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賞金首と神  作者: amago.T/
長めの意味をなしていない序章
7/34

1-7

ここまで一気に書き上げたので、不自然な話の切れ目があるかもしれません。

とりあえず、肉を少し食べる。

硬い。

これ、絶対ウォールウルフの肉じゃない。

フォールウルフは確か崖の下の森に住んでいた。

それでよくウォールウルフと間違えられる。外見は慣れていなければ間違える程度に似ているし、毛を剥げばもっと見分けるのは難しい。

フォールウルフの肉は食べたことあったかな……?


──あるよ


え、いつ!?


──ウォールウルフの代わり


え~……と……あぁ、あった。

こんな硬くはなかったけど、味はこんなだったな。

間違いなくこれはフォールだ。

店主、気づいてんのかな?

フォールウルフはよく出回ってるから、五十ファールはぼったくりだな。こんなに人間が少ないのもうなづける。

周りには、素通りしていく旅人と、フォールウルフの群しかいなかった……て、フォールウルフ!?


「主人、食べてくれ」


そう言って渡したら、主人はいいよ。と言って残りを一口で食べた。

さっきのは演技だったのか、遠慮してたのか。

フォールウルフの群は、旅人についていっていた。

人に馴れるものなのだろうか。


「あ、フーちゃんだ。」


フーちゃん?あの旅人は、知り合いだろうか?

旅人は、こちらに顔を向けると、うるさそうに顔をしかめた後、興味なさそうに顔を背けた。


「フーちゃーん!」


主人が肉の破片がついた串を片手に、両手を大きく振った。

旅人はフォールウルフを従えて、歩いていく。

振り向いたのは、群の最高尾をとぼとぼとついていく、老齢の小柄なフォールウルフ。

もしかして、フーちゃんって、フォールウルフだから?

尾を盛んに振っている。

だが、群から離れられずにいる。

あ、先頭が気づいた。

周りの奴らも気づいた。

歩くペースを落とし、しきりに尾を振る。


「……どうした」


旅人がつぶやくと、決して大きな声ではないのだが、フォールウルフたちが尾をおろし、急いで旅人との間を詰めた。その声が、俺の耳には届くはずもない距離なのだが、なぜか聞こえた。


「フーちゃんに会えたのに……」


主人は余りの肉を口に含むと、咀嚼した。

勢いをつけて立ち上がり、旅人の方へ歩いていく。

串は手に持ったまま。

俺も一応ついてった方がいいよな……今は一応主人の奴隷だし。


「ねえ、旅人さん」


旅人の横に立つと、主人は声をかけた。


「……なんだ?」


旅人が足を止めた。


「何でフーちゃんたち連れてるの?」


串を握って揺らしながら、主人は訊ねる。


「……何のことだ?」


わからないと首を振る。

まあ、そうだよな。

普通フォールウルフにペットでもないのに名前を付けない。


「フーちゃん」


主人が手招きすると、最高尾の個体を始め、すべての個体が主人を囲んで半円を作り、先頭を歩いていた一匹が一つ吠えた。


「……?」


「この子たち、みんなフーちゃん。」


ああ、フォールウルフは皆フーちゃんなんだな。もしかしたらこの群だけかもしれないが。


「また聞くけど、何で、フーちゃんたちつれてるの?」


顔は笑っている。

だが、身にまとう雰囲気は怖かった。


「……こいつらは、売り物だ。」


「何で売るの?」


主人は不思議そうに訊ねる。


「……何で、とは?」


「フーちゃんたち、野生のはずだよ?


──それに、保護区(・・・)いたはず(・・・・)だよね(・・・)?」


不思議とその言葉には、力がこもっていた。


フォールウルフたちは捕えやすく、高く売れるウォールウルフと外見が似ているため、一部の地域では乱獲が進み、保護対象となっている。その対象区がいくつか向こうの町はずれにあったが、このフーちゃんたちは、そこから来たのだろうか。


旅人が、不快な顔をする。


「……保護区は、あちらであっているな?」


「? うん。」


旅人が指したのは、進んでいた方向。


「……町は、あちらだな?」


そちらは、俺たちが(というか主人が)進んでいた方向。


「うん。」


「キトはね、売られちゃってたこの子たちをね、保護区(おうち)に返そうとしてるんだよ。」


旅人の着ているコートの中から、少女が顔を出し、早口でそう言った。


「……でてくるな」


「もう遅いけどね。」


少女はそう言って笑い、中に引っ込む。


「そうなの?」


主人が問いかけると、フォールウルフ(フーちゃんらしい)は、皆頷いた。


「ごめんね。なんか悪いことしてたのかと思っちゃった。」


「……。」


「よくあることだよ」


少女のそのくぐもった言葉で、主人の笑みが元に戻る。

よかった。

少し怖かったんだよ、俺も。

串を揺らしていた手を垂らす。


「ごめんなさい。でも、フーちゃんたち戻してくれて、ありがとう」


フーちゃんたちが吠える。

さっきまでは怖がっていたような表情だったものが、安心に変わった。


「ねえ、あなたは、いーちゃん?」


少女が、またコートの合わせ目から頭だけを出した。

主人が、懐かしがっているような表情を見せた。


「……お兄さんたちは、神の杜のひと?」


「違うけど。いーちゃんに会ったら帰ってこいって言っといてって言われてるんだ。」


「……そっかぁ、また新しい作家(神様)が増えたのかと。」


「キトは神様の分身だよ。」


「じゃあ、やっぱり増えたのかな?」


「どうだろ? アカハは《人形》だから、わかんない。」


よくわからない会話が繰り広げられる。


「……アカハ……」


キトと呼ばれた旅人は、自分のコートから顔を出す少女の名を呼ぶ。

すると、


「──ボクはわかるけど、君にもわかるよね? だから言う必要はないと思う。」


少女の雰囲気ががらりと変わって、目つきも変わった。


「……キム」


「ごめん、キト。アカハを止めようと思ったら、こうなった。」


少女はまた、コートの中に戻る。


「キトお兄さん、神様によろしく。」


「……あぁ。」


「みんなもね~。」


フーちゃんたちが吠える。


「じゃあ、ばいばい。」


主人が手を振ると、フーちゃんたちは尾を振った。


「みんなの家族、食べちゃってごめんね。」


みんな?


主人も、気づいてたのかな。

あの肉が、ウォールウルフじゃなくてフォールウルフだってことに。

フーちゃんたちも、キトとアカハも、保護区の方へ、去っていった。


「じゃあいこっか、おにいちゃん。」


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