最終話
気がつけば、何もない真っ白な世界にいた。
「気づいたのね」
いきなりの声に驚きながらも、後ろの声がした方へ振り返った。
そして、そこには一人の女性がいた。白いワンピースに白の髪。そして、青色の瞳をした二十代くらいの綺麗な女性だった。
「あんた、誰?」
「私は、あなた達が神と呼ぶ存在よ」
「頭、大丈夫か?」
「普通に正常よ」
龍二の言葉に気を悪くした様子もなく、鈴のような透き通った声で言った。
「あっそ。ところで、ここはどこだ?」
「ここは、死後の世界よ。あなた達が言うところの、あの世って所かしら」
「俺は死んでなんか……」
そこまで言って龍二は思い出した。
あの時、おそらくあのまま車にひかれて死んだのだろう。
記憶は、車が突っ込んで来て咲を避けさせようと突き飛ばしたところまでしか覚えていないが、あのスピードでは車が止まる事は出来ないだろうし、龍二自身が避ける時間を無かったことから、あのまま車にひかれたことを予想する事は難しくない。
「俺は、車にひかれて死んだんだな」
「はい」
神はすまなさそうな顔で言った。
「すみません……」
「何で神様が謝るんだ?」
「もともと、あなたが死ぬ原因を作ったのは私なのです。ですが、私にも理由はあるんです」
「どういう事なんだ?」
そう聞くと、神は話始めた。
昔、神には一人の娘がいたそうだ。そして、その娘と二人で過ごしていた。
二人だけで寂しくないかと聞かれれば、寂しいかったのだが、それなりには楽しければ過ごしていたのだ。
だが、そんなある日に悲劇が起こった。娘が病にかかったのだ。
普通、神は病何かにはかからないのだが、まだ子どもだった娘はかかってしまったのだ。
神は悲しみにくれて娘を助けようとした。だが、神の子が病にかかるということはなかなかあることではなく、対処法は作られていなかった。
そして、娘は暫くの時が経って息を引き取った。
だが、神はそんなことに耐えられなかった。そこで神は、娘の魂を転生させることにした。
ただただ、娘の成長を見たい一心での行動だった。
そして、その娘の魂で生まれたのが咲だった。
例え、話すことが出来なくても、娘が自分の事を覚えていなくても、神は娘の成長を見ることができて幸せだったのだ。
そしてそんなある日、娘つまり咲は事故で死ぬことになる。
そしてその事に神は再び耐えることができなかった。咲を救う為に行うことになったのが、時間戻しだ。
だが、いくら神でも普通は時間を戻す事は出来ない。それができたのは、神が時間を司る神だったという偶然によるものだ。
神は、それぞれ司る物を決めてそれらの管理を行う事によって地球は成り立っている。咲が転生できたのも、神が知り合いの人の輪廻を司る神によるものだった。
そうして、時間を操り咲が死ぬ前に戻した神だったがそれだけではまた同じように咲が死ぬ運命は変わらない事を知っていた。
ただ時間を前に戻したとしても、全員が同じように動いて咲もまた死ぬだけだった。
そこで神が行ったのが、咲の身近なつまり咲のクラスメイトの一人だけに記憶を持たせたまま時間を戻す事だった。
何故、一人なのかというのは、それが神の力で出来る人数だったからで、咲自身の記憶を持たせ無かったのは元とは言え、神の子だった咲の記憶をいじることができなかったからだ。
そんな理由でこの繰り返しが行われたのだった。
だが、初めに記憶を持たせたのは龍二では無かったらしい。
「私にもこういう事情があったので引く気はありませんでした」
「なら、今まででその繰り返しをやったのは誰だったんだ?」
「全員です」
「は!?」
あまりにも返ってきた困って答えが予想とかけ離れていて意味が理解できなかった。
「ですから、あなた以外の全員がやっていて、誰も咲を救うことができなかったのです」
「一体、何やって終わったんだ?」
「やることは、二択でした。一部の者はあまりにも出来なくても変えました」
「残りは?」
「自殺しました」
返ってきたのは、あまりにも無慈悲なことだった。
「!?どういう事なんだ!?」
「簡単な事です。ずっと繰り返し続けることに耐えきれなくて、自殺しましたしたんです」
「そんな……そんな簡単に言っていいことじゃないだろ‼」
「私にとっては簡単なことです」
そう言った神の瞳は氷のように冷たかった。そして、それを見た龍二は悟った。きっと、何を言っても無駄だろうという事を。
「貴方には感謝しても仕切れません。本当にありがとうございました」
だが、それを言った神の意志は強いようで何も言えなかった。
龍二には人としての常識があるように、神には母親としての愛があったのだ。だから、何も言えなかった。
その後、龍二は神からの感謝という事で、生き返らせて貰える事になった。その際、他のクラスメイトも生き返らせて貰えないか頼んだのだが、自殺した者は出来ないと言われた。
そうして、目覚めた時には病院にいた。寝ていたベットの周りには家族と咲がいた。
家族は仕事も早引きして駆けつけてくれたようだった。咲は、泣いていてずっと助けたことへのお礼と、一緒に帰ろうと誘わなければこんなことにはならなかったとずっと謝っていた。
だが、これは咲のせいではない。 どちらかと言えば、咲もあの神に巻き込まれた被害者なのだから。だから、咲を責める気は全く無かった。
繰り返しの原因も無くなり、やがて春になりやっとの三年生になった。もう、これ以上繰り返しが起こる事は無かった。
ついに終わった~
短かったですが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。