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第四次魔法少女大戦  作者: わにさん
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2話(後編)

教会から走り去っていったウォルの後を、マリアは追っていた。


しばらく行くと前方に立ち止まるウォルの姿が見え、マリアはウォルに近づいた。

マリアが背後に立った気配に気づいたのだろうウォルは、振り向きもせずに一言こう言った。


「姉さん…俺はやっぱりあいつとは組めない…」


そう言ったウォルの拳は固く握られ、震えていた。


それを見たマリアは、ウォルの言った言葉に返すのでもなく、ウォルの固く握った拳をそっと両手で包みこんだ。


「帰りましょう…?みんなが待ってるわよ?」


優しく慰めるような、そんな声音にウォルはなにも言えなくなりただうなづいた。


それからしばらく無言で歩みを進めていた2人は、教会があった都市部からは離れ、閑散とした一際緑が深い場所を歩いていた。

すると、そこには大きくもなく小さくもないというような大きさの屋敷がひとつぽつんと居を構えていた。


2人はその屋敷へと歩みを進め、古めかしいデサインの扉を開く。


扉を開けた先は大広間となっており、正面の2階へ上がる階段の横の壁にはズタズタに引き裂かれた聖母マリアの肖像画が飾られていた。


2人が屋敷内へと足を踏みいれると、奥から1人の少女がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

その少女は2人を見ると元気よく言った。


「おかえりなさい!!ねぇ見て見てこれ!!さっき私がやっつけたんだ!」


マリアやウォルよりは少し背の低いその少女は、ズルズルと引きずっていたそれを両手で掲げ、2人に見せた。


掲げて見せたそれの招待は、まるでボロ雑巾のようになった魔法少女の骸だった。


血まみれの魔法少女を目の前に掲げられ、見たマリアは腰を屈めその少女の頭に手を置き、優しく撫でると言った。


「えらいわ。いい子ね」


そう言われた少女はというと、胸を張ってえっへんというようなポーズをとってみせた。


少女の頭から手を離したマリアは続けて言う。


「ほかのみんなはどうしたの?」


「2階にいるよ?でも何人かは暇だって言って魔法少女を殺しに行っちゃった。お姉ちゃんが帰ってくるまで待ってなきゃダメだよって言ったのに!!」


マリアの問いに少女は多少怒ったような顔を作り、頬を膨らませて言った。

それを見てマリアは小さく笑う。


「ふふっ…あとで叱らなきゃね」


そんなマリアと少女のやり取りを横目で見ていたウォルは、無言で広間の階段へと足を運ばせた。


歩みを進め、階段をのぼろうとしたウォルの動きを、「ウォル」と背後からかかった声が止めた。


ウォルが振り向くと、マリアがウォルを見つめ、優しく言う。


「今日はもう休みなさい。元人間の私たちは他の魔法少女よりも休養を必要とするんだから」


マリアのその言葉にウォルは一瞬小さく俯き、再び顔を上げ「あぁ」と返事を返すと階段を上がっていった。


2階の自室へと戻ったウォルは、ベットへと座りこむと、先ほど教会でのことを思い出していた。


『きみもお姉ちゃんを見習ったら?』


『そろそろ殺すぞ』


アルトの言葉を思い出したウォルは、再び怒りがこみ上げてきたのか歯を食いしばった。


「くそ…っ」


俯き、小さく呟いたその言葉は、月夜が差す部屋へと飲み込まれるように消えていった。


だが、それと同時にマリアの言葉も思い出していた。


『それで…あの子の仇がとれるなら…』


『帰りましょう?みんなが待ってるわ』


………………………………。


ウォルは座っていたベットから勢いよく立ち上がると、部屋の窓を開け、その窓際に足を掛けた。


外の様子を伺い、誰もいないと分かるとウォルはそのまま窓から飛び降り、地を蹴った。






図書館内にはなおもアインの説教の声が聞こえていた。


「そもそも君はいつもいつも無茶しすぎなんだ。さっきの戦闘だって僕がいなかったらどうなってたか…」


アインの愚痴にも似た説教にカノンはしかめっ面を作る。

だが次のアインの言葉にカノンは固まる。


「いくら人間じゃない魔法少女といっても、あまり無茶をすると身体が持たな──」


アインのその言葉にしかめっ面を作っていたカノンは鋭い視線でアインを睨みつけ、見据えて言った。


「やめて」


突然反抗したカノンをアインは少し驚いた様子で見た。

アインを見据えたカノンのその表情はどこか辛そうで、アインはカノンの続く言葉を待つ。


「人間じゃないとか…やめて…。人間じゃないことを認めちゃったら…私は…私たち魔法少女は…ただの兵器になっちゃう……なら…私たちの存在意義なんて…」


アインから目を逸らし、吐き出すようにそう言うカノンを見てアインはため息混じりに言った。


「……兵器という認識は間違ってはいないよ。君たち魔法少女は兵器として造られたものだ。だから人間とか人間じゃないとかそういう──」


「ッ…!!」


アインのその言葉にカノンは俯いていた顔をバッと上げ、アインを再び睨みつけると叫ぶように言った。


「アインのバカッ…!!」


アインにそう怒鳴ったカノンはベットから飛び起き、続けて言う。


「アインにデリカシーが無いのは知ってたけど、そこまでとは思わなかった!!もう知らない!!白衣黄ばんじゃえ!」


「なッ…!?おま…っ!この白衣は僕のアイデンティティだぞ!?」


そう吐き捨てたカノンは、なにを言ってるんだと言わんばかりのアインなど目もくれず2階から1階のエントランスホールへと飛び降りると、そのまま壊れた入り口へと駆けていった。


「痛ッ!!」


──と思ったら、入り口手前で足を絡まらせ、盛大に転んでみせていた。


それを2階の手すりから身を乗り出して見ていたアインは呆れたように顔に手をかざし、ため息を吐くとカノンに向けて言った。


「カノン!どこ行くつもりだ!?」


「知らない!!」


叫びながら起き上がったカノンは、それだけ言うと今度こそ入り口へと向けて飛び出していった。


……図書館内に静寂が訪れる。


1人になったアインは、釈然としない感情から頭を掻き、近くのイスに腰掛ける。

そして、ぼうっと天井を見上げた。


『アインのバカッ!!』


「……………」


そう言ったカノンの顔を天井に思い出し、アインは白衣のポケットに手をつっこんだ。


視線を天井から2階へと移し、しばらく静寂に身を任せた後、軽く息を吸ってからアインはぽつりと呟いた。


「すこし…言いすぎたかな…」





「アインのやつ……!!あそこまで言わなくたっていいじゃん!!人間じゃないなんて!!」


どれだけ走っただろうか。図書館から遠く離れたであろう場所を、カノンは先ほどの愚痴を吐きながらズンズンと歩いていた。


「私だって頑張って──……って…あれ?」


ズカズカと歩いていたカノンはキョロキョロと辺りを見回し、ふと我に返って気づいた。


「ここ…どこだろ…」


ぽつりと呟いたその言葉は虚空へと消え、ひとりカノンだけが残された。


カノンは道に迷っていた。


ビルや建物がそこらじゅうにあることから、そこは図書館がある都市部であることは推測できるが、見たことのない光景にカノンは少し焦った。


だが、すぐにカノンから焦りは消える。

あのようにして飛び出してきてしまったため、戻るのが気まずく、アインに会いたくなかったからだ。


「まぁ…そのうち戻ればいいよね…」


カノンが気楽にそう考え呟いた、その時だった。


「!?」


突如として目の前の光景が歪み、視界が狭まっていく。


「ッ…」


ついには立っていられなくなり、地面へと膝をつく。

そのままたまらず倒れ込み、徐々に薄くなってゆく意識の片隅でわずかに声が聞こえたのをカノンは感じた。


「見つけたぞ」





「ん…ッ…」


カノンが目を覚ますと目の前には無数の座席が並んでおり、辺りに視線を巡らせると、どうやらそこは立派なコンサートホールのような場所だった。


カノンはそこの舞台の場所におり、壁に磔のような格好で鎖で打ち込まれていた。

そのせいで鎖が打ち込まれた四肢は動かすことができない。


「よぉ」


ふと、下方から声が聞こえた。

カノンはそちらに視線を向けると、そこには緑色の髪をした目付きの悪い少年がおり、こちらを見上げていた。


「姉さんが危険視するからどれほどのもんかと思っていたが…やはり思ったほどではなかったな」


そう呟く少年にまだ意識がはっきりしない中カノンは言う。


「きみは…」


「お前に名乗る必要はないだろ。が、まぁひとつ言うならお前がこの前殺した魔法少女の身内みたいなもんだ。お前の背中の翼のな」

カノンの言葉を遮るようにその少年は言った。


だんだん意識がはっきりしてきたカノンは四肢に痛みを感じはじめながらも、少年が言った言葉に返す。


「これは…っ…………。ごめん…なさい…」


背中の翼に視線を送り、そして俯きながらカノンは答えた。


「謝れば許してもらえると思ったのか?俺はお前に妹を殺された。多少血の気は多かったが良いヤツだったよ…。だが…!それだけじゃない!!」


怒りを表情に表しながら言った少年の周りには突如として黒い鎖が渦を巻くように現れ、それは少年の叫びに呼応するようにカノンの腹部を貫いた。


「ガハ…ッ…!」


「お前のせいで!姉さんは頭を下げた!!侮辱された!!あいつも許せないが、原因であるお前も俺は許せねぇ!!」


2本目の鎖がさらにカノンの腹部を貫いた。


「殺してやる…!!ゆっくり…!痛みを味あわせながら…!!」


少年の顔は憎悪で満ちていた。その顔を見ながらカノンは後悔と懺悔を頭の中で繰り返した。

縫い合わせた腹部の傷が広がり、またちぎれるのではないか……。カノンがそう思ったその時だった。


「君はまた死にかけているのかい?」


ホールの奥から声が聞こえた。

聞き慣れたその声にカノンは顔を上げてそちらに視線を向ける。


するとそこには黒髪に白衣を着込み、ポケットに手を突っ込んだ1人の少年が立っていた。


「アイン…」


その少年の名前がカノンの口から零れる。


緑色の髪の少年。もといウォルもまたアインに視線を向ける。


「お前…こいつの仲間か…?」


眉根をよせながらウォルは問う。


それにアインは頭をぽりぽりと掻きながら答えた。


「まぁ…仲間?…かな」


そう言ったアインをウォルは鼻で笑うと続けた。


「はっ…!じゃあなんだ?こいつのことでも助けに来たってのか?」


そう言ってウォルは親指でカノンを指さした。


「いや…ただそこで磔にされてるおてんば娘を迎えに来ただけなんだが…まぁ状況的にそうゆうことでいいや」


めんどくさそうに答えるアインにウォルは眉間にしわをよせる


「悪いがこいつは今から俺が殺すことになってる。しかもお前…人間だな?魔法も使えない人間が俺に勝てるとでも思ってんのか?」


「あー……そうだね。確実に勝てるとは言わないし、負ける確率のほうが高いんだろうけど…まぁ──」


そこまで言ってアインはウォルに視線を向けると言った。


「──少し覚悟はしろよ?」


瞬間、アインの両手が鈍く光る。


「マスターキー接続。ピース01、転送」


そう言うとアインの目の前に2mほどの巨大なハンマーが青白い光と共に現れた。


「!!」


その光景を見たウォルは咄嗟にアインに自分を渦巻く鎖を放つ。


だがその鎖が届くよりも早く、アインは手にしたハンマーを横に薙ぎ払った。

すると、ウォルの身体が突如として真横に吹き飛び、ホールの壁を突き破って外へと飛ばされていった。


「!!??」


壁に穴を空け吹き飛ばされたウォルだったが、瞬時に鎖でボールのように自分を囲い、ダメージを最小に抑えていた。


「鎖で自分を囲って防いだか…なら次はこれだ」


外に吹き飛ばされたウォルは、舌打ちをしながら壁の瓦礫を避け再びホールの中へと戻ってくるとアインの両手がまた鈍く光っているのが見えた。


「…ビース02、転送」


そう言うとアインの手には、先ほどのハンマーと入れ替わるように1丁の銃身に青白い光の線が走ったスナイパーライフルのようなものが現れ、アインはそれを手にするとウォルに向けて構えた。


「調子に…乗るな!!」


アインが引き金を引くのと同時、ウォルは目の前に鎖の壁を作る。


アインが放ったそれは鎖の壁へとぶつかるとバシャッと弾け飛び、四散した。


「…!!水!?」


弾けた弾丸の正体は水。超圧縮された水をアインはウォルに放ったのだ。

それを見てアインは言う。


「君の反応速度は素晴らしいと思うよ。でも、光より早く動けるかな?…ピース03、転送」


またしてもアインの手が鈍く光ると、持っていたスナイパーライフルと入れ替わるように今度は2本の黒いダガーが両手に握られた。

手にしたダガーをアインは近くの床へと放つと、それは床へと突き刺さり、瞬時にあたり一面へと雨のように雷光を降らせた。


「ッ…アァアァアアァア!!!!!」


それらに直撃したウォルは悲痛な叫びを挙げ、次々襲う電撃をその身に受けていた。


「濡れたから余計に効くだろ?」


得意気に言ったアインに、ウォルは歯をギリッと鳴らし、自分の周りに鎖でサークルを作った。

すると降り注ぐ電撃はウォルに触れようとした瞬間、その姿を消してしまっていた。


「!…なるほど。それが君の魔法か」


電撃による痺れが身体を襲う中、ウォルは答えた。


「ハァ…ハァ…俺の魔法は…鎖で囲った空間を支配できる…それがなんであってもだ…!クソッ…!油断した…」


悔しそうに自分の膝を叩くウォルだったが、アインは訝しげな顔をつくると言った。


「油断?君は誰かを殺そうとしていたのに油断していたのか?あぁ、どうりで…」


「……?」


アインの続く言葉にウォルは睨みながら視線を向ける。


「どうりで───弱いわけだ。君程度なら僕が相手でも倒せそうで安心したよ」


そう言ったアインの言葉にウォルは一瞬固まると次に目を見開き、身体を震わせた。


「ッッッッッ!!!!!……お前まで…!お前まで俺を馬鹿にしてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」


ウォルの叫びがホール内に響く。

そのままウォルはアインに向かって無数の鎖を放ちながら駆けた。


鎖がアインを襲おうと目の前まで迫った瞬間、それらの鎖たちはなにかに弾かれ、ウォルの攻撃は失敗に終わった。


「!」


アインへの攻撃を防いだそれは先ほどまでカノンの腰に付けられた2枚の翼だった。

それらはアインの前へと交差するようにして壁を作ると鎖を弾いていたのだ。


「それは…あいつの…!」


「やっとこれの防御力が証明できたって感じかな。さぁそろそろ終わりにしよう。ピース04、転送」


アインの両手が鈍く光り両手に2丁のリボルバーが握られる。だがそのリボルバーは銃身の部分が異様に太く、赤色の光の線が走っていた。


アインはそれを突進してくるウォルに向けると引き金を引いた。

すると銃身からは巨大な火炎弾が発射され、それはみるみるうちに被弾したウォルの身体を焼いてゆく。


「ッ…!クッ…!」


だが、ウォルは咄嗟に自分を鎖で囲み、自分を包む炎を支配し消失させた。


ウォルは近づいていたアインとの距離を一旦とると言った。


「そろそろ終わりにするだと?調子に乗るなと言ってるだろ!!」


怒声を放ったウォルは無数の鎖を背後から次々と出現させると、それらを自分の身体を縛るようにして巻きつけてゆく。


「お前が終わるんだ」


そう言ったウォルの姿は鎧を纏ったように鎖で全身を縛り、騎士というような出で立ちを見せた。

そして次の瞬間、アインの視界からウォルが消え、脇腹に強い衝撃を感じた。

声にもならない悲鳴を上げながらアインは、ホールの客席をなぎ倒し吹っ飛ばされていた。


「ゲホッ!ガハッ!なにが──」


自分に起こったことを理解するよりもはやく次の衝撃が左腕に襲う。


「ッ!!」


壁へとめり込み、左腕からメキメキと嫌な音が聞こえる。

そして壁にめり込んだ一瞬の時間で、ようやく自分の状況をアインは理解した。


ウォルは自分の身体に鎖を纏うことによって、自分自身で身体を支配状態にし、通常ではありえないスピードで攻撃を繰り返していたのだ。


そしてそれと同時にアインは自分が危機的状況であることを理解した。

武器を転送するよりもはやく次々と攻撃を受けているために反撃をする隙がなかったのだ。


そうこうしているうちに何十発とウォルの拳を喰らい、吹き飛ばされたアインの身体はもはやうまく動かすことができなくなっていた。


「ア……カハ…ッ」


電光石火とも思えるその攻撃を繰り返していたウォルだったが、ホール入り口近くの通路で血を吐きながら倒れ込むアインの前に現れるとウォルはしばらく見下ろし、そして言った。


「終わりだ」


右手を挙げ、その腕でアインを貫こうとした。まさにその時だった。


ウォルの全身に纏っていた鎖が突如として弾け飛んだのだ。


「!?」


驚きを隠せないウォルは、一瞬その動きを止めた。


その瞬間を…………アインが見逃すはずもなかった。


アインは絞り出すようにして叫んだ。


「……ピース…05…!」


アインの言葉に手が光り、刀身に青い光の筋が走った1本の刀が握られる。


「うおぉぉぉぉおぉぉぉ!!」


アインは咆哮と共にもはや悲鳴をあげる身体に鞭を打ち、その切先をウォルの胸へと突き刺した。


「カ…ッ!……て…めぇ…!」


刀身に手をかけようとしたウォルだったが、アインは突き刺した刀をさらにねじ込むと叫んだ。


「起動しろ!!!!」


アインの叫びと共に刀は冷気放ち、みるみるうちにウォルの胸から身体を凍らせてゆく。


「なっ!?クソ!!チク…ショウ!!」


身体を氷が侵食していくウォルは、足掻きとばかりに背後から出現させた鎖をアインへと放った。


その鎖はアインの脇腹を貫いたが、アインは刀を手放すことはなかった。


「クソ……ッ!……クソッ…!お前…なん…かに…!」


その咆哮を最後にウォルの身体は厚い氷に包まれた。


「ハァ…ハァ…」


凍りついたウォルを見ると、アインは全身の力を失いその場に倒れ込んだ。


上手く呼吸ができず口から血が零れるアインに、声がかかった。


「アイン!!」


声のする方へアインが視線を向けると、そこには駆けてくるカノンの姿があった。

どうやらあの鎖は魔法で作り出していたものらしく、ウォルが凍りついたと同時に消滅したようだ。


アインに駆け寄ったカノンはアインの頭を抱えあげ、膝に乗せる。


「ハ…ッ…カハ…ッ!ハァ…ハァ…。……迎えにきたぞ」


掠れた声でそう言って手を伸ばすアインにカノンはなにも言えなくなり、小さく頷いた。


そのまま傷だらけのアインを背中に乗せると、カノンは歩きはじめた。

そして、チラリと凍りつき動かないウォルの方へと視線を向け、言った。


「あの子は…」


その声に背中のアインは答える。


「…君を殺そうとしたやつだ。助ける義理なんてない…ぞ。一応……言っとくけど」


そう言ったアインにカノンは申し訳なさそうに視線を前へと戻すと、なにも言わずに再び歩きはじめ、コンサートホールを後にした。




カノンたちが去り、静寂が戻ったホール内に凍りついたウォルを見つめるひとりの少女が立っていた。


その少女はフードを被り顔は見えないが、フードから除く金髪を輝かせていた。少女はウォルを助けるでもなくただ見つめると、カノンたちのように出ていこうとホールの入り口へと歩きだした。

出口近くまで歩みを進めたその少女はしかし、ひとりの綺麗な金髪をした少女の声によって止められる。


その少女はホール入り口で呆然と立ち尽くし、胸を貫かれ凍りついているウォルと立ち去ろうとしていた少女を視界に収め、静かに言った。


「お前が…やったのか…?」


そう聞く少女、マリアは身体を震わせながらか細い声で聞いた。


「……………」


しかし少女はなにも答えない。


再び歩みを進ませようとする少女にマリアは、歯をギリッと鳴らし拳を震わせて言った。


「お前が…やったのかッッッ!!!!!」


ホール中に轟く叫びをあげ、自分の横を通り過ぎようとしたその少女にマリアは拳を振り下ろした。

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