第十一話「過去」
「──私、カモシカに乗るのが憧れだったんです」
マキナは、自分の過去を語り始めた。それはとても明るいものではない。
だが、それこそ今の彼女を作り上げた要因である。
「私は、第一次戦争の時、家族と一緒にモアルドの町に住んでいました」
モアルド──その名を聞いた瞬間に、スミスは思わず顔を顰めた。
そこは第一次ソドスベリア・シュネーリア戦争における「悲劇の町」として、あまりにも有名だからだ。
モアルドは、国境際にあった皇国最西端の町で、ソドスベリア軍が最初に奇襲したのがこの町だった。
奇襲の報を受けたシュネーリア皇王は激怒し、全力で奪還せよと命を下す。
しかしその時には既に、ソドスベリア軍は更に内地へ侵攻していた。そして別の街や要塞を陥落させていた。あまりに電撃的な、布告なしの攻撃に皇国側は苦戦を強いられた。
そのうえ、各地でもソドスベリア軍が侵攻を開始、戦況は悪かった。
が、しかし。
その後の防衛戦においてはなんとか勝利を収め続け、互いに痛み分けとなって戦争は一年足らずで集結する。
戦後処理で会議を開き、皇国は奪われた領土の返却を求めた。
だが結局、モアルドは占領されたままになってしまった。
「敵が攻め入る最中で私は、両親を、殺されました。──私には姉がいるんですが、姉は皇都に出掛けていて無事でした」
スミスは目を細め、当時の凄惨な街々を思い返して心底同情した。
「モアルドを取り返せなかったのはアタシたち皇国軍人も、そりゃもう悔しかったさ」
彼女の嘆きにマキナも「そうだったでしょう」と頷いてみせる。
「私は占領されたモアルドで『きっと姉や軍が助けに来る』って信じて暮らしました。──そうして四年。ついに、皇国軍が助けに来たんです」
「領土奪還作戦、か」
領土奪還作戦。──近年の戦争で行われた、最も有名な作戦の一つと言っていいだろう。
この作戦は失われたシュネーリア領土の奪還を目的として行われた。
作戦の先陣を切ったのは、機動力に長ける|A-30軽装甲モービル《カモシカ》のみで編成された機甲大隊──その名も「鬼神」。
作戦の絶対成功を成し遂げるためにシュネーリア全土から選りすぐりのモービル乗りを集め、特別訓練を施した。
各地方からの選抜兵による混成部隊であったため、所属は皇王直属の「親衛隊」とされた。
古いしきたりのもと、皇王と部隊の代表数名が「契り」を交わす儀式の時。その際に兵士らの眼を見た皇王が「まるで鬼神のような眼をしている」と仰せられたのが、そのまま部隊名として呼ばれるようになったと言われている。
シュネーリア皇国がソドスベリアに宣戦布告を行うと同時に、鬼神大隊はモアルドへ攻め入った。
それには、前線にある「奪われた要塞」を回避する必要があった。これは南のフーリア共和国領を通って迂回したという。そして鬼神大隊は一次ソ・シ戦争の意趣返しと言わんばかりの奇襲作戦を実行。モアルドの街は奪還された。
モアルドの鬼神大隊とシュネーリア本軍に挟まれ、補給路も増援も絶たれた前線要塞は、まるでオセロの石をひっくり返すように簡単に陥落した。
こうして無事に領土奪還は成功し、地図は元の形に戻されたのだ。
だがこの作戦が四年にわたる「第二次ソドスベリア・シュネーリア戦争」の発端となり、「鬼神」部隊は渡り鳥のように各地を飛び回って戦い多大な戦果を上げた。
しかし軽装甲ゆえに損耗が激しく、この戦争が終わる頃には大隊の殆どが名誉の戦死を遂げて旅立っていた。数を減らした鬼神大隊は、終戦と共に解散する。
これがソドスベリア軍を恐怖させた『シュナルの鬼神』の軌跡だ。
「解放されたモアルドで凱旋するカモシカ乗りの姿は今でも覚えています。彼らは本当に、カッコよかったんです。私は、その中に姉が居るのを見つけました。私が名前を呼ぶとカモシカを飛び降りて私の方に走ってきて、痛いくらいに抱きしめてくれました……」
マキナの語るに任せ黙っていたスミスは、それまでの悪戯っぽい笑みではなく、母親か姉のように慈愛に満ちた面持ちで彼女を見つめていた。
「──そうか、大変だね。戦争ってのは」
──次回予告──
抗いようのない運命を
「宿命」と呼ぶのなら、
彼らにとっては戦争がそれだ。
着実に、確実に。
戦いの歯車は回転をし始める。
生きるか死ぬか瀬戸際に、
ジンが見るものとは一体。
次回「接敵」
カモシカの軌跡には、赤い血が残る。




