プロローグ
「勝てるかな?」
その少女は高く積み重なった瓦礫の上に佇みぼうっと灰色の空を見上げながら、隣で白衣のポケットに手を突っ込み腰を降ろしている少年に言った。
少女の呟きに少年は気だるげに答えた。
「勝算は・・・9%ってところかな」
その言葉の意味は二人の周りを見ればすぐに分かった。少女が佇むその場所を中心に周りには溢れんばかりの魔法少女が空を、地面を、埋め尽くしていた。
「そんなにあるの?過信しすぎじゃない?」
「君がちゃんと自分を抑制できればの話だけどね」
少年のその言葉を聞いて、少女は小さくため息を吐いた。そして、自分を包み込むように畳んであった背中の翼を大きく広げた。その広げた翼は冷たい灰色をしており、バラバラの形の金属が翼の形をとって翼のように見えると言うだけでとても美しいと言えるものではなかった。
「行くのかい?」
少年が少女の方を向かずに尋ねた。それに対し少女は「うん」と首を縦に振った。
「君じゃきっと勝てないと思うよ。・・・でもまぁ、そう言っても君は行くんだろ?君が行くなら僕も行くよ。いままで僕が止めても聞きやしなかったし、もう諦めたよ」
少年は言い終わると嫌そうに立ち上がった。それを見て少女が少し笑う。
「ごめんね。わがままで」
「いいよ。別に」
その言葉を最後に、その場を包んでいた静寂は消え全方位からの魔法少女の攻撃が二人を襲った。
──西暦2245年。
人口増加と資源不足により第三次世界大戦が勃発した。
世界は荒廃し、各地では性別問わず資源の略奪が起こった。
そんな廃れた世界で、とある軍の研究者があるものを発見した。それは決して必然的にではなく、彼はそれを求めているわけでもなかった。だがそれを見つけてしまった。偶然的に。
──魔法という存在を。
彼は歓喜した。使い方次第ではこの戦争を終わらせられるかもしれないと思ったからだ。彼は魔法という存在を軍に知らせ、戦争解決への糸口になるかもしれないと語った。だがしかし、軍は彼の期待を早々に打ち砕いた。激化する大戦の中魔法という存在をうまくコントロールできれば軍事力で他を圧倒できるかもしれないと考えた軍はその魔法を試験的に従来の武器に移植した。
結果は良好だった。戦場では他に対する圧倒的な力を魔法は見せてくれた。
そして、やがてそれは武器から人へと移植する方向を変えていった。だが、命あるものに魔法を定着させるのは難しく幾多の人間がその実験の犠牲になっていった。実験が上手くいかないなか軍は『魔法に耐えられるだけの人間』を作ればいいという考えに至る。
さっそく軍は数多の人間の細胞のサンプルを集めた。選抜基準は利用価値が多く教育がしやすいという理由で少女が大多数を占めた。そして、ただ魔法への耐性を持った人間を作るのではなく体内に従来の武器を宿し肉体的衰退も少ない人工生命体を作ることに成功した。
魔法を体内に宿した少年少女たちはその国の戦況を大きく変える。戦場では他国の兵士をその圧倒的な力で虐殺し蹂躙していった。それに遭遇したら死を意味することに兵士たちは恐怖し慄いた。
そしていずれその少年少女たちは圧倒的な力に対する恐怖と見た目の幼さに対する嘲笑を込めて、こう呼ばれた。
─────魔法少女、と。
魔法少女を有するその国は勝利を確信した。魔法という力があれば負けはないと思った。
だが、そう簡単に事は運ばなかった。盗まれたのだ。他国に魔法という技術を。
魔法少女を有する余裕からこんなミスを犯したその国に対抗すべく、新たな魔法少女が作られることになった。やがて、その技術は世界へと知られ世界各地で独自の魔法少女が作られることになった。魔法少女が戦場にいることが当たり前になったのだ。
戦争が激化するなか時は流れ、10年後。
未だ終わらぬ大戦の中、世界各地であるウイルスが突如として出現した。
そのウイルスは人間にだけ感染し、感染すると体内の血液が沸騰するほど温度が上昇し死に至る、というものだった。これだけでも恐ろしいがさらに問題なのがその感染力だった。その感染力は絶大で空気感染や間接的な感染も可能な点から人類は瞬く間に人口を減らしていきワクチンを作る間もなく人類は死滅した。
だが、それで大戦が終わるわけではなかった。人類が残した負の遺産と呼べるであろう魔法少女たちが己が戦闘欲、殺人欲に突き動かされ各々が新たに戦争を始めたのだ。
人類が死滅し、魔法少女だけが残った世界で魔法少女たちが互いに殺しあう────第四次世界大戦が幕を開けた瞬間だった。