0.異世界へ…
好きなことを詰め込んで、ファンタジー作品を執筆してみました。
まず世界観を伝えるプロローグ的な話の後、本編に入ります。
アラサーアラフォー向けかなと思いますが、よろしければぜひどなた様もご笑読くださいませ。
目が覚めると、俺は謎の空間で寝っ転がっていた。
「ここは? 俺はなんでこんなところに……?」
――やあ、目覚めたね。思い出せるかな? ここは次元の狭間だよ
「⁉︎」
頭の中で声がして、そんなことを言ってきた。そして、段々と何があったかを思い出してきた。
仕事からの帰り道、向こうから歩いてきた子供とすれ違う寸前に、突然足元が真っ暗になったのだ。
最初は陥没事故でも起きたのかと思ったが、どうも違うようだった。
何が何だか分からなかったものの、とにかく子供だけでも助けなきゃと、体を掴んで放り投げて、自分はその足元の暗闇の中に落ちていった……ような気がする。
――それは、突発的に開いた次元の穴だったんだ。普通はそんなこと起こらないんだけど……ほら、バミューダトライアングルの謎とか色々な話が伝わってるでしょ? 今回もそれだよ
「そうか……」
って、いやいや、この声(?)はなんなんだ? どこから聞こえてるんだ。
――あ、自己紹介が遅れたね。僕は、君達の世界の管理者。いわゆる神様かな。今は君の頭に直接話しかけてるよ
急な話だったが、俺には不思議と素直に信じられた。この謎の空間からして人知を超えているし、なぜか嘘をついていないとも分かる。それこそ、相手が神様だからなのかもしれない。
「神様……本当にいたのか……それで、なんなんだ。俺はどうなるんだ?」
――ふふ、その話に入る前に、実は君にはお礼を言わないといけなくてね。次元の穴に落ちる前、通りがかった子供を助けてくれただろ? 実はあの子、これから成長していって、やがて何十世紀ぶりの世界の救世主になるんだ
そうなのか? とっさにやったことで実感が湧かないが、まあ、助かったならよかった。
社会人になって十数年、学生だった頃の夢も情熱もほとんど忘れてしまった俺のようなおっさんと引き換えに、未来ある子供が救われたなら、悪くない話だ。
――いやいや、おかげで人類どころか地球も救われて万々歳さ。僕としても大事な管理区だけど、かといって人の子の運命には立ち入れないから、心配していることしかできなかったんだ。そこで、君が尊い犠牲になってくれたってわけ。でも残念ながら、完全に削除された存在は復元が不可能というか、とにかく色々複雑なルールがあって、君は元の世界に戻れない。そこで提案なんだけど……
「それって……まさか……」
なんだか聞いたことのある展開だ。
――そう、最近なぜか君達の間でよく知られてるみたいだけど、異世界で新たな人生を送ってもらおうかな、って。そこは、ざっくり言うと、いわゆるファンタジーな世界だよ。魔物もいるし、魔法もある。そこで自由に生きてみるのも悪くないでしょ?
やっぱりか。まあこういうのって、そうなってしまったものは仕方ないと割り切るしかないな。なるようになる、または、なるようにしかならない、というのが俺のモットーだし。
しかし、この流れだとこれまたやっぱり……
――もちろん、いくつか特典をつけるよ。なにせとんでもない業を積んじゃったからね。物は持ってけないんだけど、それ以外なら大概は思い通りさ
おお、助かる。とりあえず次の世界で苦労しないだけの知識と……
――それなりの体とステータスはマストだよね。ちなみに、次の世界には魔法があるんだけど、魔法言語と魔法陣の組み合わせで使うものなんだ。その適性もマックスにしとこう
話が早いな。それと、こういう時はチートな能力がある……んだよな?
――あー、でも人間である以上は限界というのもあってね。いわゆるスキルは、誰しも一つだけなんだ。それに自分では選べなくて、蓋然と必然の交わるところ……分かりやすく言うと、ガチャシステムになってる。まあ、君のカルマを使えば、最上級レアスキルのみのガチャだからさ。こればっかりは、そういうものとして納得してくれるかな
そう説明された後、いつの間にか、俺の前には黄金の宝箱があった。
――その中には今、無数の可能性がある。蓋を開けた瞬間にそれは確定し、そこにあるものが君のスキルとなる。さあ、開けてみて
「なるほど、これもまた『なるようになる』ってとこだな……」
そうして、俺は蓋に手をかけて、持ち上げてみる。すると、宝箱の中から何か煌めくものが立ち上り、俺の体に取り込まれていく。
――おめでとう……! いくつものギフトの中から、特に素晴らしいものが出たね。それは『閃き』。いわば才能そのものが放つ火花のように儚くも眩い輝き、ごく限られた者のみが持ちうる神秘の能力さ
「閃き? それはどういうものなんだ?」
――言葉通りの意味のスキルだよ。つまり、何か必要に迫られた時、君の中にはそれに対する答えが生まれる。そのスキルの価値に比べれば、ステータスや魔法なんかは微々たる要素に過ぎない。ゲームだって、何をしたらいいか分からない初心者の操る強キャラより、全てを理解している上級者のザコキャラのほうが遥かに有利でしょ?
そうか。桁外れの魔力とか何でも創れる能力とか、もっと分かりやすいものがいいと思っていたが、そう言われると悪い気はしないな。
――じゃあ、そろそろいいかな。では、どうぞ新たな世界で楽しい人生を……
長かった管理者とやらの話がようやく終わろうとしたその時、ふと俺の頭の中をある懸念が駆け巡った。
「待った! 地球では俺のことはどうなるんだ? 何か気を利かしてくれるのか?」
――いや、単に行方不明ってことになるね。僕は人の間のことには介入できないんだってば
となると……当然警察なり何なりが俺を探すだろうし、そしたらその過程で、俺のパソコンのハードディスクの中身が見られることに……?
「待て待て、やっぱり帰る! もういいから帰してくれ。早く、早く!」
――え、だから無理なんだってば。さっきはなるようになるとかなんとかで納得してたじゃない。今さらそんな取り乱さないでよ
「そういう問題じゃないんだって! 別に悪いことはしてないけど、プライバシーというもんがあってだな、嫌なものは嫌なんだよ! 頼む! 帰らせてくれ」
――えー? 往生際が悪いなぁ。仕方ない、ここから帰るというのは無理だけど、ヒントをあげる
「ヒント? 帰れるならなんでもいい、教えてくれ!」
――うん、あのね、地球と向こうの世界はそもそも次元が違うので、普通に移動したんではどうやってもたどり着かない。また次元に穴を開ける必要があるわけ。幸いというべきか、時間の流れだって共通じゃないから、上手くやれば向こうの世界で過ごした時間を無視して、元の時間軸に戻れる。で、肝心のその方法というのが…………でね…………だから…………とすればいいんだ。分かった? じゃあ今度こそ、いってらっしゃーい~
その言葉を最後に、俺の意識はどこか遠くへと旅立っていく。
最後の最後に聞き出した、帰る方法。それは、はっきり言ってあまりに荒唐無稽で、遠大に過ぎるものだった。
だが、しのごの言ってる場合ではない。何が、なるようにしかならない、だ! 俺は絶対に帰ってやると、固く心に誓うのだった。