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2、始まりの祝福

「ギリギリセーフ、かな?」


 果てしなく長かった道を駆け抜けたその先。儀式が行われているとされる大聖堂へ辿り着いた。

 リィンの立つ場所は大聖堂上部のバルコニー。見学にはもってこいの場所である。

 下を覗くと、まさに儀式の真っ最中といった様子だ。美しく幻想的なステンドガラスの下、大きな祭壇の前に多くの勇者候補者たちが整列し、膝をついて祈りを捧げる姿勢のまま、自らの選定の時を待っていた。


 そして彼らの視線の先、祭壇の上に顕現しているものこそ――


「あれが、選定の女神様……」


 息を呑む程に美しい姿だった。天上の造形美とでも言うのだろうか。宝石のような青い瞳、純白の髪に肌。それを包むような、柔らかな羽衣を纏って宙に佇むその姿はまさしく、この世のどこにも存在しない存在だ。


 荘厳な雰囲気と圧倒的な緊張感の中、選定が行われていく。

 選ばれた者は女神の前に立ち、騎士が示す忠誠の誓いのような姿勢をとり、そこで祝福を授かる。


 数多の候補生の中から次々と勇者が誕生していくが、七人目が祝福を受けたその段階で女神の選定が止まってしまった。


「もう、終わり……?」


 どうやら、今回は七人だけのようだ。

 たった七人。まだ百人以上は居るのに、選ばれたのはたった七人。


 そこでリィンは改めて勇者への道の厳しさを目の当たりにした。選定の女神は人の才覚と魂を見極めることができると聞く。だから女神の選定には一切の間違いがない。

 これが現実だ。自分よりもずっと強いはずの人たちですらこの有様だ。


 先程まで胸にあった大きな期待感が徐々に薄れていく。

 幸い、これで選ばれなかったからもう勇者にはなれない、という訳ではない。望む限り何年でも学園に在籍し、年に一度しかない儀式に参加することはできるのだ。


 ――才覚の無い私はどうだろう。あの試験官が言っていたように、こじ開けた門の先はやはり地獄が続くのかな。


 選定を受けられなかった候補者たちをみると、それぞれ表情や態度に出てはいないが、力無き自らを呪うかのような悔恨の念を嫌でも感じ取れてしまう。更によく見ると年齢がバラバラだ。中には先程の試験官と同じぐらいの年齢と思われる者すらいる。


 選ばれぬまま時を重ね、肉体はとうに全盛期を越え衰えるのみ。だというのに夢に縛られ、意地のみが心を支えている。

 勇者を志す理由は千差万別。あそこまで勇者に拘るのはきっと他人には想像もできないような理由があるのだろう。


 しかし、あれでは夢に殺される。

 気付けば、いつのまにか拳を握っていた。


 ――あれはもしかしたら、未来の私なのかもしれない。


 そんな考えを必死で振り払うように頭を振る。


「地獄……か。そんなの、わかっていたことだよ。それすらも、超えていくんだ、私は」


 ――お父さんのような、立派な勇者になる――


 いつかの誓いを思い出す。父の背中はまだ、あまりにも遠い。


「こんにちは、素敵なお嬢さん」


「へっ?」


 突然後ろから誰かに話しかけられ、思わず間の抜けた声が出る。考え事に集中していたせいで、バルコニーに他の誰かが来ていたことに気付かなかった。


「あ、えっと、こんにちは」


 かなり遅れた何ともぎこちないタイミングで挨拶を返しながら、声の主の方へ振り返る。そこには綺麗な女性が立っていた。


 息を呑む程に美しい姿だった。天上の造形美とでも言うのだろうか。宝石のような青い瞳、純白の髪に肌。それを包むような、柔らかな羽衣を纏って佇むその姿はまさしく――


「――え?」


 選定の女神その人が、リィンのすぐ後ろに立っていた。


「えええええええええええええええええええええぇっ!?」


「声が大きい。すぐバレちゃうでしょ?」


「い、いやいやいやいや!? な、何を言っているんですか!? というかなんでここに!?」


 軽いパニックを起こす。

 リィンだけではない。儀式の最中だった者たちは突如姿を目の前から消した女神に対してそれ以上にパニックになっていた。


「ちょ、まずいですよ!! 早く祭壇に戻ってくだ――」


「静かに」


 不意に唇に指を当てられる。線の細い柔らかな感覚に、言葉を封じられる。女神の体は半透明に透けているが触れることはできるようだ。

 そして改めて真正面から見た女神の姿に、ただ見蕩れる。


「いい子ね。貴女、最初から儀式には居なかったようだけど、候補者じゃないのかしら?」


「あ、えっと違います。私は、今日この学園の入学試験を受けた者で、合格できたからついでに選定の儀も見ていけと言われてその!」


 自分でも何を言っているかわからない程、しどろもどろに答える。

 さっきから心臓の鼓動が異常だ。目の前にかの選定の女神が居て更に言葉を交わしているのだから無理もない。


「そんなに緊張しないで。ねぇ、貴女の名前を教えてくれないかしら?」


「は、はい! 私はリィン・ダージィでしゅ!」


 噛んだ。更に鼓動が高まる。


「リィン……ダージィ。ああ、なる程。ふーん……。貴女、ヴェンガルの娘でしょう?」


「え、お父さんを知っているんですかっ!?」


「ええ勿論。私は選定の女神よ? 自分が見出した勇者の名前ぐらい覚えているわ。でも、貴女の父親は特別凄かったわ。それに似た雰囲気を感じたから、気になって来てみたのよ」


「私と、お父さんが似ている……」


「あの子を選定したのなんてまだ記憶に新しいことだと思っていたけれど、あの子の娘がこうして私の前に立つぐらいには時間が経っているのね。本当に、人の時間は早いものね」


 星の光のような笑顔を浮かべながらしみじみと語る女神。その神々しさたるや、擬似的な降霊といえ凄まじいものだが、想像を遥かに超える程フランクなことに驚かされる。


「あのー、もしかしてそれだけの為に儀式を放り出して……?」


「そうだけれど?」


 不思議そうに首をかしげる女神。その様はまるで無邪気な子供の様。だがその仕草一つすら素晴らしい絵になってしまう。


「でもそうね。これも何かの縁。選定とまでは言わないけど、貴女を()てあげましょう。女神の鑑識眼、相当アテになるわよ」


 そういうと笑顔のままじっと、食い入るようにリィンの瞳を見つめ始めた。

 気恥ずかしさやら緊張やらで顔を逸らしたくなったが、何故かそれができない。視線すら外せず、お互いの瞳にお互いの瞳を写し合ってしまう。これも選定の女神の力なのだろうか。


「あら……?」


 急に、女神の微笑みが消えた。

 それどころか、その視線は先程までの慈愛はなく、背筋が凍りつくような冷たいものに変化していた。

 その凄みに、その威圧感に、今すぐこの場から逃げ出したくなる。

 だが体が動かない。蛇に睨まれた蛙の如く、視線すら外せない。


 嫌な汗が滲む。

 恐怖。いつのまにか、そんな感情を抱いていた。

 周りの音も聞こえなくなってきた。バルコニーの下では大騒ぎをしているというのに、聞こえない。感じられない。感じていられない。


 無音の世界。極限の緊張がそんなものを作り出してしまっていた。


「貴女」


「は、はいっ!!」


 その静寂を先に切り裂いたのは女神の方だった。解き放たれるように、声の裏返った間の抜けた返事を返す。


「とっても面白いわ!!」


 先程までの表情が嘘のように消え去り、星の光のような笑顔を見せてきた。それと同時に呪縛から解放されたのか、リィンの体が自由を取り戻す。


「面白い!! 今日選んだ七人よりもずっとずっと!! あはははははは!! だから人間って好きなのよね!!」


 どこまでも無邪気に、望むものを与えられた無垢な子供のように燥ぎ笑う。


「良いわ。ええ、良いでしょう。貴女にも差し上げましょう」


「えっ?」


 いつのまにか、彼女の胸の中に居た。

 女神の抱擁。ほぼ実体が無いはずなのに、柔らかく暖かい。

 強張っていた全身が一瞬で解れ、そのまま溶けてしまいそうな錯覚にさえ陥る。


「ひゃっ!?」


 不意に首筋に別のやわらかな感触を当てられる。それは紛れもなく女神の唇。


「んっ……」


 軽く肌を吸うように、甘噛みするように、首筋に痕を残していく。


「あ、あの、女神、さ……んん!?」


 喋る事を制するように、今度は唇を唇で塞がれる。

 それは未知の感覚で、何が起きていのか解らない。思考できない。麻酔を直接脳に打たれたかのようにぼーっとしていく。


「んっ……んんっ……」


 唇を唇で軽く摘まれる。その度に快楽の波が脳を襲う。

 溶かされる。何もかもが溶かされていく。そして微かに感じる甘い香りと共に唇の感触をこれでもかと刷り込ませてくる。


「……んっ!?」


 唇はいつの間にか唇に覆われ、閉じられた入口を優しくこじ開けられていく。口内を柔らかで淫らなものに犯される。


 これ以上はまずい。本当に駄目になる。引き返せなくなる。

 振り払わなければならないのに、どうしようもない快楽が抗うことを許さない。


「そこで何をしている!!」


 突然の第三者の声で、はっと我に返り女神から体を離す。これ以上先は帰ってこられなくなる、といったところでようやく口付けから、抱擁から解放された。

 しかし完全に腰が抜け、その場にへたり込む。心臓は爆発寸前だ。顔も火のように熱い。


「良いところだったのに、無粋な人ね」


「……選定の女神よ、勝手は困ります」


 声の主は騎士風の格好をした男だった。恐らくは儀式の関係者で、大聖堂のバルコニーの異変に気付いて駆けつけたのだろう。

 だがこちらはそれどころではない。溶かされかけた脳を元に戻しながら、高まる鼓動必死に押さえつける。


「あ、あの……一体……何を……?」


「ふふ、私からのプレゼントよ」


 あんなことをしておきながら、女神は変わらず澄ました様子だ。


「私、初めてだったんですけど……」


「あら、初めての相手が女神だなんて素敵じゃない」


「ま、まぁ確かに悪い気はしませんでした……じゃなくて!! なんで、き、キスとか!?」


「なんでって、祝福する為に決まっているじゃない」


「う、嘘だ!! 儀式中はそんな祝福の仕方じゃなかったもん!!」


 儀式中では膝をついて忠誠を誓う為に下げた頭に手を置いて、柔らかな光とともに祝福を授けていた。

 断じて、いきなり抱き寄せて強引に首筋に痕を付けて無理やり唇を奪うようなものではない。


 ――祝福?


「女神よ、これはどういう事ですか?」


 冷静な思考を取り戻してきたところで、明らかな苛立ちを見せながら男が問い詰める。


「その少女、見たところ部外者。どうやって侵入したかは後で尋問するとして、その前に女神よ、貴女様の行為についての説明を求めます」


「説明もなにも、選定はまだ終わっていなかった。それだけのことよ」


「説明になっていませんな。ではそこの彼女は何者ですか?」


「はぁ、聖堂騎士(パラディン)はどうしてこう頭が固い人ばかりなのかしらね」


 呆れたように溜息を吐きながら、女神は床に崩れているリィンの手をとって引き、男の前に突き出した。


「彼女が今回の儀式の、最後の勇者よ」


「「は?」」


 男と声が重なる。勇者? 何を言っているのだ? 何の話だ?


「ほら、祝福の刻印があるでしょ?」


 首筋の先程口付けされた場所に指を這わせられる。自分では確認できないが、どうなっているかは驚愕の表情を浮かべた男の顔を見ればすぐわかる。


「お待ち下さい女神。それは一体何の冗談ですか?」


「心外ね。私は選定の女神よ? 冗談で祝福を授けたりしないわ」


「で、ですがその者は部外者。これでは契約違反だ。選定は必ず学園で三年過ごした者のみに行うはず!!」


「それは貴方たちが決めたルールでしょう。祝福は素質のある者に平等に授けるわ」


「しかし!!」


「お黙りなさい聖職の騎士よ。其方の信仰と忠誠はどこに向けたものなのか今一度自らに問いなさい」


「それは……我が信仰と忠誠は偉大なる天上の神々への……」


 女神はリィンを「鑑る」際にみせた、どこまでも冷酷な眼差しで男を貫いた。蛇に睨まれた蛙の如くその、明らかに次元が違う者からの絶対的力の前にはただ屈するしかない。


「わかればよろしい。さて、リィン・ダージィ?」


「は、はい!?」


 リィンと男との間に割って入り、こちらの顔を覗き込む。その宝石のような蒼い瞳に吸い込まれそうになる。


「今から貴女は勇者となりました。気分はどう?」


「どうとか言われましても……何がなんだかサッパリで……」


 ――勇者となりました。


 その単語がなんだったのか、どんなものだったか、思考が定まらず思い出せない。


 ――お父さんのような、立派な勇者になる――


 不意に、いつかの誓いが頭をよぎる。そして思い出す。


 勇者。人々の希望を託されるべき正しき人。選定の儀にて女神より祝福を受けし者。人の身で魔のものたちと戦うことができる唯一の存在。


 勇者。父がそうだったもの。そして今の自分が目指しているもの。


「えーっと……ちょっと待ってください、全然実感が湧かないというか、唐突過ぎるというか、ただ強引に唇を奪われただけというか」


 こんなことで理想を叶えてしまったというのならなんと呆気のないものか。そしてこんなに簡単に勇者になってしまっては、今日選ばれなかった候補者たちに殺されてもおかしくはないのではないだろうか。


 そもそも女神の思惑が理解できない。何のつもりなのだ。

 そう言えば、この女神は随分と父に肩入れしているようだった。


 ――私がお父さんの娘だから?


 ならば今得たこの称号は父の力で得たものということになる。

 それでは意味が無い。そんなものは要らない。父の背中には自分の力で追いつく。こんなことで勇者になってしまったら、それこそ――地獄だ。


「リィン。私は貴女がヴェンガルの娘だから、という理由だけで祝福を授けたりはしない」


 まるで心を見通すように、全てを最初から知るように女神は語る。


「確かに今回の縁を結んだのはヴェンガルかもしれない。けどそれはあくまでそれだけに過ぎない話。貴女は今回のことが無くても、そう遠くない未来に私の前に立つはず。その時でも、今回と同じように私は祝福を授けるでしょう。貴女にはそれを受け取るだけの才覚が、魂が備わっている。それだけは信じて」


 その声はまるで赤子をあやすが如く慈愛に満ちている。心の奥底に響いていくようだ。


「大丈夫。貴女ならきっと、お父さんを超える勇者になれるわ」


「お父さんを、超える……。でも、私は……」


 違う。超えたいのではない、なりたいのだ。父のように。

 弱きを助け強きを挫き、多くの人達をその手で救っていたという、あの父のように。


「良い? 貴女は貴女よ。ヴェンガルに憧れるのは自由だけれど、貴女はヴェンガルにはなれない。貴女は貴女が信じる、貴女だけの道を歩みなさい」


「私の道……」


「悩みなさい。悩んで悩んで悩み抜きなさい、愚かで儚くも尊き人の子よ。人々(あなたたち)はいつもその先で神々(わたしたち)をも出し抜いてきたのだから」


 そう言いながらもう一度だけリィンを優しく愛おしく抱き締める。


「貴女がこれから歩む道に、際限なき光が照らされますように」


 最後に耳元でそれだけを言い残して、元より半透明だったその存在はさらに希薄になって静かに消え去った。


 バルコニーには呆然と立ち尽くす、男とリィンの二人だけが残る。


 首筋に刻まれた刻印を指でなぞる。僅かに女神の痕跡を残すその祝福を確かめる。

 勇者に、なってしまった。その事実があまりにも突拍子がなくて実感が湧かない。今の今まで焦がれに焦がれていたものになってしまったのだから。

 次に浮かぶのはこれからのことだ。勇者になる為の学園にやっと合格したのに先に勇者になってしまってはもうわけがわからない。予想外が起き過ぎて頭がおかしくなりそうだ。


「おいクソ女神(ビッチ)、何のつもりだテメェ!!」


 そこへ、また別の人物が靴音を響かせながら凄まじい勢いでバルコニーに上がってきた。

 ふわふわな金髪に線の細い長身。黒の礼服は全く飾り気が無いが、女性らしい特徴を強く主張したスタイルのおかげでとても品のある出で立ちとなっている。かなりの美人だが、しかしその殺気走った鋭過ぎる眼付のせいで全てが台無しになっていた。


「テメェもテメェだ。真っ先に駆けつけたくせに何で止めねぇ!!」


「も、申し訳ございません学園長……!!」


「そもそも女神は何するか分からないから常に警戒しておけとあれ程言っておいただろうがっ!! なんでそうマニュアル通りなんだよ聖職者共はよぉっ!!」


 何度も執拗に男に蹴りを入れる。どうやらこのブロンドの美女はなんと、学園長らしい。

 何というか強烈だった。学園長という位に対してかなり若いというのもそうだが、それ以上に言動と行動がアレ過ぎる。

 勇者養成学園の長は前線を退いた元英雄――かつての勇者が選ばれると聞くが、これではそのへんのゴロツキと変わらないのではないだろうか。

 何発も蹴り込まれた男はその場に蹲ってプルプルと震えるだけになってしまった。


「まぁもう居ねぇ奴のことを今更ごちゃごちゃ言っても意味ねぇな」


 その様子を見て舌打ちをした後、ギロリとリィンの方を睨んできた。殺気の混じる鋭い視線の刃に貫かれる。先程の女神とは別の真っ当な恐怖感で体が動かなくなった。


「おいテメェ。うちの生徒じゃねぇな。誰だ?」


「私はえっとその試験の合格者で、今日は見学に……」


「はぁ見学ぅ? んなもん許可してねぇだ――おい、それはなんの冗談だ?」


 更に眼付を鋭くしてリィン迫り、殴るような勢いで胸倉をつかむ。恐らく首筋の刻印に気付いたのだろう。


「……変わったタトゥーだな。趣味が悪い」


「へ、あ、そ、そうですこれタトゥーです、自分で入れた奴ですっ!!」


 勘違い、してくれたのだろうか。

 もしそうなら助かる。適当にごまかしてこの場をやり過ごせば何とかなる。直感的に感じたことだが、この人は相当危険だ。


「そうか。だがあまり似合ってないな。知り合いに腕のいい職人がいる。その気があるなら紹介してやろうか?」


「あ、あははは。か、考えときます」


 殺気立った雰囲気は学園長から静かに消え、にっこりと微笑む。


 何とかなったのだろうか。しかし未だ胸倉から手が離れていないのは――


「ってそんなわけねぇだろうがぁぁっ!!」


「きゃああああああっ!?」


 学園長はリィンの体を軽々と持ち上げ、女性とは思えぬ凄まじい力で壁の方へ投げ飛ばした。

 受身などまともに取れるはずもなく、成す術なく壁に叩きつけられる。痛みと衝撃でまともに呼吸ができない。頭を打ったのか意識がぼやける。


「おい、いつまでそうしている?」


「は、はい、申し訳ございませんっ!」


「そいつを拘束して独房に放り込め。ああ、クソ……面倒になってきたな」


 その言葉を最後に聞いて、リィンの意識は暗闇へと落ちていった。


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