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木々の世界

 キアヌは走った。見失った影に向かって走った。そうしていつの間にか線を越えてしまった。キアヌは落ちる。走った勢いで頭から落ちる。それでもキアヌは探していた。見失ったセッタの影を探していた。キアヌは初めて線の外で身体を動かした。身体を動かして、なんとか真直ぐにした。遠くの方に目を凝らして探す。習慣的に一歩踏み出して、線を跨いでしまった。

そこは緑色の世界だった。そこには様々な種類の巨木があった。キアヌは顔を挙げて上を見上げた。木々の尖端はどこまでも高かった。風が吹くと、ざわざわと騒ぎ立てる。心地いい世界だった。キアヌは巨木の幹にそっと触れた。なんとなく、暖かい気がした。

「キアヌ!キアヌじゃないか」

後ろで声がした。振り向くと、走りよって来る男が見えた。

「……誰?」

キアヌは首をかしげた。

「覚えてないのか?」

男は歩を緩めた。

「ああ。それもそうか」

一人でなにやら納得した。男はキアヌに色々質問した。キアヌはほとんど応えられなかった。

 男はキアヌを自分の下宿先に招いた。歩きながら、僕も昔は旅をしてたんだと自分の昔話をした。道は木々に囲まれていた。男が言うに、この世界は全体が木に囲まれているという。

「気持ちがいいだろう」

そう言って男は笑った。キアヌは自分のことが知りたかった。でもどこから質問すべきかわからなかった。男は進んで教えはしなかった。食事は全部が野菜だった。男はベッドをキアヌに貸した。キアヌも遠慮はしなかった。フカフカのベッドの中で、キアヌは夢を見た。

 可愛らしい格好の女の子がいた。女の子は幸せそうに母の腕に絡みついていた。その隣で、父が娘を愛おしそうに見つめていた。温かな家庭の風景だった。その風景は音もなく消えた。女の子は泣いていた。大きく口を開けて泣き叫んでいた。涙が落ちて、水溜りになった。女の子の前で、家が燃えていた。父も母も、周りにはいなかった。女の子は泣き続けた。キアヌは泣き続けた。キアヌは男に揺り起こされた。枕が涙に濡れている。

「何かあったのか?」

「……なんでもない」

男は枕の上にタオルを敷いてくれた。キアヌはまた眠った。キアヌはもう夢を見なかった。

 翌日、キアヌは男に見送られて宿を出た。キアヌは木々の中を歩き回ってた。木に紛れるようにして家がある。人の姿をそれほど見かけなかった。キアヌは夕暮れ時まで歩いて、来た時とは反対側にある線を跨いだ。宿の中で、男は小さな通信機に向かって話しかけていた。

「キアヌが見つかったぞ。記憶がないみたいだったけど。今は旅をしているらしい」

見えない誰かに報告していた。男は捜索者だった。

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