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能の物語

能 井筒(いづつ)の物語

作者: 西村 圭

能の脚本にあたる謡曲を、一人称で短くまとめました。


旅人が、様々な土地で、その地にゆかりのある人に出会い、夢か幻のようなひとときを過ごします。

私は、旅をしながら、様々な土地に残された話を聞いて回っています。


奈良の有名な七つのお寺を回り、これから長谷寺に行こうかと思っています。


土地の方に伺ったところ、近くに在原寺というところがあると聞いたので、立ち寄ってみようと思います。


この在原寺は、かつて在原業平と紀有常の娘が共に暮らしたあとという、石上の地にあります。


在原業平というのは、『伊勢物語』という昔の書物の主人公ではないか、とも言われている歌人なのだそうです。


これもご縁だと思い、在原業平の墓に向かうと、先に女性がいて、花を手向けていました。


話を聞いてみると、近くに住んでいると言います。

風情のある場所たから、と思い入れがあるようです。


私が、在原業平と紀有常の娘について、知っていることがあれば教えてほしいと頼むと、次のように語ってくれました。


「業平は、紀有常の娘と暮らしていましたが、河内の国の高安というところにも思い人があって、行き来していたのだというのです。


紀有常の娘は、高安の里に向かうまでの、業平の身の安全を案じたため、やがてこの石上の地に落ち着いたのだとか。


そもそも、業平と紀有常の娘は子供の頃からの幼なじみでした。

家の近くの筒のようになった井戸にお互いの顔を映してあそんだりしていました。


やがてお互いに成長し、思いあうようになったのです」


すばらしいお話だと伝えました。

それにしても、この女性は何者なのでしょうか。


すると、女性は、自分こそがこの井筒の女だと言って立ち去ってしまいました。


だんだん辺りが暗くなってきました。

私はこの辺りで休むことにしました。


すると、男性の装束を身につけた、先ほどの女性が現れました。


寺の井戸に自らを映し、業平を思い出して、懐かしがっているようです。


不思議な思いで見ているうちに、はっと気がつきました。


夢をみていたのでしょうか。


私の耳には在原寺の鐘が聞こえるばかりなのです。


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