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ほんとうの星  作者: ゆうなぎ
第一章 遭遇:たくさんの嘘、たくさんの悲しみ
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星のうみ

 そう、いまからだいぶ前のことです。

 ぼくは両親とともに住んでいた小さな星を舟で飛びだして、ひとりきりの旅をはじめました。こう言うと、ぼくが親とけんか別れをしたなどと想像する方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。ぼくは両親となかよく暮らしていました。愛情をたくさん注いでもらいましたし、いろいろなことを教わりました。

 では、なぜでしょう?

 自然とそうなったというほかありません。もちろん、それでは納得しないという人もいるでしょう。けれど、そうに違いないのです。いろいろと言葉を並べても説明しきれない、ぼくの手にはおえない大きな流れというのが、ふるさとの星でも、これからお話する星のうみでも、たしかにあったのです。

 

 そうでした、舟で飛びだしたところでしたね。

 その舟は、ぼくがひとりしか乗れないほど小さなものでしたが、とっても頑丈にできていました。ぼくがいまよりも小さなころ、両親が一生けん命につくってくれたものです。いつかぼくがひとりで旅立てるように。そして、旅のあいだ、ぼくを守ってくれるように。

 これでお分かりでしょう。ぼくは両親のことが好きなのです、とっても。

 ですから、こうしてひとりになった理由もやっぱりよく分からないのです。でも、ひとりになりたいという気持ちがどこかであったかもしれないと、いまになって思うときがあります。もしそうだとすれば、それは、こころが求めていたにちがいありません。こころの求めにはだれだって従わなければならないのです。

 ふるさとの星を飛びだすと、そこには、濃紺色の〝星のうみ〟がどこまでも広がっていました。この、星のうみという言葉は、昔の偉いひとが作ったもののようです。不勉強なので、だれかは分かりませんが、でも、ぼくたちのまわりには案外そういう言葉が多いような気がします。

 

 さて、はじめて見る〝うみ〟はとっても美しいものでした。

 みなさんは星空をながめたことがあるでしょう。あのなかに包まれている様子を想像してみてください。上下左右どこを見ても、近くに遠くにさまざまな色や形の星がたくさん浮かんでいるのです。ひんやりと冷たい空気に、どこかゆがんでいるような空間。目をとじれば、海のなかにいるような気さえします(ここで、星のうみという言葉はなかなか見事な表現だと、偉そうな大人のように記しておきます)。

 

 ほんとうにいろんな星がありました。

 赤い星、青い星、緑色の星、紫色の星、銀色の星、金色の星…

リングをたくさん持っている星、一部がかけてしまっている星、いつもほかの星と一緒にいる星、光の強い星、弱い星、それに大きな星、小さな星、まんまるの星、半円形の星、おまけにきのこみたいな形の星もありました。これでも、まだまだほんの一部にすぎません。それくらいたくさんの種類の星ぼしが浮かんでいたのです。ここでお伝えしきれなかったものについては、ぜひみなさんに直接見ていただきたいものです。だって、星のうみはみなさんのすぐ近くにあるのですから。

 

 そうそう、星のうみには、星が浮かんでいるだけではありませんでした。

 葉っぱをよく観察したことがある方ならすぐに分かりますが、葉っぱには網目のようにたくさんの道が通っています。この星のうみにも、そういったみちのようなものが、ほとんどの星のあいだを通っていたのです。そのみちは、白銀色と空色がまざったような色に見えることもありますし、とき色と紫色がまざったように見えることもあります。もしかしたら、みちの色はきちんと決まっていないのかもしれません。なぜって、見るたびにちがう色になりますからね。

 それから、ぼくは星のみちからはずれないよう、慎重に櫂をあやつりながら進んでいきました。いまでもよく考えるのですが、ぼくは櫂で〝なに〟をかいて進んでいたのでしょうね。たとえば、みなさんが湖の上をボートで渡るとき、ちゃぽん、ちゃぽんと水の音がするでしょう。それは耳心地の良い音ですし、ボートがきちんと動いている証にもなります。でもここでは、ぼくがなんど櫂をこいでも、いっさい音がしないのです。くわえて、手ごたえもないものですから、ぼくはいつも不安とたたかっていました。

 ほんとうに舟が進んでいるのか。

 ぼく自身は先に進めているのか…そんな不安です。

 だって、止まってしまうことほどおそろしいものはありませんからね。

 ところで、星のうみがこのように暗くて寒いところなのは知っていたので、ぼくはきちんと旅支度をしていました。みちを照らす角形のランタンに、つばが広い革製のぼうし、それに、おなじく革でできたマント(ぼうしとマントは少し大きめです)。ランタンのおかげで前がよく見えますし、ぼうしとマントのおかげでたいていの寒さには耐えることができます。ぼくは、いつもこれらに感謝しながら旅をしているのです。

 実は、ランタンもぼうしも(正しい名前はなんとかハットというみたいです)、それにマントも、ぼくのいた星では少し、いえ、かなり流行おくれのものです。でも、ぼくは古いものを好むところがありましたので、こうして旅のおともにしたわけです。だって、流行にかまけて、自分の好きなものを見失うのはもったいないでしょう?

 

 みなさんには好きなものがありますか。

 自分のこころで選んだ、ほんとうに好きなものが。

 

 もしあるとしたら、あなたは幸せものです。その好きなものはいつかあなたを元気にしてくれるからです。ぼくも好きなものに救われたことがあります。ぼくのほんとうに好きなものについては、もう少し先でお話しますね。

 

 それにしても、ぼくの進んでいった星のうみは、どこを切りとってもふしぎなところでした。においはまったくありませんし、音もほとんど聞こえてきません。全体が濃紺色に染まっているというのはさっきもお話しましたが、ところどころに黒っぽいところもあって、穴があいているようにも見えました。

 さらに、ぼくから見て下の方、星が円のように集まっているところは、にぶい銀色にぼんやりと光っていましたし、上の方には星が川のように集まっているところがいくつかあって、それは水色やレモン色や桃色にまぶしく輝いていたのです。

 ぼくはどちらかというと明るくてきれいな色の方が好きなので、できるだけ上を見て旅をしていました。下を見てもあまりきれいなものはありませんでしたからね。でも、下の方には、ときどき赤黒い煙でできたうずのようなものがいくつかあって、それからはどうしても目を背けることができませんでした。あれがなんなのかは今でもよくわかりません。でも、はっきりと言えるのは、星のうみにはきれいなものだけがあったわけではないということです。


 あとからもお話することになりますが、どうしても目を背けたくなったり、耳をふさいでしまいたくなるようなものも、ここにはたくさんあったのです。 


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