5章 脱走は不可能
魔夜美は二階に上がり、一瞬魔法の世界を見てしまう。魔法の世界に降りようとする魔夜美は、布団を使って下界に降りるが、其処はなんの変哲も無い普通の東海村だった。
魔夜美は二階に上がった。二階は2LDKで、玄関と風呂とトイレとキッチンの付いた12畳くらいのリビング、もう一つの部屋は六畳程で、ベランダ付きの部屋が有った。部屋はガランとしていたが、可愛らしい布団が1組置いてあった。そして発泡スチロールの箱が20個程置いてあった。リビングにも布団が敷いて有ったから。魔夜美はコッチの部屋で寝る事になるんだなと思った。
魔夜美は窓辺の閉じられたカーテンを開いた。外から見える景色は東海村の杉林では無く、魔法の世界だった。空飛ぶトラックに乗った青年が窓辺で停車した。空飛ぶトラックには黒猫ヤマトのクール宅急便と書かれていて、運転手は酷く驚いたような顔をした。
「こんにちは黒猫ヤマトです。荷物受け取りに来ました。それです。それ発泡スチロールの奴」
ドスドスドス、階段を上がって来る足音が聞こえて、振り向くとフェレ太郎だった。
「ミャミャー」
フェレ太郎は発泡スチロールの箱を2個持ってきた。あのアイスクリームを入れていた箱だなと魔夜美は思った。
「これを運べば良いんですね」
「ミャア」
フェレ太郎は愛想良く返事をした。フェレ太郎は何回も往復して、発泡スチロールの箱を運転手のお兄さんに手渡した。
「何時も大変ですね」
お兄さんが言うと、フェレ太郎は
「ミャアミャ」
と答えた。大変そうだから、魔夜美も途中から発泡スチロールの箱を運ぶのを手伝った。
フェレ太郎はえらく感激して、尻尾をぱたと揺すった。やがて荷物を積み終わると宅急便のお兄さんは走り去った。
フェレ太郎も、一階に降りて行ったので。魔夜美は暫く考えた後、布団のシーツを外し、ベランダの柵に先っぽだけくくりつけた。そして外に向けてダラリと垂らすと。ベランダを乗り越え、シーツに捕まって下まで降りて行った。
地面に足を降ろすと、其処は東海村の杉林だった。秀紀が玄関からヒョッコリ顔を出して。
「脱走は無理だからね」
と言った。
「頭がおかしくなりそうだわ」
魔夜美が言うと、秀紀は
「人は頭がおかしくないと自分で信じて入れば狂ってないんだ。でも二度と同じ事をしない方が良い。他の人が見たら、本当に頭が可笑しな人だと思われるから」
と答えた。
魔夜美はムカついて居た。なんでコイツラは隠し事ばかりするのだろう。
「魔夜美ちゃん、足痛いだろう?砂利の上に裸足じゃね」
秀紀はそう言うと。室内からスリッパを取って来て差し出した。そしてオープンと書かれて居た扉のプレートをクローズに変えた。
「本当言うと、このアイスクリーム屋はネット販売限定なんだ。一般の人には売らない。君は産まれた時からの預言者じゃなくて、途中からの預言者だから、招待したんだ」
「私は預言者じゃないわよ」
「僕達の世界では君みたいのを預言者と呼ぶ。君の言ったことは現実に実現可能な事ばかりだから。それは未来予知。預言者の未技だ。もしかしたら、君は自分の言ってた事は自分が思い付いた事だと思ってるかもしれないけど。其れこそが神の啓示なんだと言われてる。さあ中に入ろう」
「私が頭で考えた事よ。もしかしてネットに書いた予言の事を言ってるの?あんなの紛れ当たりよ。それに私が書いた予言って、推理小説家ならだいたい思い付く事じゃない?私が預言者なら、マイクラクライトンや藤子F不二雄も預言者よ」
魔夜美はスリッパを履き、秀紀の後をついてから言った。
「君の予言は、皆んなが信じたいと思う予言だった。その辺は尊敬してる」
秀紀は店の玄関を開け、魔夜美を中に案内すると答えた。
「だから予言じゃ無いってば!」
魔夜美が言うと。
「予め言うのが予言だよ。君は降霊術の才能があるようだ」
「私の頭で考えた事なんですけど?」
「そう考えるのは頭がイカレテル証拠だよ」
「人を馬鹿にするのも大概にして!」
魔夜美は本気で怒ったが、秀紀は不思議そうな顔をしている。
「此処で喧嘩してると人目につく、中で話そう」
秀紀は言った。