信じられるなにか
そんな悲しい気持ちのまま、ぼくは四番目の星に行きました。
その星は、悲しみにひたる男の人がいた星のすぐに近くにあったのです。ほんとうに小さな、さびしい星でした。ベッド三つ分の大きさしかなく、その上には、光る黒っぽい箱と小さなイスしかありませんでした。ぼくは、箱がなぜ光っているのか確かめようと、いすに近づき、そのつるつるとした背もたれをなでたあと、ゆっくりとすわりました。
その箱は抑揚のない声でしゃべっていました。箱には何かがうつしだされていて、それに合わせてだれかがしゃべっていたのです。けれども、声はところどころかすれていて、全部をきちんと聞くことはできませんでした。ぼくはまぶしい光に目を細めながらしばらく箱をながめていました。
「…で、…が…される事件が起きました。…は…の行方を追って…」
「えー…にもっとも…のは…で…することです。これは…の研究機関が明らかにしたことで…によって証明されています」
「…のグループが…を行うとのこと。その経済…は…円とみられています」
ぼくにはよく分からないことが次々と映しだされていました。
あまりに多く、あまりに自分からはなれた、たくさんの声。それがぼくの頭をかき回し、ぼくをきもち悪くさせました。
美しい人、みにくい人、いかにも偉そうな人、いかにも悪そうな人、まじめそうな人、軽薄そうな人、怒っている人、笑っている人、泣いている人。たくさんの人がぼくの前を素通りしていきます。だれもがそこにいながら、だれもがそこにいなかったのです。少なくともぼくにとっては。
でも、最後にみた歌手、そして、その人の歌声は記憶に残りつづけています。
信じられるなにかがほしい、頼りになるなにかが…
信じられるなにかがほしい、頼りになるなにかが…
彼はそう歌っていました。顔を化粧でまっしろに染め、顔をゆがめながら歌うその姿はぼくには本物のひとのように思えました。そのひとが抱えている悲しみや孤独が歌にのりうつっているような気がしたのです。彼にはこころがありました。きっと、その歌手はなにかを伝えようとあがいていたのです。
歌がおわると、その箱は耳ざわりな音をたてて光らなくなりました。
星全体が暗くなり、ぼくもまた、どこにいるのか分からなくなりました。ぼくはしばらくいすにだまって座っていましたが、やがて立ち上がり、手探りで舟へと戻っていきました。ぼくの頭には、あの歌が流れつづけていました。
ずっと、ずっと。