4話
突如現れたその少女。
整った顔に蒼い瞳、腰ほどまである長い金髪はさながら人形を連想させる。
身長は12歳程度というほどだがメイド服じみた服装がより幼さを助長していた。
その少女は覗き込むようにしてカノンの顔を見る。
「あの───」
「離れろカノン!!そいつはきっと魔法少女だ!!いや、魔法少女じゃなくたって君に関わるやつにロクなやつはいないぞきっと!」
少女の言葉よりも早く、アインは少女から距離をとるように後ろに飛び退くとそう言った。
「あ、あの…!別に戦うとかそうゆうのじゃないんです…!!」
その様子を見た少女は、あわてたように手を振りながらアインに言った。
そして未だ状況にあまりついていけてないカノンだったが、さりげなくアインにバカにされたような気がして眉をひくつかせていた。
「ちょ、ちょっと!!とりあえずみんな落ち着いて。…………その…えっと、あなたは?」
二人に言い聞かせるようにカノンはそう言うと、今度は少女の視線に合うように腰を屈ませた。
「あの……その…あなたが…戦いを望まない……戦争を望まない魔法少女…なんですよね…?」
少女の眉は下がり、困り顔を見せながらカノンに問う。
それをカノンは苦笑いを浮かべながら答えた。
「んー……たしかに、戦いは望んでないけど……──」
そこまでカノンが言ったときだった。
少女はいきなりカノンへと飛びつき、ほっとしたような嬉しいような表情を見せて小さく笑った。
「やっと…!やっと会えました…!!あなたにずっと会いたかったんです…」
「うわぁ!!カノン!!はやくそいつから離れるんだ!!自爆されるぞ!」
抱きつきながらそう言う少女に、アインは後ろで騒ぎ立てていた。
そんなアインを無視しつつ、カノンは少女になにか言おうとしたがそれよりも早く、少女はハッと我に返ったようにカノンから離れると勢いよく何度も頭を下げながら謝りだした。
「すすすすみません!!すみません!!つい嬉しくなってしまって……」
落ち込むようにうなだれている少女を見て、カノンは小さくため息を吐くと再び聞いた。
「なにがなんだかわからないけど……とりあえずあなたの名前を教えてもらえる?」
うなだれた頭を上げ、少女は答える。
「あ…自己紹介が遅れてしまってすいません……。わたしはフリルと言います。…今はどこにも所属してはいません」
「えっと……フリル…ちゃん?…は、どうして私に会いたがってたの?」
なおも困り顔を作っているフリルという少女に聞く。
「……わたしも…戦いを望んではいないんです…。それで、あなたのことを知って…わたしと同じ考えの魔法少女がいるのが嬉しくて……仲間に…なれたらいいなと…思いまして…。……あ!す、すいません!!仲間なんて偉そうに言っちゃって!!下僕でもなんでもいいので、どうか置いてもらえないでしょうか…?」
またも何度も頭を下げ謝りながら言うフリルだったが、その言葉にカノンは顔を輝かせていた。
「ほ、ほんと!?あなたも私と同じなの!?仲間なんて大歓迎だよ!だからほら、頭を上げて?」
優しくそう言ったカノンにフリルは恐る恐る頭を上げると、カノンの後ろにいつの間にか近づいていたアインが言った。
「まぁ、仲間なんてのは認めないが下僕というのは気に入ったぞ。害を加えないというのであればきりきり働いてもらおうか。あと大事なことだからもう一度言うが君を仲間なんて認めないからな」
それを聞いたフリルが泣きそうな顔になるのを見て、カノンはアインへと鋭い視線を向けた。
「ちょっとアイン!!いいじゃん認めてあげたって!初めて私と同じく戦いを望まない人に会えたんだよ!?敵意もないみたいだし、なにか問題があるの!?」
立ち上がりアインへと詰め寄り叫ぶカノンに、アインはため息を吐き片手を白衣のポケットに突っ込んで呆れたように言った。
「あのな…君はもう少し他人を疑うことを覚えろ!そいつは魔法少女なんだぞ!?いったい何回魔法少女に殺されそうになってるか分かってるのか!?」
言われたことに思い当たることもあり、怯むカノン。
「そ…それは分かってるけど…でも──」
「…それにそいつは一番知らなきゃいけないことを言ってないだろ」
アインの言った言葉にカノンは視線を逸らした。
一番知らなければいけないこと。
今は戦争中だ。そんな中、他人を知る際に知らなければいけないことは名前などではない。
知らなければいけないこと。それは戦力だ。
そして魔法少女の戦力として一番考えられるものは───。
「それを……」
睨み合う二人にフリルは細い声で呟く。
「魔法を教えれば……仲間にしてもらえますか…?」
弱く、覗き込むようにしてそう言うフリルにアインは答える。
「取引してるつもりか?悪いが魔法を教えるのは前提条件だ。それを教えたからといって信頼を得られるかというのは別だ」
アインの言葉にフリルは一瞬黙ると小さく言った。
「…………わかりました………前提というのなら教えます……。まずは…それからです……」
そう言うとフリルは壊れた入口の壁へと手を触れ、二人に視線を移して言った。
「見ていてください。これが、わたしの魔法です」
壁に手を触れたまま歩きだすと、壊れたはずの壁がみるみるうちにと治っていった。
まるでガラスを割ったかのようにズタズタに壊れていた壁が今では新品のように傷も無くなっている。
「これは……」
その光景にカノンもアインも愕然としていると、壁をなぞるように歩いていたフリルの後ろの治った壁が、またもとの壊れたガラスのように崩れ始めていく。
それを横目で見たフリルは二人に向き直ると言った。
「これが…わたしの魔法…わたしを中心に半径1mの空間をわたしの望む世界に作り換えることができます」
その言葉にアインは息を呑んだ。
「作り換える!?作り換えるだと!?まさか…君の魔法は…」
フリルはアインの言葉にうなづくと言った。
「はい…創造魔法です」
「ん?創造魔法?なにそれ?」
唖然としているアインとは対照的にフリルの言葉に首を傾げるカノンに、アインはまた呆れたように視線を向け、今度は深くため息を吐いた。
「君…もしかして魔法の種類も知らないのか…?魔法にはいくつも種類があるんだ。君の魔法は破壊魔法に分類される。他にも移動魔法や干渉魔法なんてのもあるが、中でも創造魔法は別格だ」
「たしかにフリルちゃんの魔法はすごかったけど…そんなにすごい魔法だったの?」
「あぁ。創造魔法は製造が奇跡レベルで難しいんだ。すべての魔法少女の中でも片手ほどいるかも怪しい」
「あの…」
アインがカノンに説明をしている最中、フリルが話し出す。
「他に…なにをすれば仲間にしてもらえますか…?」
なおも仲間になりたそうにそう聞くフリル。
カノンもフリルの言葉に続いてアインに言う。
「アイン、そんなにすごい魔法少女が仲間になりたいって言ってるんだよ?それに味方は多いにこしたことはないでしょ?」
二人の視線を受けるアインは「うっ…」という声とともに一瞬視線を逸らすと、そのまま後ろを向いた。
「…………居るだけだ!いいな、居るだけだぞ?なにもするんじゃないぞ?信用したわけじゃないからな!」
言いながら歩きだし、アインはそのまま廊下を歩いていく。
去っていくその後ろ姿をカノンは見て、「そうだ」と思い出したようにフリルに向き直る。
「そういえば私たちの自己紹介がまだだったね。いや…すっかり忘れてたよ…ごめんね」
気まずそうに頭に手を回し、苦笑いを浮かべてそう言ったカノン。
それにフリルは手を降って否定した。
「い、いえ…謝られることのほどじゃ…」
「私はカノン。こんなだけど仲良くしてくれると嬉しいよ。それで、さっきの白衣着たのがアイン。…………ほんとは良いやつなんだけど…」
チラリとアインの歩いていったほうへと視線を向け言うカノン。
「あ、いえ…気にしてないですよ。それより…さっきのは…?」
小さく首を傾げるフリルにカノンは笑顔を向けて答える。
「まぁとりあえずは仲間ってことにはなったのかな。もちろん私はアインと違ってちゃんと認めてるからね?」
それを聞いたフリルはパァっと顔を輝かせて笑った。
「ありがとうごさいます!!」