『ネット小説大賞』の一次選考落選の現実を受けて思うこと。
“小説家になろう”で年に一回開催される『ネット小説大賞』の一次選考候補者発表が4月3日にあった。
家に帰って直ぐにパソコンを起動して、候補者名簿の画面に噛り付く。
Twitterで、知っている人も何人か居て、拍手を送りウキウキしながら見ていた。
ネットという仮想空間にしても、知っている人の名前を目にするのは嬉しい。
屹度、私と同じ気持ちが分かるから。
一覧を半分まで見ても、まだ私の名前は出てこない。
五十音別に並べられているわけではないので、どこで出てくるかは分からない。
ドキドキと変わらぬ気持ちのまま、一覧を眺めていた。
三分の二が過ぎて、四分の三、五分の四、六分の五、十分九……。
そろそろ不安になる。
そして最後。
最後まで来ても名前がない。
“もしかしたら、見落としたかも”
そう思って、もう一度最初から名前を探す。
そして、もう一度。
結局最後まで、私の名前は載っていなかった。
静かに画面を閉じる。
それから、相互フォローしてくれている一次選考通過した人たちに『おめでとう』とメールを送る。
頑張ったことが認められた人たち。
そして頑張り方を知っている人たち。
素直に喜んで、素直に素晴らしいと思い、素直に祝福して、素直に喜んでほしいと思った。
メールを全て打ち終わり、自分の事を考えた。
小学生のころからお話を作るのが好きだった。
私の書いたお話をクラスの仲の好い子たちが回し読みしてくれた。
友達は読むのが早くて、続きをせがまれて、授業中にも書いた。
すっかりその気になって、新人賞にも応募した。
書きあがったときは、天にも昇る気分。
郵送するときに、郵便局のおじさんが「受かるといいですね」って言ってくれた。
そして落選。
“どんまい♪”
自分に言い聞かせて、次々に書き、次々に応募した。
応募する前に、出来上がった自分の小説を何度も何度も読み返して書き直し、誤字脱字や重複した表現、それにページ数を合わせるために何度も何度も読み返しては書き直す。
しかし、結果はついてこない。
何度書いても、一次選考すら通過しない。
落選、落選、落選――。
ついに同じ郵便局から出すことが恥ずかしくなり、違う郵便局を転々と投函する。
何がいけないのか分からなくて、お小遣いをはたいて、小説を買いまくり読み漁ると直ぐに本棚が一杯になった。
それでも落選は止まらない。
慢性的な寝不足。
このまま死にたいとさえ思った。
死ぬのは簡単。
寝不足でボーっとした頭で、駅のホームや交差点から一歩踏み出せば人生は終わるのだ。
意識がもうろうとしたまま、信号に気が付かず十数センチ前を凄いスピードでワンボックスカーが通り過ぎて行った。
少しタイミングがズレていたら、私は吹き飛ばされて死んでいたのだろう。
そう思いながら車の通りすぎて行った方向を見ると、吹き飛ばされたはずみで、道端の電柱に頭を打ち付けて横たわる透明の私が居た。
“もう新人賞への投稿はやめよう”
その時、決めた。
小説を読み漁っていたころ『君の膵臓が食べたい』を書いた作者さんが、新人賞に投稿した作品が落選したのが悔しくて“なろう”に投稿したところブレークしてデビューに至った話を思い出し、私も“なろう”に登録し、それから、ネットで小説を書くようになった。
最初に投稿したのは、新人賞落選作の『秘密』
毎日、ものすごい数の小説が投稿されているサイトで、はたして私の小説は受け入れられるのだろうか?
そして、誰かの目に留まることはあるのだろうか?
2017年6月4日、初投稿の日、回覧数は23人。
これが多いのか少ないのかは分からない。
まあ、何千分の一の中の一つだから、23人の人の目に留まっただけでもゼロよりはマシ。
次の日は21人、その次の日は31人。
これから大ブレークするのではないかと、期待でワクワクした4日目は6人。
そして5日目は二人で、そのうちの一人は自分自身。
“所詮、私の小説なんてこんなもの。とても『君の膵臓が食べたい』などには足元にも及ばない。
6月21日、初めて感想をもらい飛び上がるほど嬉しかった。
そして次の日の22日にもまた感想をもらい、有頂天になる。
ひょっとしたら、ここから大ブレークが始まるかも。
期待に胸が熱くなる。
でもそれきり感想は来なかったし、一日だけ186人と飛び上がって喜んだ回覧数も、25日は2人。
26日5人。
27日17人。
28日3人。
29日1人。
30日14人。
“結局、この作品は落選作だ。新しいものを書き続ければ!”
そう思う反面、もう筆を置こうかと思った。
友達からの誘いも断り、かといって自分一人で遊びに行くこともない日々を思い出す。
四六時中、誰にも読まれないお話を書き続ける日々。
そして慢性的な寝不足。
その状況が変わってきたのは、毎日投稿に踏み切った『さよならロン。また会う日まで』だった。
投稿初日から126人の人が読んでくれ、二日目こそ2人だったものの、次の日から毎日100近い回覧数を続けて、毎月2千人前後の人たちが見てくれるようになり、今はもう少し回覧数も増えた。
人に読まれることで、折れかけていた心にも少し自信がついて、考え方も変わる。
“とにかく、書き続けていれば、何かが変わるはず”
そう自分に言い聞かせ、これまで以上に没頭した。
だけど、いくら新作を書いてもこの自分の小説を超えるものが書けなかった。
そして今年の二月。
『GrimReaper』というアクション物を書いた。
いままで、恋愛物ばかり書いていた私の野心作。
そして、それは『さよならロン。また会う日まで』と競い合うように回覧数が伸びた。
“イケてる!”
書き続けることで、確実に実力が伸びている。
そう確信していた。
そして『ネット小説大賞』の一次選考候補者発表。
ワクワクしながら、名前を探す。
けれども名前はなかった。
前に聞いたことを思い出す。
一次選考に残れるか残れないかは、小説として成り立っているかどうかだと。
結局、いくら書いてもダメだったのだと思い知らされた。
真夜中。
庭のデッキに腰掛けてビールの缶を開けた。
350mmlの缶ビール。
滋養強壮に良いとされる薬用酒を規定量飲んだだけでも顔が真っ赤になる私にとって、この量は致死量に近い。
デッキには私の他に、もう一人、いつの間にか我が家に居付いた猫ちゃん。
いつもの餌をあげて、夜空を見上げながら缶ビールを一気に飲む。
はやく、あの星空に会いに行きたい。
いつもは餌を上げたとたん、私に甘えていたことをやめて餌を食べ始める猫が、珍しく餌を食べようとせずに私に甘え続ける。
頻繁に膝の上に乗り、私が星を見ていると、服の裾を手で引っ張る。
言葉を話すことのできない、犬や猫は言葉の代わりに人の心を読み取るのが上手い。
屹度、落ち込んでいる私を励まそうとしてくれているのだ。
膝に抱き上げて、撫でながら「ありがとう」と小さい声で伝える。
猫はジッと私の顔を見つめていた。
ビールに含まれているアルコールが、血液を巡り私を襲う。
心臓が早鐘を撃ち、足がふらつく。
頭のネジが外れそうなくらい、ガンガンと中の鐘を打ち鳴らす。
手を洗い、歯を磨いて、顔を洗いベッドに着いた。
目覚まし時計の針は、朝投稿用にいつも4時半にセットされていた。
“もう止そう……”
目覚ましの時間を7時に変える。
もう、更新はしない。
これで、もう私は自由になれる。
できっこない小説家の夢など諦めて、自由気ままに生きよう。
睡眠不足とも、これでサヨナラ。
ベッドに潜り込むと直ぐに気が遠くなった。
朝、6時に目が覚めた。
もう更新しないはずの、小説家になろうのサイトを習慣的に開いてしまう。
慣れなくて執筆に時間のかかる『GrimReaper』は、少しだけ書き溜めがある。
戦場アクション物。
どんなに強くても、最後は原爆でお終いにしようと昨日考えていた。
それが最終回。
だけど、登場人物や作品には何の責任もない。
全ては私。
私が無能だから。
せめて最後の作品くらい書き上げて終わらせよう。
そう思って投稿し、パソコンを閉じた。
7時半、家を出る時間。
私は二階にある自分の部屋に入り、パソコンのスイッチを入れた。
開いたページは『小説家になろう』
“未練”
そうなのかも知れない。
お話を作るのが好きな子供の時、私はそれで何がしたいとか思わず、ただお話を作るのが好きだった。
どんなことがあっても、途中辞めなんかできっこない。
確かに辛い気持ちは残っている。
それは、これからもズット私の心を突き刺したナイフのように残り続けるだろう。
そして、それは一本、また一本と増え続けていくことになるのだと思う。
でも、私はお話が好き。
自分のための、自分が好きな人達が私を包み込み、お話の世界に誘われる自分のお話し。
“好き!絶対辞めない”
ほかの人たちに、この好きという気持ちを惑わされたり壊されてなるものですか!
そう思うと、夢中で投稿小説を書いていた。