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第四次魔法少女大戦  作者: わにさん
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2話(中編)

女神をかたどったステンドグラスから差す月光が100人は入るであろうというその大きな教会内を優しく包んでいた。

そしてその教会の教壇の前に立っている黒髪で黒いダウンジャケットを着た少女、アルトはナース服の少女の言葉に促され、教会の扉に目を向けた。


重々しい音と共に扉が開かれると、そこには長い金髪を煌めかせた整った顔だちの少女と、その後ろには緑色の髪をした目つきの悪い少年が立っていた。

その2人はコツコツと教会内に足を踏み入れ、しばらく進みアルトたちから少し離れた場所に止まると、金髪の少女はアルトを見据え言った。


「同盟を組みましょう」


「キミら誰だよ」


自分に向けられた言葉を無視し、アルトは金髪の少女に言った。

すると金髪の少女はコホンと咳払いをひとつし続ける。


「ごめんなさい。すこし先走ってしまったわ。私の名前はマリア。そしてこの子は私の弟のウォル。」


マリアと名乗った金髪の少女は、後ろにいた緑色の髪をした少年、ウォルと共に自己紹介をした。

それを聞いたアルトは「なるほどなるほど」とジャケットのポケットに手を入れながら言うと、続けて言葉を繋ぐ。


「それで?どうしてボクたちと同盟なんて組もうと思ってるんだい?見ての通りボクたちはひ弱な魔法少女そのものだ。ボクたちと同盟を組んだって力にはなれないと思うよ?」


アルトはニコニコと笑顔を向けてマリアたちに言った。


「いいえ。私はあなたの実力を知ってるわ、アルト。あなたの魔法もね。その上でこうして交渉してるのよ。…そうね……まずは信頼でもしてもらうために私たちの身の上話でもしようかしら。」


マリアは腰に片手を置き、続ける。


「私たち魔法少女がオリジナルである人間のクローンから造られてるのは知ってるわよね?」


問いかけられたアルトは笑顔を崩さずに答える。


「ああ。そっちのほうが改造しやすいとかなんとかって理由で魔法耐性、身体強化もろもろを備えて造られたんだっけ?」


「ええ、そうよ。でも中にはオリジナルのまま魔法少女になった者たちもいる。それが私たちよ」


それを聞くとアルトは興味深そうにマリアとウォルを見つめた。


「へぇ…きみたち人間なんだ。身体モロそうだね」


「もう人間じゃないわ。私たちは魔法少女。そして孤児院で共に育った家族よ」


家族。

その言葉にアルトはニコニコとした笑顔を少し歪ませ言った。


「家族…ねぇ…。魔法少女でもそんな言葉言うやついるんだね」


「オリジナルですもの。人間だった頃の記憶もあるわ。…話を戻すわね。ここからが私たちがあなたたちと同盟を組もうとしてる理由よ」


マリアはひと呼吸入れ、言った。


「家族のひとりが収集家(コレクター)に殺されたわ」


教会内がシンと静まり返る。


「私はそれが許せない……絶対に収集家を殺して復讐してやるつもりよ……。でも私たちじゃ、あの収集家を倒すことはできない…だからあなたたちの力を借りたいの」


それを最後に黙ったマリアの言葉にアルトは、少し黙ったかと思うと身体を震わせ、涙を流して言った。


「感動したよ!!家族の無念を晴らすために戦うなんて!ぜひきみたちと同盟を結ばせてくれ!!」


アルトのその反応に、マリアは面食らったように一瞬固まった。

だがすぐに硬直から回復すると、アルトに礼を言おうとマリアが口を開いた瞬間──


「とでも言って欲しかったのかな?」


「…ッ!?」


さっきまでの涙などまるで無かったかのように、先ほどまでと同じニコニコと笑顔を浮かべながらアルトはマリアに言った。


「その同盟にボクたちはなんのメリットがある?きみたちの都合にボクたちを巻き込まないでほしいな」


その言葉にいままで黙っていたウォルが舌打ちをし、1歩前に出て叫んだ。


「てめぇ…ふざけんじゃねぇぞ!!舐めた小芝居しやがって──」


今にも喰いかかりそうなウォルをマリアは手で制すと、ウォルは渋々といったように後ろに下がった。

そしてマリアはアルトに言う。


「……あなたがそう言うとは…思ってたわ…でも…力を貸してくれる可能性があるのがあなたたちしかいないの……お願い…協力して……」


マリアの言葉にウォルはアルトを睨みながら反論する。


「姉さん、もうやめろよ。こんなやつの協力がなくても俺たちでなんとかできる。姉さんが頭を下げることなんてない」


チラリとマリアに視線を送ったウォルは再びアルトを睨むと、言った。


「姉さんはお前の力を認めてるみたいだが、俺はお前の力なんて必要ない。…邪魔したな。行こう、姉さん」


踵を返し立ち去ろうとしたウォルの背中に、アルトは言った。


「…でも、マリアがメイド服でボクに傅く(かしず)なるなら同盟を結んであげるよ」


「ッ!!??」


その言葉にウォルは振り向くと、そこには口元を歪ませニヤニヤと笑うアルトの姿があった。


「…………それで…あの子の敵が討てるなら……」


俯きながらそう言ったマリアにウォルは視線を向けると言った。


「やめろって言ってるだろ姉さん!!俺がなんとかして────」


「なんとかしてやる」そう言おうとしたウォルの目の前には、先ほどまで教壇の前にいたはずのアルトが突如として現れた。

いきなりのことに言葉を詰まらせたウォルにアルトは笑顔など忘れ、睨みながら顔を寄せて威圧するように言った。


「てめぇ…さっきからうるせぇんだよ…そろそろ殺すぞ…」


瞬間、アルトのその言葉にウォルは直感的に死を覚悟した。

目に見えるのではないかというほどの殺気を向けられたウォルは、おもわず後ずさった。


いまだ殺気を放つアルトに教壇の前に立つナース服の少女は優しく言った。


「ア〜ルト。営業スマイル、忘れてるわよ♡」


後ろからかかったその言葉にアルトは出していた殺気を抑え、教壇に振り返り両手を小さく広げて言った。


「そうだった。ごめんごめん忘れてたよ、イヴ」


アルトの放つ殺気で同じく動けなくなっていたマリアの隣を歩きながら通り過ぎ、教壇へと戻ると再びマリアたちに向き直りアルトは言う。


「それで?どうするの?」


冷や汗をかきながらマリアは答える。


「…いいわ、あなたに傅いてあげようじゃない…。もともと交渉のカードなんて持ってなかったからね…そんなので済むなら安いものだわ」


マリアの言葉にアルトはにっこりと笑うと言った。


「じゃあ同盟成立───」


だが、アルトのその言葉をマリアは遮り言った。


「でも…もし私たちを利用して私たちを殺そうとしたら…私はあなたを死んでも殺すわ……」


凄んでそう言うマリアをアルトはニコニコとしながら見ていた。


「怖いなぁ。ボクは弱いからきっと殺されてしまうよ。だから信じておくれ。ボクは決してそんなことはしないよ。きみに誓おう」


アルトは変わらぬ笑顔を浮かべて言った。

そして思い出したようにアルトはイヴと呼んだナース服の少女に聞いた。


「あ、そういえばその子どのくらいで直るの?」


今もなお黙っている白髪に軍服を着込んだ少女の隣に転がる、赤髪の少女を指さしてアルトは言った。

それにイヴは唇に指を置き、考えるような動作をしながら言った。


「そうねぇ…1ヶ月くらいかしらね?」


イヴの言葉にアルトは小さくうなづくと、アリアたちに視線を戻し言った。


「ふーん。なるほどね。と、いうわけでマリアちゃんとウォルくん。どうやら協力できるのは1ヶ月後みたいだ」


突然そう言ったアルトの言葉にウォルは目を見開いた。


「1ヶ月だと…!?なんでそんな…お前らは戦わねぇのかよ!!」


そう叫ぶウォルにアルトは言った。


「残念ながら戦闘要員はここに倒れてる彼女しかいないんだ。協力するとは言ったが、彼女が直るまではきみたちの力にはなれないよ」


「ふ……っざけやがって…!」


軋むほどに歯を食いしばりアルトを睨むウォルをマリアは制すと、アルトに視線を向け言った。


「…わかったわ。1ヶ月待ってあげる」


「さすがお姉ちゃんだ。ウォルくんもお姉ちゃんを見習いなよ」


「ッ!!クソ!!」


我慢の限界とばかりにウォルは教会の扉を蹴破り、外へと駆け出していった。


「1ヶ月後にまた来るわ」


走り去ったウォルを横目にマリアはそう言うと、後を追うように同じく扉から出ていった。


教会内には再びシンとした静けさが戻る。


2人が出ていったのを見てアルトはイヴに視線を向けると、仕切り直すように言った。


「それで、ほんとはどれくらい?」


イヴが答える。


「3日ってところかしら?」


「3日?随分かかるんだね。イヴにしては珍しいんじゃないか?」


「ただ壊されただけならすぐ直せるわ。でも今回は違う。収集家の魔法は触れたものをただ破壊する魔法だと思っていたのだけど…どうやら勘違いしてたみたいね」


「勘違い?」


「ええ。彼女の魔法はただ物を壊すだけの魔法じゃないわ。彼女は存在ごと…触れたものの"存在ごと"消してしまうのよ。私でも存在を消されたら直すのには少し手こずるわ」


その言葉にアルトは赤髪の少女に視線を移し言った。


「なるほど。今の彼女は元々両腕が無かったことになってるのか」


「そういうことよ。それより、あの子。きっと待たないわよ?」


「ウォルくんのこと?あぁ…それはそうだろうね。きっとすぐにでも彼は収集家…カノンに会いに行くさ」


「わかってて言ったの?」


「わかってて聞いたんだろ?」


そう言いあった2人は笑った。

続けてアルトは言う。


「まぁともかく、ボクがカノンに会えるのは遠くないかもね」


そう言ってアルトは教壇に腰掛け、楽しそうに足をブラつかせた。

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