノルマがありましてー、一年目は百万ポイントを年内に納める必要があります。できなかった人はそのまま退学なので注意して下さいねー。ポイントは入学式で配られた生徒手帳で確認できますー」
ポイントというよくわからないものが莫大な数必要らしい。百万ポイントという数字がどれほどのものかはわからないが、ポイントが通貨代わりだというのならかなり恐ろしい。
「ポイントは普通に授業を受けても貯まりますが、それだけでは百万には到達しません。そこで先程紹介した闘技大会やクエストです。大概の生徒はそこで稼ぎますねー」
クエスト。また初めて出る単語だ。
「えっと、クエストっていうのは、民間から寄せられる依頼、または協会からの任務といったところですかねー。その全てにはポイントの報酬が付いていますので、基本はそれで稼ぐって感じですー。受注方法は先程の施設紹介で教えた管理棟の一階にクエスト管理事務所があるので、詳しいことはそっちで聞いてみて下さいねー」
進級するだけでも挫折する者が出る、というのはポイントを稼ぐ難しさからだろうか。百万という数字に到達するには、一体どれほどの数のクエストをこなせばいいのか今のところ見当つかないが想像以上に厳しそうだ。
「まぁ、基本は好きな授業に出つつ、空いた時間にクエストに行くーって感じですかねー」
『あのー、授業の参加って任意なんすかー?』
「勿論強制しませんよー。だって、魔力の因子が無いのに魔法を習ってもほぼ無駄じゃないですか? 自分に必要だと思った授業だけ参加すれば良いのですー。ただ、百万ポイントを納めるのは絶対なので、よーく考えて一年のスケジュールを組んで下さいねー」
どうやらこの学園には決められたスケジュールは無く、自分で考えて決めていくようだ。
絶対条件が年内で百万ポイント。達成するにはクエストで稼ぐしかないが強くなるには授業にも参加しなければならない。
そしてポイントそのものはお金の代わり。学園で何をするにもポイントが必要だというのなら生活する上で消費する分も考えながら百万ポイントを目指さなければならない。
これは緻密なスケジューリングが問われてくる。一日たりとも無駄にはできない。
リィンは協会の指示で三年生までの修練を終えることを義務付けられているので強制退学はないだろうが、延々と一年生と繰り返すのは流石に心が折れる。特別だと思わず皆と同じように真剣に行動を考えなければならない。
「……さて、私からは以上ですー。初日は授業も無いので各自好きに過ごして下さいー。では、百万目指して頑張ろー」
おー、とまた一人だけで意気込んで、ユヴァはゆっくりとした歩きで教室から出て行ってしまった。どこまでも掴みどころのないマイペースな人だ。
教官が退出したことで教室内の引き締まった空気がすぐに元の状態へと和らいだ。
だがそれも束の間。それぞれが今は何をするべきかを冷静に判断して、大半は教室を出ていってしまった。ユヴァの言葉の通りならば今日の残りの時間すらも無駄にはできない。そう考えたのだろう。
「私たちはどうしようか?」
「そうですね……説明された施設で気になるところはありましたか?」
「うーん特には無いかなー。強いて言えば食堂?」
「はぁ……では管理棟に行きましょうか。クエスト管理事務所でクエストがどんなものかを下見します。もし受けられそうなものがあれば、日没までまだ時間があるので挑戦してみましょう。何をするにもポイントがいるのなら時間があるときは積極的に稼ぎに行きます」
「おー流石ルーくん。そういえばポイントってどこでみるんだっけ?」
「生徒手帳で確認できると言っていましたが……なる程、そういう仕掛けですか」
「なになにー?」
ポケットに入れたままにしてある生徒手帳を取り出す。開いてみると、自分の名前と所属している教室など色々な個人情報が書かれていた。
「特殊な魔道具で出来ているようです。これは恐らくポイントが変動したら自動で書き変わる仕掛けのようですね。今のポイントは千ポイント、ですか。通貨代わりになるのなら、ここの相場はわかりませんがやはり初期ポイントだけでは心許無いですね」
「よし、じゃあさっそく稼ぎに行こう! ところで、アシェリーはどうするの?」
教室に残っていたのはリィンとルグレイだけではない。アシェリアもまた教室に残ったままだった。
「そうね。私もこの空き時間を利用してクエストとやらの下見に行こうかと思っているわ」
「そっか、お互い頑張ろうね。それじゃ!」
アシェリアもアシェリアでちゃんと次のことを考えているようだ。余計な心配だったのかもしれない。
「え、ちょ、待ちなさいっ!!」
ルグレイの手を取って教室から出ようとしたところを大声で呼び止められる。
「ど、どうしたのアシェリー?」
「あ、いや、その……」
自分で出した大声に自分で驚いて、その気恥ずかしさからかアシェリアの顔は赤い。
「……おほん。せ、せっかくだし私も一緒に行ってあげようかと思ったのよ。クエストをこなすのなら頭数が多い方が効率も良いでしょ?」
「えーっと、それはつまりアシェリーも一緒に来るってこと?」
「ふふ、今回だけよ。光栄に思いなさい!!」
「それは願ってもない話ですが……殿下程の武の才の前では私……ボク達など足手纏いになる可能性がありますね」
「え、アシェリーってすっごい強かったりするの?」
「殿下の武勇はセイローン皇国内で最強の類で、その強さから「竜姫」の異名を持ちます。恐らくですが全生徒の中でも右に出る者は居ないかと」
「へぇー! ルーくんがそこまで言うなら凄いんだね!」
「国を背負う立場に在る人間なのよ。その手で最強を証明できずして何が皇女よ」
ふふん、とアシェリアはその豊満な胸を張りながら話す。腕前は自他共に認める程のものらしい。そんな凄い人が味方をしてくれるのならこれ程心強いものはないだろう。
リィンはアシェリアの手を取り再び駆け出す。
「じゃ、早く行こうアシェリー!」
「きゃっ!? ひ、引っ張らないでよ!?」
「リィンさん管理棟はそっちじゃなくてこっちですよ!!」
喧騒が静まり返った教室を三人で後にして、学舎の廊下を賑わせながら管理棟を目指して駆け足で進んでいった。




