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主人は最凶の異名持ちだった。
それで、不思議な力を持っていることにも納得がいった。内容は聞き忘れた。
だが、主人には自分が最凶だという自覚がない。
「ゼッッッッッタイに言うなよ!」
と、主人に念を押すが、主人はわかっていないようだ。
もう陽は高い位置にある。
朝食は昨日主人が大量に購入していたパンなどで済ませた。
今から、主人の言ったとおりに主人の村へ行こうとしていた。
その前に部屋でしつこすぎるくらい念を押しているところだ。
この主人、ついうっかり名乗れば命が危ないということの自覚もない。
よく今までこんな異名を背負って生きてきたものだ。
余程変人なのだろう。
「わかったってば~──」
気のない返事。
「本当か?!」
「ホントだってばー」
「本当に?」
「ホントだよー」
しつこくなる俺の気持ちも分かってほしい。
命がかかってんだ。
俺みたいなしがない奴隷がアンタみたいな能天気の犠牲になってくんだよ!!!!!
「じゃあいこうか。絶ッッッッッ対に口を滑らすなよ?」
「わかったってばー。おにいちゃん心配性だなー。」
「アンタがこうさすんだよ!!!」
主人、本当にわかっているのか?
主人の内心を表すかのように、胸元の鈴が、軽やかに鳴った。
部屋を出て、宿を後にする。
久しぶりにおもいっきり声を出したな。
──元気そう。
そうか?
──うん、よかったね。
よかねーよ。
この主人怖ーよ
ホントに自覚持ってよ。
主人と並び立って歩く。
隣を歩くこの少女が最凶の名をほしいままにする恐ろしい人物だと意識すると、この世界で信じられるものなど自分だけな気がしてくる。
だってこの少女な冒険者があの最凶だなんて思いもよらないだろ?フツー。
目的地は主人の村としか聞いていない。
どこにあるのか、どんなところなのか、村の名前さえ、教えてはくれなかった。聞けば「忘れちゃった」と返される。
場所はちゃんと覚えてんのかねこの方向音痴の主人。