表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧憬リテンション  作者: 理丘
4/8

彼氏の友達に会う

五時間目の授業の後の休み時間は今まで一言も喋ったことのない女子に囲まれて私の変身について賞賛の声を貰った。

鈴岩さんはそのメイク術の手腕を絶賛されていた。


面映ゆい、嬉しくてちょっと恥ずかしい気持ちになりながら受け答えする。


「武藤さんて勉強にしか興味がない人かと思ってた」

「あ、あたしも」


「え? そんなことないよ。この学校だったらついていくの必死だとは思ってるけど」

「ええ! クラス一の秀才なのに?」

「ええ!」


それ何?何情報?


「違うの? うちの高校順位を貼り出したりしないけど何となく誰がトップか皆知ってるよね?」


私はその新事実に開いた口が塞がらない。


そんな訳ない。

ここにいるということは全員同レベルだと思うのだが。


しかし短い休み時間で満足に訂正できないまま中途半端な状態で誤解されてしまった。



そして六時間目が終わりHRの時間になると私はもう雅也君の友達に会わなければならないということの方に脳みその大部分を使っていてさっきの休み時間の話をすっかり忘れてしまっていた。


緊張してきた。


まだ会ってもないのに。


ただ鈴岩さんのおかげで少し勇気を持つことができた。

クラスメイトの言葉で自信がついた。


今日ならきっと大丈夫。なはず。




朝寄町は私と雅也君の住んでる町から一番近い賑やかな駅で学校からの距離では私の方が近い。

先に到着した私は着いた事をラインで伝えると前髪を整えショーウィンドウに映る自分の姿を確認する。


今日の朝より少しだけマシな自分がそこに立っている。


いつもの自分を変えるのって本当に恥ずかしい。


当然だけどマシと思っているのは私の主観だ。

雅也君にそう思ってもらえないのなら全く意味がない。


心臓がさっきから忙しなく動いて耳の奥にまで響いていて煩いほどだ。


深呼吸を数回繰り返した頃、とうとう前方から雅也君が友達らしき人達と改札を出てくるのを確認する。

雅也君の友達は中学生の頃彼の周りにいたのと同じタイプのクラスのカースト制の上位にいそうな面々だった。

女子も数人いてとても可愛い。


途端自分が多少変えたところで全く太刀打ちできなさそうな可愛さを見てしまうと更に恥ずかしくなる。


それでも、鈴岩さんとクラスの皆に褒めてもらえた事を思い出し顔を上げて雅也君に向かって小さく手を振って自分の場所を伝える。


雅也君は手を振る私を一回スルーしたがすぐに視線を戻して私の事を凝視する。

え?何その見事な二度見は。


戸惑っていると目を見開いた雅也君が小走りで私のそばまでやってくる。


「美希、え? どうしたの? それ」


その態度だけで失敗したのだとわかってしまった。


つまり、今日の私の変身は雅也君的に全然イケてないのだということが。


恥ずかしくて俯いてしまう。もう怖くて雅也君の目を見ることができない。


恥ずかしい。スカートの丈を短くしてしまったことや俄かメイクでちょっと可愛くなったと思ってしまった自分が。


「あの、変かな? 雅也君のお友達に会うからちょっとお洒落してみたんだけど、その、ごめんなさい」

「何で謝ってんの?め「あ! 雅也の彼女? めっちゃ可愛いじゃん!」


ぐだぐだと言い訳をしていたら雅也君の友達が横から声をかけてくる。


しかも可愛いと言われて聞き間違いかと思い思わず顔を上げる。


「ああ、小動物系かあ。このむっつりスケベ」

「何でだよ!」


あっという間に所謂イケてるメンズと女子に取り囲まれあわあわとしていると雅也君が私の側に来てちょっと庇うように前に立つ。


「俺の彼女の美希。美希、こいつら高校の友達」

「よろしくね、美希ちゃん」

「めっちゃ頭いい学校行ってるんでしょ?」

「凄いね、うちら馬鹿ばっかだもんね」

「それお前だけだろ。九州全部言えるようになったか?」

「は? 言える訳ないし」


呆気に取られてポカンとしてしまう。


テンポのいい会話が飛び交い皆楽しそうだ。

当然私が口を挟める隙もなければ挟もうとも思わない完璧なトークの嵐。軽く頭を下げたけどきっと誰も見ていない。


聞いてるだけでも面白い。

雅也君はいつもこんな楽しそうな輪の中にいるんだ。


「美希」


飛び交う会話を聞いているとすぐ側から雅也君がこそっと私の名前を呼ぶ。


顔を少し上げて見上げるとちょっと困った顔をして笑う雅也君と目が合う。


「ごめんな、こいつら騒々しくて。でもいい奴なんだ。美希も友達になれると思う」

「え?」


雅也君は、何を言っているのだろう?


友達?

私がこの人達と?


いや、いやいや無理でしょ。

この方々は雅也君の友達で、雅也君だから友達になった人達だ。

私となんて友達になりたいなんて思うわけない。


雅也君の意図が分からなくてついその綺麗な顔を見つめてしまう。


すると彼はさらに困ったような顔をしてふいっと視線を逸らして、もう一度私の顔に視線を合わせて目を合わせる。

え? 雅也君に目を合わせられるとドキドキして呼吸ができなくなる。

ヤバい。


「ちょっとちょっと、そこイチャイチャしない! 見つめ合うの禁止! このメンバー誰も相手いないんだから気遣え!」

「知らねえよ」


見つめ合うのも束の間二人の間に雅也君の友達が割り込みベタな茶化し方をしてくる。

それに雅也君は適当に突っ込みを入れている。


私はビックリし過ぎて固まって動けなくなってしまった。


その時私の後ろから「くすっ」と小さく笑う声が聞こえてきた。

小さいけど妙に響くその笑い声につられて後ろを振り向くと長い茶色の髪がとても綺麗なザ・今どき!という感じのとても可愛い女の子が笑顔で立っていた。


雅也君と同じ高校の制服なので彼女も友達の一人なのだろう。


「いいなあ、雅也の彼女かあ。優しいしコミュ力高いし人気者だしカッコいいし自慢でしょ?」


突然の質問にテンパっている私は答えられずただ固まっているとゆっくり近付いてきて私の全身を隈なく眺められる。


「うちの学校でも当然モテるよ」


大きな瞳を細めて笑う彼女は一体私に何を伝えたいのか、何を言わせたいのかさっぱりわからず小さな恐怖が生まれる。


「美希」


まだ彼女が何か言おうとしているのを遮って雅也君が私の事を呼び注意を向ける。


「人数多いしカラオケでも行くかってことになったんだけどいい?」


私はこくこくと頷き雅也君の側に身を寄せる。


ゾロゾロと総勢六人で移動しながらまたわあわあと騒ぐ。

人見知りの激しい私はこんなに知らない人に囲まれるとどうしていいかわからなくなる。

つい雅也君を頼ってしまう。


近付き過ぎると嫌がられるかなと思いその距離感は微妙だけども。


チラッと視線を雅也君に合わせてその表情を読み取ろうとすると雅也君も私を見ていて視線がバチっと合う。


そしてすぐに逸らされた。



あ、しまった。


恥ずかしいんだ。


私がみっともないから。


こんなのが彼女で今、雅也君きっと恥ずかしいと思ってるんだ。

慣れない格好をして友達に会いにきた私が必死過ぎて引いているのかもしれない。


居た堪れない。


心臓の辺りをギュッと握り俯く。


恥ずかしい。自分が恥ずかしい。



「美希」


俯いていると雅也君が歩きながら私の名前を呼ぶ。

俯いていた顔を上げて視線を合わさないように呼びかけに応じた事を伝える。

視線を合わせてまた逸らされたらまた傷付いてしまう。


「ちょっとスカート短くない?」


視線を逸らされなくても傷付いてしまった。


「雅也君、あの、私……」

「ん?」


みっともなくてごめんなさい。


そう言おうとして途中で言葉がつっかえて出てこない。

それを言って私はどうするんだろう。雅也君は優しいからそんなことないと本心じゃなくても言うだろう。

スカートの長さもやんわりと指摘するに留めていてくれるし。


もう帰りたい。


雅也君がここにいて、こんな風に思うなんて初めてだ。


ただ自分が惨めで居た堪れなくて消えてしまいたくなる。


「美希?」


言葉を止めてしまった私を不思議そうに雅也君が覗き込む。


ハッとして考えに耽っていた自分に気付き慌てて「何でもない」と笑顔を向ける。

そうすると雅也君も私に笑顔を向けてくれた。


暫くその笑顔に見惚れた。















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ