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10、現況把握

「まずお二方には現在の被害状況を確認を」


 そう言うと参謀役を務めるダーレンスは机の上に広げられたダラムドレス周辺の地図を指差す。見ると幾つかの村々に印が付けられていた。


「盗賊団はこの西方大陸の玄関であるダラムドレス周辺の地域を手広く荒らし回っています。奴らは金品や食料、ではなく、人間を優先して奪っていくのです」


「物ではなく人間を、ですか?」


「はい。それも狙って若い男女を」


 人を攫う盗賊。何とも恐ろしい話であり、絶対に許せない悪業だ。

 しかも今回はただの人攫いではない。裏で糸を引いているのは魔族。そこにどんな悍ましい目的があるのか、人間の価値観では計り知れない。


「あの、今までどれぐらいの人が犠牲になっているんですか?」


 恐る恐るリィンは尋ねる。もし甚大な被害が出ているのだとすれば事態は一刻も争う。


 するとダーレンスは神妙な面持ちのまま答えた。


「……連れ去られた人々の生死は依然として不明なままなのですが、実は自力で帰還してきた者らも多く居るのですよ。ですから、死者数という意味では現状ゼロなのです」


「え? ぜ、ゼロ……? え、どういうこと?」


 死亡者が今のところ確認できている中では居ないということに安堵を覚えるが、その異常性がよりリィンを混乱させる。

 魔族は折角連れ去った人間をそのまま返しているのだ。やっていることの意味がわからない。


「連中の目的は謎ですが、それでも帰ってきていない人々が居るというのも事実。帰還を果たした者たちからの情報によると、奴らは見た目が特に優れた人間だけを選んで後は放置してしまうのだとか……」


「見た目、ですか。……通常の人攫いを目的とした盗賊なら良い容姿の人間を選んで売るという分かり易い理由が見えますが、今回の件では疑問を覚えますね」


「監視官殿の仰る通りです。普通の盗賊ならばまだしも、魔族がそれをする理由がありません。金銭など奴らにとっては無用なはず。人間を食料として見ているのなら折角攫った人間を何もせずに帰すのもまたおかしな話。……だから協会には急ぎではないと判断され放置されていたのでしょうね」


 目的や理由も不明。甚大な被害を齎しているわけもない。書面だけで見られれば協会がそう判断づけてしまうのも仕方ない話かもしれない。現状、最前線以外でも魔族による問題は人類領内でもあちこちで起きている。勇者の数が限られる以上、まず被害が大きい箇所を優先されてしまうのは当然だ。


 だが、だからと言って無視しても良い問題ではない。現に戻ってきていない人たちだって居るのだ。何としてでも解決しなくてはならない。


「敵の規模はどのぐらいですか?」


「背後までの総数は分かりませんが実際に遭遇した者からの報告によると、実働隊は三体の魔族のようです」


「さ、三体も……」


 一体だけでも人類にとっては大きな脅威であるというのに、それが三体ともなれば一気に勝目がなくなる。しかもその後ろにもまだ他に魔族が居るかもしれないとなる、とどうしようもない。


「……なる程。もっと敵の詳細が知りたいですね。その実際に遭遇したという方は今どちらに居るのですか?」


 強い不安と恐怖感を覚えるリィンとは別に、ルグレイは動じず冷静に勝ち筋を探ろうとしている。彼女の逞しさには敬意を感じると共に、またしても勇者あるまじき心持となってしまった己にリィンは恥じた。


 ――私が弱気になってどうする。私は、勇者なんだ。


「申し訳ありません。その者は現在治療中なのです。衰弱している為、起きて会話をするというのは難しいかと。我々も少しずつしか話ができていないです」


「そうですか……。いえ、普通に考えれば当然の話でしたね。魔族と遭遇して生還しているだけでも奇跡だというのに……。ちなみにその方はどのような負傷を?」


「外傷らしい外傷は全く。ただ魔力や生命力を著しく失われています。もう暫く療養すれば回復できるとは思いますが」


「魔力と生命力を……? まさか、エナジードレイン……?」


 エナジードレイン。名の通り、他者の力を奪って自らの糧にする悪辣なる異能。これはある特定の種が最も得意とする。

 それこそ――


「ええ。我々は敵魔族が、吸血鬼であると判断しています」

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