あたたかいもの?
つぎの日、春陽くんは朝早くから庭に出ると、まっさきに雪だるまにかけよりました。
「おはよう雪だるまさん!」
と春陽くんは雪だるまに元気いっぱいにご挨拶。
すると、
「おはよう。きのうは僕を作ってくれてありがとう」
と、雪だるまから声がきこえるではありませんか。
いくら雪だるまのうしろを見ても、まわりをぐるぐる見渡しても、春陽くんと雪だるまの他には誰もいません。
「もしかして、雪だるまさんの声なの?」
春陽くんがたずねます。
「そうだよ。きみが心をこめて作ってくれたから、神さまが魔法をかけてくれたんだ」
という雪だるまの答えに、春陽くんは嬉しくなりました。
「ねえねえ雪だるまさん!ぼくといっしょにあそぼうよ!」
春陽くんは雪だるまの目の前でピョンピョン飛びはねました。
しかし雪だるまは「うーん」と、うなったきりです。
「どうしたの?」
と春陽くんがきくと、雪だるまはこう言いました。
「僕、足がないから春陽くんと一緒には遊べないんだ」
「そっかぁ。どうしよう」
考えて、考えて、春陽くんも「うーん」とうなります。するととつぜんキラッとひらめきました。
「そっか!足を付けてあげればいいんだね!」
庭のはしっこに落ちている木の枝をひろってきた春陽くんは、雪だるまの下の方に二本刺してあげました。
足をつけてもらった雪だるまは
「よいしょっ」
のかけ声で立ちあがった。
「すてきな足をありがとう。春陽くん」
それから春陽くんと雪だるまは雪にねころんだりかけっこをしたり、雪合戦をしたりゆきだるまをつくってあそびました。
楽しい時間はあっという間にすぎてしまい、そろそろお日さまがしずんでしまう時間です。
春陽くんと雪だるまがすわってお話をしていると、ヒューッとつめたい風がふいて、春陽くんはブルッとふるえました。
「ねえねえ、雪だるまさんはお外の雪の上にずっといて、寒くないの?」
雪だるまは答えます。
「寒くないよ」
「えー、うそだぁ。ぜったい寒いよ。僕はあったかいほうがすきだなぁ」
春陽くんが言ったとき、もういちどヒューッと風がふきました。
「うぅ、寒い。ぼく、そろそろおうちにかえるね!また明日ね、雪だるまさん」
春陽くんはあたたかいおうちにかえってきてホッとしました。冷たくなっていた手がじわじわとあたたかくなっていきます。
ふと、冷たい風が吹いているお庭にいる雪だるまが気になって、窓からのぞいてみました。
すると雪だるまはうごかずじっとすわっていました。
「ねえねえお母さん、あした雪だるまさんにマフラーとかてぶくろをつけてあげてもいいかな?なんだか寒そうなんだ」
春陽くんの問いかけにお母さんはうなずきます。
「そうねぇ、雪だるまさんもきっと寒いわね。春陽がつけてあげるといいわ。さあ、そろそろねる時間よ」
と、お母さんに言われた春陽くんは、雪だるまのことを考えながら布団に横になりました。
横になった春陽くんのむねをお母さんがポンポンしてくれると、なんだかほわほわした気持ちになれて、そのまま夢の中へ落ちていきました。
つぎの日の朝、同じように庭に出ると、雪だるまは変わらずそこにいました。
「雪だるまさん、おはよう!」
春陽くんが元気にあいさつをすると、雪だるまからも
「おはよう」
とかえってきます。
「今日は何してあそぼうかなぁ」
春陽くんが考えていると、雪だるまはこう言いました。
「春陽くん、昨日言っていた『あたたかい』って、なあに?」
「あたたかい……えっと、むねのここがじーんとしたり、ポカポカ〜っとしたりする!」
「そっか。じゃあ、きみにとってあたたかいものって、なあに?」
春陽くんはいろいろあたたかいものを思い浮かべます。
「おうちの中でしょ?こたつでしょ?スープとか、あと毛布も。それから、おふろとか、お母さんにぎゅってされてるときとか!」
春陽くんはフンッ!とむねをはってみせますが、どうやら雪だるまはどれもピンときていない様子です。
そこで春陽くんと雪だるまはかたっぱしからためしてみることにしました。
まずは春陽くんが首に巻いているマフラーを雪だるまにつけてあげます。
「あったかい?」
「いいや、あたたかくない」
そこに、春陽くんは手にはめていたてぶくろを雪だるまの手につけてあげます。
「あったかい?」
「いいや、あたたかくない」
それからは春陽くんが思いうかぶものを次々にやってみます。
スープをかけたりお風呂のお湯をかけたときは雪だるまの体が溶けてしまい、あわてて春陽くんが雪で直しました。
毛布をもちだして雪だるまにかけてあげたけれど、雪だるまは首を横に振るだけでした。
「だめかぁ」
春陽くんは雪だるまの横にゴロンとねころびました。
雪だるまはいろいろためしていくうちに、なんどか体が溶け、そのたびにその部分を春陽くんが雪を埋めて直したために、きれいなまんまるだったはずの体はいびつな形になってしまいました。
ここスープ、ここはお風呂のお湯をかけたところ。ここは春陽くんが持っていたカイロを当てたところ。
ひとつひとつ思い出しているうち、その時の春陽くんのあわてた顔や笑った顔がうかび、雪だるまは体の中がほわっとしたような気がしました。
「あれ?」
「雪だるまさん、どうかしたの?」
「んー、いや、なんでもないよ」
「そっか!うーんと、あとはなんだろう。あたたかいもの、あたたかいもの……」
腕を組んでなやんでいる春陽くんを見ていると、また体の中がほわっとします。
あれ?これは何だろう。
雪だるまは体の中でときおり出てくるほわっとしたものが何なのか、わかりませんでした。