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魔術師商売  作者: ウタヘビ
第1話 『魔術師商売』
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 一時(ひととき)(二時間)程経過すると、アイリスの痛みも幾分和らぎ、歩けるまで回復した。

 少し陽が傾き始めはしたが、まだ明るい時間帯だ。

 二人はやや襲い足取りで彼女の家がある上級市街区へ向けて歩いていた。

 帝都カフィジナは、中央に皇居、その周囲を貴族達の住む上級市街地、その更に周囲を商業区、そしてその更に外に下級市街区が存在する。

 商業は外側にある方が、物資の輸送には理想だが、この都市では貴族が全ての中心にある。彼らのご機嫌を伺う商人達はより貴族に近い場所に居を構え、それが今の地区を創り上げたとされている。


 マトイ道場がある下級市街区はまだ家も人の数も多いが、商業区になると極端に人の多い場所、少ない場所で分かれる。


 特に下級市街区から上級市街区までを通す中央道の辺りは店も多く、人も物も集中するが、そこから少し離れると倉庫や輸送業を商う者達の住まいばかりで人通りも少なくなる。


 さすがに怪我をした状態では中央道を通るのも危ないであろうと言う事で、アイリスが使う慣れた道を行く事にしたのだった。


「この辺りは私もあまり通った事がありませんね。上級市街区の近くまで行くと父の隠宅があるのですが、いつもは中央通から脇に入る様にしているものですから」


 セイジが余り見ない風景に周囲を見回しながら話す。


「ふむ。セイジ殿のお父上は何か商いをなさっているのですか?

 先程の木剣の話から、魔術師か剣士かと思いましたが……」


 商業区に住む者は商人かそれに関わる者が殆どだ。そうでなければ決して住み易いという場所でもないからだ。


「いえ、父は今は――魔術の研究者を名乗っています。あの辺りは、魔術資料や魔導具の類を取り扱う輸送業の者や店が多いので、珍しい物が色々と見付かるそうです」


「成る程、魔術の研究者をお父上に持たれるなら、セイジ殿が“魔刃”を使いこなすのも頷けます」


「いえ、あれは――」


 セイジが本当の理由を話そうとした時、辺りの倉庫の影から無数の殺気を帯びた気配が近づいて来る事に気付いた。


「誰だッ!!」


 セイジは素早く腰に携帯していたブロードソードを引き抜いた。

 凡そ1メル(メートル)の長さの剣を握ると、未だ落ちきらぬ陽の光がその刃を一瞬輝かせる。


 それに呼応する様に前方に五人、後ろに三人の剣を構えた者達が現れる。

 何れも口元を布で覆い隠しているが、身形は決して悪く無い。恐らくは商家か貴族の血筋の者だろう。


「集団で剣を向けるとは随分と卑怯な者達だな。何が目的だッ!!」


 セイジが鋭い声を張り上げると、男達の幾人かが一瞬たじろぐ。

 だが、男質の中から一人、逞しい男が一歩前に進み出る者がいる。

 恐らくはこの集団の親玉なのだろう。


「そこの女を置いて去れ。貴様には用は無い」


 堂々とした態度でそう言い放つ男の動きから、セイジはこの男がなかなかの腕前を持っている事が知れた。だが、自分が倒せぬ相手でもない。


「アイリス殿、前方は私が相手をします。すこしばかり後方の連中の攻撃を凌いで下さい」


「分かりました!!」


 セイジの言葉にアイリスは素直に答えた。

 今の自分ではこの状況を打開出来ぬ事を理解していたからだ。


「馬鹿め、死にたいかッ!!!!」


 親玉の男がその逞しい身体に相応しいだろう肉厚のバスタードソードを背から取り出す。

「魔術よりも剣術が得意と見える……」


 そう呟くやいなや、セイジは剣を持たぬ左手を深く、深く引く。

 セイジの手から瞬時に無数の魔力線が編み上げられ形を作り出す。


「“氷槌”!!」


 セイジの左脇に巨大な氷の槌が出現する。


「せいはッ!!」


 セイジが左手を前方へ勢い良く伸ばすのと合わせ、その巨大な氷槌が射出される。


「ヌウッ!! “盾”ッ!!」


 親玉の男は慌てながらも素早く魔術“盾”を出現させる。


「無駄だッ!!!!」


 だがしかし、射出された氷槌は魔術の障壁である“盾”を難なく突き破り、男の胴体を叩く。


 バスタードソードで咄嗟に防ごうとしたのが災いし、そのバスタードソードを身体に食い込ませた状態で遙か後方へ吹き飛ばされる。

 恐らくは即死であろう。


 セイジはその結果を見るまでも無く、前方に飛び出すと親玉を失い同様した連中に魔術“魔刃”を帯びたブロードソードを振り下ろす。


 まるでバターを切り裂く様に、剣を握る腕を切り落とすと、返す刀でもう一人の男の太股を切り裂く。

 二人の悲鳴が上がるより速くセイジは次の敵に接近する。

 何と“魔刃”を使いながら、もう一つの魔術“疾風”を使っているのだった。

 強化系魔術の一つ、“疾風”はその名の通り、身体の強化、特に速度を引き上げる魔術である。


 暴漢共には視界に収める事も出来ない程の速度でセイジは駆け抜け、左手に雷の魔術をを宿す。


「“雷針”!!」


 左手より極小の雷を纏った針が放たれたかと思うと、距離を置こうとしていた一人の首を貫く。


「が、ふ、がッ!?」


 一瞬の事に何をされたのかも分からず、男は剣を取り落として地面に崩れ落ちる。


「貴様ッ!!」


 背中を見せたのを隙と見て、最後の一人が上段から剣を振り下ろす。


「しっ!!」


 だが、それを予想したかの様にセイジはブロードソードで相手の刃を滑らせると、そのまま交差して、相手の左脇を切り裂く。


「ぎあっ!!」


 深々と切り裂かれ、短く呻くも絶命する。


「アイリス殿ッ!!」


 直ぐさま背後を見やると、敵の魔術“火炎”を防いだ隙を背後から近寄った別の一人がその背を袈裟斬りにするところだった。


「貴様ッ!!」


 セイジは先程を更に超える速度で男に近づくと振り下ろした両腕を叩き斬る。


「ぐぎやああァァァァッ!!!!」


 両の腕を失い悲鳴を上げる男の首をすっぱりと切り、再度魔術“氷槌”を構築し、前方の男へ放つ。


「か、“火炎”!!」


 “盾”をも貫く程の威力の“氷槌”に“火炎”程度では消し去る事も出来ない。

 運悪くセイジから見て重なる様に立っていた二人の男は、氷槌に叩き付けられて共に弾き飛ばされる。

 前方の男は即死だが、後ろの男は恐らく死んではいないだろう。


「アイリス殿ッ!!」


 背中の傷は思いの外深い。

 斬り裂かれた白い服が真っ赤に染め上げられて行く。


「くうっ、これは拙い、急がねば!!」


 セイジはアイリスを抱きかかえると、魔術“疾風”を維持したまま走り出した。

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