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「……なに言ってんの、先生」

辛うじて声をかけた私に、一瞬、悲壮な顔をする佐伯

「いや、目覚めたんでしょ、魔王?自分が悪の大魔王カオス・ロードだって気がついたんでしょ?ねーねーねーーー!!」

大声で叫んだ佐伯を気持ち悪いものを見るような目で見る三人

それを見て、ドッと滝のような汗が出た

いやだ

あの夢のことを佐伯が知っていることよりも、もしかしたらアレが夢じゃなかったことよりも、自分の前世が魔王だったことよりも


こいつと同類だと他人に思われることだけは絶対に嫌だ!!


前世が何であろうが、別にどうでもいい

今の私は、普通の女子中学生、黒池つかさなのだ

あんな得体の知れない気持ち悪いものを見るような目で見られるなんて、絶対にお断り!

一瞬でそう固く誓った私は、佐伯のことを全力で知らんぷりすることに決めた

「な、なに訳の分からないこと言ってるんですか」

声が震えたけど、佐伯に怯えていると解釈できなくもない!問題ない!

「そうですよ、佐伯先生!黒池さん怖がってるじゃないですか!」

有村先生の追撃に、思わず心の中でガッツポーズをする

「だいたいあなたはいつも、前世がどうとか魔王がどうとか訳の分からないことばかり言って!生徒にまでそんなおかしなことを言って怖がらせるなんて、もう許せません!いい加減にして下さい!」

いつも穏やかな有村先生が、真っ赤になって怒っているのを見て、さらにドン引きする私

こいつ、有村先生にまでそんな話してたのかー


断片的に思い出した魔王の記憶を類推すると、佐伯の前世は宮廷魔術師のドルドーで間違い無いと思われる

古の魔術を復活させるだけではなく、自分が構築したオリジナルの呪術を駆使して、魔王討伐軍を打ち破ってきた優秀な魔術師だ

ただ、壊滅的に性格がアホだった

思い込みは激しいし、空気は読めないし、上にはとことんおもねる癖に、下にはとんでもなく横柄

嫌いな奴には魔術を使って、脳天に鳥フンを命中させるとか、一晩で鼻毛を3センチ伸ばすとか、女性陣の前でズボンの紐を切るといった地味な嫌がらせをするという、天は二物を与えずを地でいくような男だった

魔術の腕を買われて宮廷に召し抱えられたものの性格が残念すぎて王を怒らせ、まさに首を切られそうになって逃げ出したところを拾ってやったのだ

そして、この佐伯はドルドーまんまの男

前世のガマガエルのような見た目と違って、今世ではなかなかのイケメンに転生したみたいだけど、内面から溢れるドルドー感が凄まじい

30半ばのイケメン教師なんてそれほど嫌われる要素なんてないのに、その残念な性格とそこはかとなく漂うドルドー臭で生徒からは蛇蝮のごとく嫌われていた

「いや、だから彼女の前世は大魔王カオス・ロードで、あなたの前世は私の想い人アンジェリーナなんですって!」

「まだそんなこと言うんですか、気持ち悪い!いい加減にしないと、校長…じゃなくて警察を呼びますからね!」

有村先生に涙目で怒鳴られたのが効いたのか、気持ち悪いと言われたのがクリーンヒットだったのか、ドルドーもとい佐伯はちょっと怯んだ

「と、とりあえず今は退出します。でも、魔王が目覚めたからには、あなたの記憶も間もなく蘇る!その時に僕の言葉の真実に気付くでしょう」

そう言うと、佐伯は跳ね飛ばした衝立をいそいそと起こして保健室を出て行った

束の間の静寂がよぎる

「あ、予習としてこの前渡した教科書、ちゃんと読んでおいて下さいよ!それじゃ」

再びドアの向こうからヒョコっと顔を出した佐伯は、それだけ言うといなくなった

おし黙る私たち

静寂が耳に痛い

「……えーと、教科書って?」

やっとのことで声を出した大柄な少年に、そこ聞く!?と心の中でツッコむ

「………僕の地球を守って」

「まさかの少女漫画」

「いや、面白かったのよ!感動したし、ハマっちゃったし、泣いたりハラハラしたりもしたのよ」

慌ててわたわたと手を振る有村先生

「でも、でも!私の輪くんは、あんなワカメヘッドじゃなーい!」

有村先生の主張に、生暖かい笑顔を浮かべる男子二人

でも確かに、前世の彼氏がドルドーなんて嫌だ

前世が魔王より嫌だ

魔王の私は、ドルドーのことをちょっと困ったヤツだくらいにしか思ってなかったけど、女子中学生の私としては全力でお断りだ

なので私は、ドルドーの想い人だったというアンジェリーナに深く同情したのである


でもなー、アンジェリーナってどっかで聞いたことがあるんだよなー


一瞬、私の脳裏にさらりとした金髪で切れ長の緑の瞳をした美しい女性の姿が思い浮かんだ


そうだ、アンジェリーナって、勇者の嫁じゃん


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