マフラーとてぶくろ
それから毎日春陽くんと雪だるまはいっしょにあそびました。
けれど「あたたかい」についてはわからないままでした。
だんだん雪も降らなくなり、庭につもった雪も薄くなっています。
雪だるまの体もだんだん溶けて、はじめのときの半分くらいに小さくなってしまいました。
春陽くんと近かった目線も、今では春陽くんのほうがずっと上です。
そんなある日、朝から春陽くんのようすが少し変で、暗い表情をしています。
いつものような元気なあいさつがありません。
「春陽くん、おはよう。どうかしたの?」
雪だるまがきくと、春陽くんはキュッとズボンを握ります。
「あのね、あのね、もう僕、もとのおうちに帰らなきゃいけないんだって」
春陽くんは今にも泣き出しそうです。
「そっか。ざんねんだな。それで、いつ帰るの?」
「今日だって」
グスン、と春陽くんは泣き出してしまいました。
「もっとあそびたかった」
雪だるまは、春陽くんのてぶくろをつけた手で、ポンッと頭をなでます。
「だいじょうぶだよ。来年春陽くんが僕を作ってくれたらまた会えるよ」
「うん。ぜったいつくるね。こんどはもっとかっこよくつくってあげるね!」
そう言って二人であくしゅを交わしたとき、春陽くんのうしろから春陽くんをよぶお母さんの声が聞こえてきました。
「僕ね、春になったら『しょうがっこう』ってところに通うんだ。僕のランドセルはおばあちゃんが買ってくれたんだけど、すっごくかっこいいんだ!こんど見せに来るよ!」
そう言いのこし、春陽くんは雪だるまに手を振りお母さんとお父さんが待っている車の方へ走っていきました。
春陽くんが帰ってしまってから雪だるまの体はどんどん小さくなり、もうすぐ消えてなくなりそうです。
「行っちゃったな……」
ふと、春陽くんが雪だるまにくれたマフラーとてぶくろを見ると春陽くんの顔がうかびました。
春陽くんとあそんだ景色が浮かんできて、溶けてしまったはずの体がほわっとしました。
そこで雪だるまはようやく気づきました。
「あたたかいって、これだったんだ。春陽くんといっしょにいたとき、僕はずっとあたたかかったんだ。また次に会えたら伝えなきゃ。あたたかいを見つけたよって。ああ、早く会いたいな」
その日の夜、雪だるまの体はもうのこっておらず、春陽くんのマフラーとてぶくろ、それから小石と木の枝だけがそこに残っていました。