第一話
私立神明学園2年A組。そこに俺はいた。
そこでは不思議な事が起こっていた。いや、正確には此処だけではない。この国、そしてこの世界で起こっていることなのだ。そして、誰もがそれに気づかない。これは、俺だけが知っている事だ。
俺は、今入学式を終えて二年生になった。正確には、もう五回目の二年生だ。別に、留年している訳ではない。寧ろ、成績はいい方だ。
誰だって、四回も同じ内容の授業を受けていればそうなるだろう。しかも、テストの内容も全く変わらない。そう、ずっと繰り返しているのだ。
ずっと繰り返している二年生。
俺がこの事に気づいたのは、二回目の入学式だった。
いや、もしかしたらもっと繰り返していたかもしれない。俺が知らないだけで、何回も何回も繰り返していたのかも。そう考えると、ゾッとする。
自分が知らない中で知らない自分がいたかもしれないのだ。それは、とても恐ろしい事だと思う。
だから、考えることをやめた。とりあえず、何故こんなことになったのかを考えるようにした。
二回目の二年生になった時は、何がどうなったのか分からず焦った。だが、少し経って状況が理解出来ると少しだけ落ち着いた。
そして、三回目は落ち込んだ。何もできないまま、また新たに一年が過ぎていった。
四回目も何もできないまま過ぎていった。
そして、今が五回目だ。もう、やる気を無くしていた。ただただ、今まで無駄に四回が過ぎていってしまった。
四回の努力が全て意味がなかったのだ。もう、諦めているんだ。
「どうしたんだよ、龍二そんな暗い顔して」
そういったのは、クラスメイトの桑原 司陸だった。
司陸とは、小学校からの付き合いで親友と言っても過言ではない。
「いや、なんでもないさ」
「そうか?まあ、大丈夫ならいいんだけどな」
そうして、そのまま司陸と一緒に教室へ向かった。
「おはよう。龍二、司陸」
「おはよう、有史。また、同じクラスだな」
「おはよう、龍二」
木蔵有史とは一年の時に初めて会ったばかりだが、明るい性格から友達が多い、いいやつだ。
「おはよう」
「これから、宜しくね」
「久しぶりだな」
「はじめまして、よろしくね」
「やった、また一緒のクラスだね」
クラスが分かって、これから一年一緒のクラスになるクラスメイト達が挨拶している声が聞こえる。
違うだろ。はじめましてなんかじゃないだろ。
去年も一緒だったじゃねぇかよ。
何で誰も覚えてねぇんだよ。ほんの少し前の事だろ。
何で、俺だけが覚えているんだよ‼
俺だけが覚えているこの世界で。俺だけが違うこの場で、四回も過ごしていた。そして、今回で五回目になる。
次こそ、何か変わる。そんなやけくそのような、淡い期待を抱いて五回目の二年生を向かえる。