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ー昨日は全然寝られなかったな
重い足取りで学校への道程を歩く
いつもより少し遅い時間に家を出たのに急ぐ気にはなれず、私はわざとだらだらと登校していた
ほんの数日まで、前世のこともギーシュのことも知らずに、普通に女子中学生として楽しく過ごしていたのに、なんでこんなことになってしまったんだろう
黒池つかさとしての私が嘆く一方で、カオス・ロードとしての私が思い悩んでいることもある
何かと言うと暴走しがちになる佐伯、巻き込まれて周りの人に変なヤツだと誤解されてしまわないかという不安、ゴリラになったギーシュ、前世に残してきた部下たちのこと
佐伯だけなら、なんとかなるかも知れない
絶対に接触しないよう、話しかけないように言い聞かせて、あとは静かに卒業まで待てば良い
卒業さえしてしまえば、佐伯と関わることはもうないだろう
卒業まで1年半くらいあるが、頑張ればなんとかなるかも知れない
でも、他のことはどうすればいいのか検討もつかなかった
ギーシュのことも、前世の部下たちのことも、黒池つかさにできることは何もない
しかし、それでは困るとカオス・ロードが訴えてくる
「だからって、どうしたらいいのかわかんないよ」
私は、小さく呟いて唇を噛んだ
「あ、黒池さん」
声をかけられてそちらを見ると、成松先輩が立っていた
「呼び止めてごめん。でも、どうしても君に話したいことがあって」
「どういったことですか?」
嫌な予感を感じつつ、見た目は平静を装って尋ねる
「…いや、ちょっとこんなところで言うことじゃないのかも知れないけど」
成松先輩は、頭を掻きながら言い淀んだ
昨日の会話から考えると、成松先輩の話は前世の記憶のこととか、そんな感じだろう
勇者フィンセント、魔王カオス・ロードを倒した男
この人から見たら、今の私ってどういう相手になるんだろう?
前世の仇敵?それともただの後輩?
でも、いきなり前世がどうとか魔王がどうとか言い出したら、佐伯みたく怪しい人になっちゃうもんなー
そりゃ、口に出すのもためらわれるよね
そう思いながら、生暖かく成松先輩を見つめていると
「俺、ほんとならこんなこと言える立場じゃないのかも知れないけどさ…」
意を決したようにこちらを見返した成松先輩は、私を見つめてはっきりと言った
「黒池さん、俺と付き合ってくれない?」
コメント&評価ありがとうございます
不定期ですが、頑張ります
第6話誤字脱字修正しました