表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

第十六話「逃走の果てに」


「すまない遅れた!」


 カモシカに最後の分隊員が乗ったのを確認すると、ジンはもう一度アクセルを踏み込んだ。

 砲弾がその後を追うように着弾し、土を舞い上げる。その衝撃は鉄の装甲を越えてジンの腹を打つ。


「だいぶ詰められてます!逃げ切る前にやられますよ!」「なんでこんなところに敵が来るんだ!」「多分この前逃した斥候の増援だ!」「追ってきたのか!」「敵弾来ますッ──!」「全速で離脱する!」「チィッ、この砲じゃ狙えないよ!」「マキナ、煙幕弾を適当にバラまけ!」「アイ!」「これじゃまるで狩りじゃないか!」


 三人は口々に叫びながら現状に対処する。

 本来ならマキナが運転してジンが銃座につくのがベストだが、交代する暇はない。

 マキナが銃座に立って煙幕弾を二発撃った。

 ジンは小さなサイドミラーでなんとか状況を把握しようと努力するが、視界が狭い上に揺れが激しいため得られる情報は少ない。


「六時の方向三〇〇メルカ先、二両が追ってきてます! もう一両は五時の方向、四○○メルカ! 後続はまだ後ろです!」


 マキナがジンの目の代わりとなって後方の情報を教えてくれる。停車した一両の四〇〇メルカでさえ近距離だというのに、手前の二両はもう目と鼻の先まで来ていた。


「少しでも止まれば『的』だ! このまま逃げるぞ!」

「ああ!」「了解!」


 カモシカの主砲は前方しか狙えない。銃座の機銃では厚い装甲に効果は無いし、機銃下部の発射装置(グレネード)は射程が足りない。


 つまりは、ジン達は逃げる以外に手段がない。攻撃が出来ないのだ。


 しかし、カモシカの機敏な動きに敵のモービルも狙いを定められないのは同じだった。一発はカモシカの右側面に、もう一発はカモシカの上を掠めてずっと前方の山を抉った。

 偶然射線が重なって、同士討ちを気にしたのか三両目からの狙撃は無かった。

 ジンは心の中で秒読みする。敵の装填にかかる時間を計るためだ。


「──敵弾外れッ!」


 マキナが報告する。敵の装填はそれほど早くなかった。


「もう一度煙幕を()け! ありったけ使っていい!」


 遮蔽が皆無な雪原上、ないものは自分で作るしかない。煙の壁は砲弾こそ防げないが、視界は塞ぐことが出来る。

 スミスもマキナも、ところかまわず煙幕弾を撃った。

 着弾と同時に広がる煙を突っ切って、カモシカは走った。後ろの二両も当然ついてきたが、距離は開きつつある。

 何とか逃げられそうだった。


「敵弾来ます──ッ!」


 マキナの報告から一秒と数えず、敵の榴弾はカモシカの左前方で爆発した。

 ジンは機体を左右に振りながら煙幕の中に逃げる。


「煙幕弾が尽きた!」「こっちもです!」


 二人が報告する。聞きたくなかった言葉だ。

 スミスは代わりに徹甲弾を装填する。

 ジンはまた別の煙に逃げようとした。


 ──だが、それは敵が許さなかった。

 カモシカをこれまでにない強烈な振動が襲う。命中しないまでも、超至近弾であった。後部ギリギリの所で爆発を起こす。


「うわッ────」


 爆発の影響で機体が横に強く揺らされ、マキナが銃座から振り落とされる。

 彼女の叫び声が遠のいて消えて、ジンはサイドミラーで彼女が落ちる姿を見た。


「マキナぁッ!!!!」


 それと同時に、機体はジンの意思に関係なく左に急旋回した。煙幕手前で半円を描くような軌跡を地面に刻みながら反転する。

 ジンは咄嗟にカモシカを停車させた。


「履帯が切れたんだッ──!」


 スミスが唸る。

 モービルの足と呼べる無限駆動の履帯。雪上でも滑ることなく高速を発揮するモービルの強みでもあるが、逆に弱点でもある。

 この鉄のベルトにハサミを入れられてしまえば、モービルはたちまち動かぬ只の棺桶となり果てるからだ。

 どうやら先程の至近弾でカモシカの左履帯は切れたらしい。


 絶体絶命だった。


 だが不幸中の幸いか、敵弾はこの突然の動きに反応出来なかったようで、狙いを外す。

 そして反転してようやく、前部砲の照準に敵が映った。

 スミスは冷静に照準を合わせ、引き金を引く。

 それが目前に迫った二両の片割れに吸い込まれていって、装甲を貫いた。

 更に幸運なことに、どうやら弾薬庫を直撃したらしい。弾着と同時に大爆発した。


 とはいえ、数あるうちの一つを潰したところで戦況は変わらない。

 今度は装填を終えた他のモービルが、動かなくなったカモシカを集中砲火する。

 その前に逃げなくてはならない。


「脱出! 外へ出ろォ!!」


 ジンは壁に掛かったタルコフ銃だけ手に取ってカモシカを出る。スミスも反対の右側扉から脱出した。

 そしてジンは、カモシカの軌跡の傍に仰向けで倒れているマキナを見つけた。ピクリとも動かず、倒れている。

 それを見つけた瞬間、ジンは駆け出していた。


「マキナ!おい、マキナっ──!」


 敵の砲門がこちらを見つめているというのに。

 敵の照準がこちらを捉えているというのに。

 ジンは構わず彼女に駆け寄った。

 どうやら気絶しているようだった。

 とにかく、カモシカまで運ぼうと体を引っ張る。

 砲弾が近くに飛んできて爆音を立てた。土埃が舞って、ジンとマキナに降り注ぐ。


「大丈夫かッ!」


 スミスもそんな地獄の中を駆け寄ってきて、一緒にマキナを担いだ。


「くそォ! くそっ、ちくしょう!」


 鼓膜を破らんばかりの爆音のせいで、天高くまで舞い上がり降り注ぐ土や雪のせいで、あるいは絶望しかない状況のせいで、ジンは思わず叫んでいた。

 それでも足は止めず、必死に歩いてカモシカの裏にたどり着く。

 おそらく敵のモービルは最早目前まで来ていることだろう。

 もしや、抗う術をなくした三人を(もてあそ)んでいるのかもしれない。


 ジンは肩にかけたタルコフ銃を構えた。


「来るなら来やがれクソッたれ!!」

「馬鹿はよせ! 意味がない!」


 スミスは止めたが、彼はカモシカの影を飛び出して躍り出る。


 もはや自棄(ヤケ)になったジンが、そのちっぽけな照準越しに見たものは、絶望だった。


 目前に迫り来るモービル。

 後方から更に増援の輸送車や戦車。

 それらから展開した歩兵部隊──。


 どうしたって、勝てっこない。そう思った。

──次回予告──


 純白の大地に穴が開き、黒い血潮が舞い上がる。

 歯向かう手段は既になく、逃げる足すら最早無い。

 男に残されたのは少しの武器と、ちっぽけな反抗心。

 果たして三人を待ち受ける運命とは、一体。


次回「希望」


 鹿追う猟師の手が迫る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ