1話
朽ち果てた図書館にその2人はいた。
二階に分けられて造られている中は本が散らばりもはや図書館と呼べるのか怪しいところだが、その内部の広さは唖然とするほどで直径100mはあろうかという広さだった。
そんな図書館の1階。ロビーと思われる場所にひとりの少年と少女はいた。
「ねぇ…ほんとにそれ着けるの…?」
体育座りをして木でできた柱にもたれる少女の嫌そうな顔が少年の目に入る。それを見て白衣を着た少年は「はぁ…」と短くため息を吐くと言った。
「誰のためだと思ってるんだい?君のためだろ、カノン」
カノンと呼ばれた少女はなおも嫌そうな顔をやめず膝に少し顔を埋める。
「そもそも君が自分の魔法をうまく制御できないからこんなことになってるんじゃないか。魔法少女なのに魔法がうまく使えないってどうゆうことだよ」
「でもアイン…やっぱり他の魔法少女の部品を奪って取り付けるなんて…良くないと思う…それに私は…」
「戦いたくない。か?」
アインと呼ばれた白衣の少年は、少女の言おうとした言葉を繋ぐ。
その言葉にカノンは目を伏せて頷いた。
「この戦争を終わらせたい…でも戦いたくはない…君の言ってることは矛盾してる。この戦争を終わらすためには戦うしかないんだ。それがたとえ君が望まない道だとしても。君が戦争を終わらせたいと望むのなら」
アインはカノンに言った。そして辺りに静寂が訪れる。
しばらくアインがいじる金属のような魔法少女の部品の音だけが聞こえた。
「…よし。こんなもんかな」
そう言って自分がいじっていたものをアインはカノンに見せた。
それは、鳥の翼のような形をしていたが金属片を集めてくっつけたようなものがそう見える。というようなものだった。
「…それって…この前倒した魔法少女の…?」
「あぁそうだよ。あの魔法少女のだ。それにしてもあの時は苦戦したよね。どんな攻撃をしても彼女の魔法で止められてしまう。そして、その魔法だけが使える武器がこれだ」
言い終わるとアインは翼をカノンへと放った。するとその翼はまるで導かれるようにカノンの腰あたりへと浮遊を始めた。
「うわわ…。……うへぇ…」
また嫌な顔をするカノンにアインは少しムッとした。
「なんだよ。不満か?」
「いや…その…やっぱり自分が殺しちゃった魔法少女の子を自分が身につけるって慣れないなぁ…って」
「なにをいまさら───」
アインがカノンの言ったことに呆れようとしたそのときだった。
図書館が震えるほどの爆音が2人のすぐ近くで鳴り響いた。それと同時に爆風が2人を襲う。
「っ!?なんだ!?」
いきなりのことにアインが驚きを隠せずにいると、前方から少女のような声が聞こえた。
「よぉ、収集家」
声のする方へ目を向けると、そこには黒いフードを身につけ輝くように赤い髪と目を持った少女が入口のドアはおろかその付近の壁までをも吹っ飛ばして立っているのが見えた。
唖然とする2人をよそに赤髪の少女は小さく笑いながらつづける。
「お前が収集家だろ?噂は聞いてるよ。他の魔法少女の部品を集めてるなんて気持ちわりぃことしてやがんぜ」
自分に向かって言われているのが分かったカノンはその少女に言った。
「収集家…?それって私のこと?」
「ん?なんだ、知らないのか?お前、魔法少女を殺しては部品を集めてるってことからそう呼ばれてんだぜ」
「そんな…私はそんなつもりじゃ…!」
カノンの反論を遮るように赤髪の少女は言う。
「まぁ!そんなことはどうでもいいんだよ!お前のこの前の戦い。最高だったぜ…あんなに無惨に殺すとはな。お前…そんな態度とってるが本当は最高に狂ってんだろ?」
なおもカノンは反論を繰り返す。
「違う!あれは私の意思じゃない!私は自分の魔法が制御できなくて…!」
カノンの言葉をアインは手で制す。そして言った。
「カノン。落ち着け。相手も魔法少女だ…挑発に乗ることはない」
「…………ッ」
その光景に赤髪の少女は心底つまらなそうな顔をして言った。
「おいおい…がっかりさせんなよ。最近弱い魔法少女しか殺してねぇから物足りねぇんだよ。分かるか?私はお前を殺してもっと強くなる…そのためにお前は私の礎となれ。それに──」
赤髪の少女はちらりとアインを見ると手に仕込んであった小銃をアインに構え言った。
「てめぇ…余計なこと言ってんじゃねぇよ」
銃声が図書館内に響くと同時にアインの低いうめきが聞こえる。
「アイン!!」
左肩を撃たれたのかそこから血が流れだし、アインは左肩を押さえてうずくまっている。
アインに駆け寄ろうとしたカノンにもそれを止めるように足元の床に銃撃がおこなわれた。
「…!」
「ほら、はじめるぞ」
赤髪の少女の銃口の照準がカノンに向けられる。
とっさにカノンは腰の翼を身体の前に交差させる。
3度目の銃声が響く。
「ッ!?」
その銃弾は翼をすり抜けるように貫通し、カノンの腹部に被弾する。
「防いだ…はずじゃ…」
銃弾程度では死なないが魔法少女といえど痛覚はある。
カノンは腹部を押さえ少しフラついた。
「私の魔法はたとえどんな障壁があろうと私の放ったものは標的に当たんだよ」
その言葉にカノンは息を飲んだ。
つまり彼女の攻撃はすべて当たるということだ。
カノンが対処法を考えるよりも早く赤髪の少女は次の行動へとでた。
赤髪の少女は服の中から何十個もの手榴弾を取り出し安全ピンを外すと同時にそれを放った。
手榴弾はカノンたちに吸い寄せられるように向かってくる。
「おら防いでみろよ!防げるもんならな!」
カノンは考えた。今自分たちに向かってくる無数の手榴弾を防ぐ方法を。
銃弾ならば数発喰らっても死にはしないだろうだがあれほどの手榴弾を受ければただでは済まない。ましてやアインも爆発に巻き込んでしまうだろう。
「…」
爆炎が2人を包んだ─────
と、赤髪の少女は思った。
「…ははっ、やっと本性だしたな…」
赤髪の少女がそう言った先を見るとカノンたちは無傷でそこに立っていた。
爆炎も音もたたずに無数の手榴弾はその姿を消していた。
「カノン…」
アインが小さく声を絞り出すと同時にアインは赤髪の少女に向かって走りだした。
「さぁ!かかってこい!相手してやるよ!」
赤髪の少女は高らかにそう叫び、服の中から2丁のアサルトライフルを取り出すとそれをカノンにむかって連射した。
連続する銃声とそれにともない発射される弾丸はすべてカノンへと向かう。
だがカノンはなおも足を止めることはなく、赤髪の少女に向かって走り続ける。
銃弾がカノンに被弾しようとした、その時だった。
カノンは銃弾に手を向け、その銃弾を弾くように触れた。
すると触れられた銃弾は跡形もなくその姿を散らし、破裂するように消えた。
「ふふ…やっぱりお前の魔法はいいなぁ…」
それを見て赤髪の少女は笑う。
それとは対象的に痛みで苦痛の表情を浮かべるアインは言った。
「触れたものすべてを破壊する魔法…カノン…君が1番望まないような魔法だ…」
魔法を振りかざしカノンは走る。
「あぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
カノンの咆哮が響く。
自分の魔法を制御できないカノンは魔法を使うと自我を失ってしまう。
彼女はそのことを承知で魔法を使ったのだ。アインを守るために。
いよいよ赤髪の少女の近くへと迫ったカノンは右手を赤髪の少女へと振りかざした。
だがそうしたことによって近距離からの銃撃に対処できなくなったカノンは全身に銃撃の雨を喰らう。
フラつき倒れそうになるカノンを見て、勝ちを確信したのか赤髪の少女は笑う。
しかし、カノンは倒れそうになる身体にムチを打ち踏みとどまった。
「なっ!?」
勝ちを確信していた赤髪の少女はとっさに銃を構えなおした。が、もう遅かった。
瞬間、赤髪の少女の右腕は消し飛び、続けて左腕をも消し飛んだ。
「が…ぁ…!」
痛みに苦しみながら赤髪の少女がその時見た光景。それは──
「…」
カノンが邪悪に笑う姿だった。
まるで破壊を楽しむような、それしか頭にないような邪悪な笑顔。
その光景を見た赤髪の少女は舌打ちをし、言った。
「なっ…めるな!」
赤髪の少女は口の中に仕込んだ銃を取り出し、口にくわえたままカノンに銃弾を放った。
その銃弾はカノンの左目に当たり、カノンの身体が衝撃で仰け反る。
それを見て赤髪の少女はニィっと笑った。
次弾を放とうとしたその時、赤髪の少女の右目に衝撃が走る。
なにごとかと思い、残った左目でその方向を見るとアインが赤髪の少女に向けて小銃を構えているのが見えた。
「て…んめぇぇぇぇぇ!!」
赤髪の少女の怒りの咆哮が響いた次の瞬間、彼女の口に仕込まれた銃へとカノンの手がのび、銃ごと彼女の右頬を破壊した。
「ッッッッッ!!」
そして次にカノンは、彼女の腹部へと触れそこに風穴を開けた。
「カッ…!」
それ以降、赤髪の少女は動かなくなり力なく床へと倒れた。
だが、カノンはまだ止まらなかった。なおも破壊を繰り返そうと赤髪の少女に手をのばす。その時だった。
カノンは身体のバランスを急に失い、床へと倒れる。
「あ…あぁ…」
バランスを崩した理由は一目で分かった。
カノンの下半身が切り落とされていたのだ。
下半身を失い、床に倒れたカノンがもがきながら上を見上げると、そこには白髪を月の光で煌めかせ軍服を着た少女が立っていた。
「それ以上はおやめください」
少女は言った。すると少女は赤髪の少女を抱え込む。
「動くな!!」
立ち去ろうとした少女に、アインは小銃を構えながら叫んだ。
少女はアインに視線を向け、言った。
「私に戦闘許可はでていません。私は彼女を回収しにきただけです」
少女は肩に乗せた赤髪の少女を揺らしそう言った。
「回収だと…?なんの目的が…それに戦闘許可だと…?他にも誰かいるのか?」
「話は終わりです。失礼します」
少女はそれだけを言うと、煙のようにその場から消えた。
「チッ…空間魔法か…」
アインは舌打ちをすると、痛む肩をおさえながらすでに気絶しているカノンへと近づいた。
場所は変わりとある教会。
軍服を着た少女は赤髪の少女を抱えたまま教会の祭壇の前へと現れた。
「戻りました」
少女がそう言った相手は祭壇に腰掛け、言った。
「おつかれ。さて、みんな集まったことだし。…それじゃあ改めて始めようか。戦争ごっこ」