にせものの友だち
灰色の星を旅立ったあと、ぼくの舟はやっぱり前に進んでいきました。
氷の粒のような、煙のようなものでできた星のみち(その幅は舟の横幅の四倍くらいはありました)を、ゆっくりゆっくり進んでいったのです。
ふしぎなことに、このみちの上では、舟は後ろに進むことができません。たとえば、みなさんの目の前に分かれみちがあって、どちらかを選んだとしますよね。そして、選んだ先で「ああ、やっぱりあっちを選んでおけばよかった」と後悔したとします。それでも、もう後戻りはできないのです。選んだが最後、そのみちを進みきらねばならないのです。
そうして、いくつかの分かれみちを経たあと、ぼくは二番目の星にたどりつきました。その星はあざやかな黄色をしていて、大きなレモンのようにも、ラグビーボールのようにも見えました。星の大きさは灰色の星の二倍くらいでしょうか。
色といい、雰囲気といい、その星を見ていると胸がおどるような気がしました。なにか楽しいことが待っているような気がしたのです。ぼくは櫂をこぐ手に力をこめて、息をはずませながら、ずんずん星へと近づいていきました。
舟をおりてあたりを見回すと、遠くに少年たちが輪をつくっているのが見えました。気になって近づいていくと、どうやら彼らはボール遊びをしているようでした。ドッジボールか、バスケットボールか、サッカーか、スポーツにくわしくないぼくにはよく分からなかったのですがね。
それでも、彼らがボールを投げあったり、はずませたりして楽しく遊んでいるのを見ていると、ぼくも一緒に遊びたくなりました。だって、ふるさとにはほとんど友だちなんていませんでしたから。
「ねえ、仲間にいれておくれよ」とぼくが言うと、
「ああ、いいとも!」と、集団で一番背の高い男の子がゆるしてくれました。
それからというもの、ぼくは毎日彼らと一緒にいて、いろいろな遊びをしました。かくれんぼ、かけっこ、それに鬼ごっこをしたり、星のいたるところに置いてあったブランコやジャングルジム、雲梯などの遊具でも遊びました。
毎日がとても楽しく、夢のようにすぎていきました。
いまでも、一日の遊びがおわる夕暮れ時のことを思い出します。
いつもは黄色い星の表面が、だんだんと橙に、赤に染まっていく美しいさまを何度も見ましたし、夕日がつくってくれたぼくらの影が、地面の上でぼくら以上に楽しそうにおどっているのを見ておどろいたこともあります。
でも、ぼくの影だけはいつも彼らとちがっていました。
彼らの影はみんな同じような長さ、細さをしていたのに、ぼくの影だけはヘビのように細長かったのです。まるでお化けのようでした。自分がこんなにみにくい影を持っているなんて辛い気もしました。でも、みんなと影がちがうということの意味は、その後のぼくらの関係を見て、いくらか納得はできたのです。
たしかに、この星での毎日は楽しかったのですが、こうした毎日がずっとつづくと、ぼくはうんざりして、ひとりになりたいと願うようになりました。一緒に遊んでいるときは楽しいのですが、こころのどこかが疲れてしまうような気がしたのです。どうしてでしょうね。やっぱり、ぼくがひとりでいることを望んでいるからでしょうか。
そういうわけで、ぼくはときどき彼らの誘いをことわって、ひとりで星のうみや夕焼けをながめたりしました。でも、それを〝友だち〟は許してくれませんでした。
「ねえ、きみ、遊ぼうよ。俺たちは友だちなんだから、いつも一緒にいるのが当たり前なんだよ。でなきゃ友だちじゃないんだ」
「せっかく誘っているんだから、こっちに来なよ」
少年たちにまわりを囲まれ、へらへらとした顔でそんなことを言われるたび、ぼくはむりやり笑顔をつくって、彼らの輪に加わりました。そして、遊びがおわり、ひとりの時間が訪れると、どこかほっとするのでした。
あるとき、ぼくは、こころの底では彼らと一緒にいるのを望んでいないこと、つまり、ひとりでいようとする自分のこころに気がつきました。すると、この星にはもういられないような気がしたのです。
その日の夜のことです。みんなが遊び疲れ、すやすやと寝息をたてているのをきちんと確認したぼくは、寝床から起きあがり(寝床といっても遊具の中ですが)、舟を置いてある場所まで、猫のように静かにかけていきました。まるで悪いことをして、だれかから逃げようとする罪人のように。
走りながら、彼らが追いかけてこないか心配になりました。でも、舟にたどりつくまで、だれも起きてきませんでしたし、声もしませんでした。そうして舟に乗りこみ、櫂を両手に持つと、ぼくはそっと、そっと、黄色い星からはなれていったのです。