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『光の王女』Dragon Sword Saga 外伝2  作者: かがみ透
第三部『公子の能力(ちから)』
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覚醒2

 なんとなく、マリスには、ラン・ファの言うことがわかってきた。


 やはり、あの不思議な力と、セルフィスの病とは、関係があったのだと。


「どうすればいいの? 」


 マリスが心配そうな表情になる。


「あのお方の魔力は、並大抵ではないわ。普通の魔道士だって、こうなったら、もう

どうすることもできないでしょうね」


「そんな……! 誰も、セルフィスをとめられないんだったら、彼はどうなるの!? 」


 マリスが悲鳴のような声を上げる。


「落ち着いて。まだそうと決まったわけではないんだから。彼が魔物にならない方法

がひとつだけあるわ」


 ラン・ファは正面にいる公子を見据え、静かに言う。


「彼が自分で魔物を追い出すのよ。それしか、今は有り得ないわ」


「自分で魔物を……? 」


「そうよ。マイナスの感情に取り憑いた魔物を追い返すには、プラスの心、つまり、

強い意識を持って、魔物に立ち向かうのよ」


「強い意識……」


 マリスは思った。あのか弱くて頼りないセルフィスにそのようなことが出来るの

だろうかと。


 それは、今までの彼を見て来た限りでは、マリスにはとても考えられないことで

あった。


(ああ、あたしがなんとかしてあげられれば……! あのままでは、セルフィスは、

間違いなく、魔物に支配されてしまう! )


 マリスは、いても立ってもいられなかった。


「公子様! どうか目を覚まして! お気を強く持つのです! そうすれば、魔物

など追い出せます! 」


 ラン・ファがセルフィスに叫ぶが、彼に届いているようには思えなかった。

 風も相変わらず荒れ狂っている。


「あの魔物だけなら、この剣でぶった斬れるんだけど、公子様のお力が強過ぎて、

これ以上近付けそうもないし、私の結界も、もう時間の問題だわ」


 暴風の中で、ラン・ファのセリフが、マリスにも微かに聞き取れた。


 マリスは、いても立ってもいられずに、ラン・ファの横に並んで叫んだ。


「セルフィスー! やめてー! 目を覚ましてー! 」

「マリス! 危ないから、私の後ろに――! 」


 ラン・ファが止めるのも聞かずに、彼女はセルフィスを呼び続けた。


「セルフィス! あたしがわからないの!? 思い出して! あなたは魔物に操られ

ているだけなのよ! そんなヤツ、早く追い出して! 」


 セルフィスの瞳はガラス玉のように、何も映してはいない。柔らかい光を浮かべた

いつものあの瞳とは、まったく違っていた上に、表情からも既に感情は消え失せて

いた。


「セルフィス! 」


 マリスが一歩進み出る。


「だめよ、マリス! 結界から出ないで! 」


 ラン・ファも掌を(かざ)したまま、一歩踏み出すが、マリスも更に一歩、もう

一歩と進む。


「セルフィス、お願い、やめて! あたしたちは、敵じゃないわ! わかっている

でしょう? いつも一緒に遊んでるあなたの友達じゃないの。目を覚ますのよ! 」


「マリス、これ以上はだめだわ! 私の結界程度じゃ、これ以上、彼に近付くのは

危険よ! 」


 ラン・ファが叫ぶが、それでもマリスは一歩ずつ進み、彼の名を呼び続ける。


 マリスの頬に、ピッ、ピッと赤い筋ができた。ラン・ファも同じだ。


(このままでは、本当にマズいわ! 結界が通用しなくなってきている! )


 ラン・ファもマリスも、赤い筋は頬に留まらず、腕や足、地肌を(さら)している

部分には次々と出来ていき、痛みも伴ってくる。それは、間違いなく、彼から発生

している暴風による切り傷であった。


 だが、その時、何の感情も現れていなかったはずのセルフィスの表情が、ピクッと、

反応した。


「セルフィス! やめて! 」


 マリスが大きく叫ぶ。

 彼の瞳が僅かに揺れ、吹き荒れている風が、少し弱まった。


「マリス! 」


 ラン・ファが手を伸ばし、止める前に、マリスは駆け出していた。


 ピッ、ピッと、マリスから赤い血が、ラン・ファの頬に飛んできた。


 マリスを呼び続けるラン・ファの声が聞こえてはいても、マリスは戻らなかった。


 そして、目の前にいるセルフィスの首に、飛びついたのだった! 


 一際強い暴風が、セルフィスを中心に外に向かって沸き起こり、ラン・ファが弾き

飛ばされた。地面を転がる彼女の身体は、森の樹木にせき止められる。


 それと同時に、風は止んでいた。


「……な、何が起きたの……!? 」


 額を抑えながら、ゆっくりと起き上がり、風上であったセルフィスへと、ラン・

ファは目を向けた。


(マリス……マリス……)


 耳元で囁かれる柔らかい声に、マリスは、うっすら目を開ける。


 彼女は、セルフィスの首に、しっかりとしがみついていたままだった。


「マリス」


 顔を上げると、微笑したセルフィスが、目に飛び込んできた。


「……セルフィス……? もとに戻ったのね!? 」


 マリスは彼から離れ、彼の全身を改めて見回す。


 どこにも傷を負ったりはしていない。が、普段の彼とは、どこか少し違う。


 彼女とあまり変わらなかった背丈も、少しだけ伸びたようだ。


 信じ難いことに、この僅かな時間の間に、彼の身体は、一、二歳分は成長し、

本来の年齢相応の少年に追いついたように、マリスには思えた。


「セルフィス……? なんか、いつもと違うような……? 」


 マリスが呟くと、彼の両手が伸びて行き、彼女の頬を、そっと包み込んだ。


「……こんなに傷付いて……僕のために……なんてムチャをしたんだ……! きみは、

女の子で、しかも、伯爵令嬢なんだよ」


 セルフィスは、マリスの頬に付いたいくつもの傷を、痛々しそうに、瞳を歪ませて

見つめてから、そっと彼女を抱きしめた。


 マリスは、ぼう然と、そのまま彼に抱かれていた。


「きみの僕を呼ぶ声がどこかで聞こえ、必死に探して、やっと見つけたと思った時、

きみの身体が傷付いていくのを見て、……僕の中で何かが弾けたんだ。きみをこんな

目に合わせちゃいけないって、心の中で強く感じたんだ! 

 そうしたら、いつの間にか、がんじがらめになっていた身体がすんなりと動くよう

になって、僕を押さえつけていた邪悪な念も、どこかへ行ってしまった」


 セルフィスのマリスを抱く腕に、力がこもった。


「きみが僕を救ってくれたんだ、マリス! きみが来てくれなかったら、僕は魔物に

取り()かれ、どんなことになっていたかわからなかっただろう! 」


(セルフィス、いつもと違う。……なんだか急に大人になってしまったみたい……? )


 マリスは彼の意識が戻って嬉しく思う反面、面食らい、戸惑ってもいた。


 それでも、どこか居心地の良いその腕の中で、しばらくは身を任せていることに

した。


「公子様」


 ラン・ファの声がして、二人が振り返ると、そこには、傷付いた腕を庇って歩いて

くる彼女の姿があった。


「ああ! あなたが、噂の女性騎士、コウ・ラン・ファ子爵でいらっしゃいますね! 」


 セルフィスはマリスをそっと放してから、片膝を付いて頭を下げているラン・ファ

の前に、同じように膝を付き、彼女の手を取ると、甲に口づけた。


「どうか顔を上げて下さい。あなたは、マリスと僕を助けてくれたのですから」


 公子の柔らかい緑色の瞳を一瞬見つめてから微笑み、ラン・ファは首を横に振った。


「私は何も致してはおりません。殿下は、ご自分で、ご自分の多大な魔力を、制御

なさったのですわ」


 セルフィスの瞳が、ラン・ファの傷をも痛々しく見つめた。


「僕ひとりのために、あなた方二人が傷を負ってしまった……。すぐに、僕の宮殿へ、

いらして下さい。傷の手当を致しましょう」


 ラン・ファは傷など自分で直すつもりであったが、彼女の魔力も、先の結界で

ほとんど費やしてしまっていたので、治療の魔法をかけることも出来ず、公子の

申し出を受けることにした。



「よくぞ、我が息子を救って下さいました! 」


 小宮殿には、アークラント大公が、ラン・ファとマリスとを迎え入れた。


 公子が行方不明になったと小宮殿中が大騒ぎになり、本宮殿から大公夫妻が慌てて

駆けつけたのだった。


 セルフィスは、咄嗟(とっさ)に、自分が魔物に(さら)われていたところを、偶然

通りかかったラン・ファたちに助けられたということにした。


「あなたがたに偶然出会えて、本当に良かった! 女性とはいえ、コウ騎士のお強さ

は、貴族の間にも知れ渡っておいでです。魔物などは、東方のご出身でなければ、

なかなか、突然に対処できるものではありません。見つけて下さったのが、あなたで、

本当に助かりました! 」


 息子と同様に、柔らかい金髪に緑色の瞳。少し腹の出た、大柄だが人の良い笑顔の

大公は、何度もラン・ファに礼を言った。


「その上、あなたの弟子という士官学校に通われるそちらのお嬢様も、白龍将軍の

ご息女であったとは! 」


 大公の輝く瞳を向けられたマリスは、恥ずかしそうに頭を下げる。


「お父様、この方たちを、今度改めて、この宮殿にお招きしてもよろしいでしょう? 

この方たちは、僕の命の恩人なんですから」


 セルフィスが言う。


「おお、もちろんだとも! 」


 アークラント大公は両手を広げ、片方の腕に公子を抱き寄せた。


 セルフィスは、マリスに、密かにウインクしてみせた。


(やるじゃない、セルフィス! これで堂々と、ダンもあたしも、この宮殿に来られ

るわ! )


 マリスも嬉しそうに彼を見た。


「セルフィス! セルフィス! 」


 部屋の外からは、騒々しい声が、近付いてくる。


「ああ、エリザベスのヤツが来おったな」


 大公が苦笑いした。


「お前がいないと聞いて、お母様は半狂乱になってしまったので、薬でしばらく眠ら

せておいたのだが、どうやら、目が覚めたらしい」


 大公がセルフィスに苦笑したまま言ったところで、部屋の扉が勢いよく開いた。


 そこには、真っ青なドレスに身を包む、栗色の髪を結い上げた、少しふくよかだが、

目鼻立ちの整った女性が現れた。


「セルフィス! 」


 大公夫人は、息子に駆け寄り、夢中で抱きしめた。


「良かった、セルフィス、無事で! どこも打ったりはしていないでしょうね!? 」


「平気だよ、お母様」


 母親に強く抱きすくめられて、彼は少々苦しそうであったが、突き放しはしなかっ

た。母が非常に心配していたことは、想像がついたからであった。


「ああ、ああ! お母様は、馬車でこちらに向かっている間も、ずっと心配でなりま

せんでしたよ! あなたが部屋から突然姿を消したと聞いた時、小宮殿の使用人たち

全員に(むち)をくれてやり、クビにしようとさえ思いましたわ! 」


「ああ、なんということを! 護衛の者や、ばあやたちは、何も悪くはありません! 

相手は魔物なのですから、人間にわからないよう(さら)うことなど、容易(たやす)

かったのです。慈悲深いお母様、僕に免じて、どうか皆を(とが)めたり、クビに

などしないで下さい! 」


 夫人は公子を抱きしめたまま、部屋の隅に並んでいる使用人たちを、じろりと

一睨みした。


「お前たち、セルフィスがここまで言うのだから、お咎めはなしにしますが、また

このようなことが起きたら、今度こそ、全員、この宮殿から出て行ってもらいます

からね! 」


 夫人の厳しい言葉に、使用人たちは、余計に肩身が狭そうに、首を縮めた。


 ラン・ファは、この夫人の異様なまでの息子のかわいがりように、皆にはわからな

いように眉をひそめた。


 だが、王族では、それは当たり前のことなのかも知れないと思い直し、そのまま

頭を低くし、沈黙を続けた。


「お母様にも、ご紹介しておきましょう。こちらが、僕を助けて下さった、我が

ベアトリクスでも名高いコウ・ラン・ファ子爵と、その弟子にあたる、白龍団将軍

のご令嬢であるマリス・ミラー嬢です」


 セルフィスの言葉に、夫人は初めて、そこに使用人以外の人物がいたことに気が

付いたようで、取り乱していたのを取り繕い、改めて二人に注目したのだった。


「申し遅れましたわ。この度は、我が子セルフィスを救出して頂き、誠にありがとう

ございました」


 夫人が貴婦人らしくドレスをつまみ、丁寧に、ラン・ファに礼をする。

 ラン・ファも、マリスも、騎士の礼で返す。


 ふと、夫人の目が、マリスの上で止まった。


(やばっ! あたしまだ騎士じゃないんだから、普通の貴婦人の礼をしなくては

いけなかったんだったわ! もしかして、変に思われたかしら? )


 マリスは心の中で焦ったが、そのまま何気なく身体を起こした。


 夫人の青い瞳は、まだマリスにあった。

 彼女の方は、マリスが気にしているようなことには気付いてもいなかったのだが、

マリスを見下ろす瞳は、ラン・ファへのものと、少し違っていた。


(年の頃は、セルフィスと同じくらい。将軍家の令嬢ということだが……私のこの子

に、悪い虫がつかなければいいけど……)


 夫人は、それからすぐに息子へ視線を戻すと、もう取り乱しはしていなかったが、

相変わらず怪我や衣服のほころびなどを気にし出していた。


 これが、後にベアトリクス城での因縁を引き起こす出会いであったとは、ここに

いるラン・ファですら、想像できなかったであろう。


 マリスと、後のベアトリクス女王となるエリザベス大公夫人との、最初の出会いで

あった。



「ラン・ファは、魔法も仕えたのね」


 川を下る道で、帰りがけにマリスが尋ねた。


「東洋の、特に私のいた国では、男性でも女性でも、小さい頃はみんな武術を習うの。

それと同時に、魔法能力の高い者は、魔法も習うわ。だから、私の国の戦士たちには

女もいたし、大抵は剣だけでなく、ちょっとした魔法も使えるのよ。魔道士ほどでは

ないけどね」


 ラン・ファは、いつものように、にっこり、マリスに微笑んでみせた。


「あたしの剣では、斬っても斬っても、後からどんどん魔物が湧いてきたのに、

ラン・ファがやると、魔物はちゃんと消滅したみたいだったわ」


「それはね、この剣には、魔除(まよ)けのお守りがついてるからなのよ」


 ラン・ファが腰に差している美しい彫刻と、大きな丸い宝石の埋め込まれた剣を

抜いてみせ、マリスに渡した。


「この大きな紅い宝石が、魔除けになっているの。東方のある腕のいい鍛冶屋さんに

作ってもらったの。人間同士のいくさでは、この能力は関係ないんだけど、魔物に

とっては、軽く斬られただけでも、かなり致命傷なのよ」


「へえー! すごーい! 」


 マリスは瞳をきらきら輝かせて、夜の暗闇の中で光る魔除けの石を、いろいろな

角度から眺めた。


「私の故郷では、魔道士の戦士たちで形成された軍隊があったわ。それに影響されて、

近隣の国々も、魔道士たちを集めて、戦いの訓練をし始めたところなんかも出て来た

わ。だから、一般の戦士たちも、魔物を避ける目的以外に、魔道士の攻撃も防ぐため

にも、『魔除け』を身に付けたりするようになっていったの」


「魔道士の戦士たち……! いったい、どんな人たちで、どんな戦い方をするのかし

ら! 」


 マリスは好奇心に、更にその紫色の瞳を輝かせた。


「味方につけば、こんな頼もしいことはないけど、一旦、敵にまわれば厄介でしょう

がない――ま、そんなものよ」


 ラン・ファは魔道士があまり好きではないらしく、大袈裟に嫌そうな表情を作り、

舌を出してみせた。


 それを見て、マリスは笑った。


「それにしても、あなた、いつの間に公子様とお友達になってたわけ? まさか、

マリスまでが、あそこにいるとは思わなかったわよ」


 ラン・ファがつくづく驚かされるといった様子で、マリスを見る。


「セルフィスが、あのお屋敷に移って間もない頃だから、去年くらいだったかしら。

探偵ごっこのつもりで、ダンと一緒に忍び込んだの。今日は、たまたまあたしが彼を

外に連れ出しちゃったんだけどね。だって、彼ったら、一度も外に出たことないって

いうんだもの。可哀想だと思ったのよ」


 マリスの言うことに、ラン・ファが呆れたように、だが感心するように笑った。


「まったく、あんたもダンも、たいしたいたずらっ子ね! 大人の手を焼かすような

ことばっかり、よくもまあやってくれるもんだわ! 」


 だが、そのすぐ後に、「別に私は困らないからいいけど」と付け加えていた。


「ラン・ファこそ、なんであそこに来たの? 」


 マリスから剣を受け取り、元通り腰の鞘に納めると、ラン・ファは少し難しい顔に

なった。


「私も信じたくはなかったんだけど……。私の前に突然、変な予言者を名乗る魔道士

が現れたのよ。黒いマント姿で、黒髪で、青い目の、ちょっと頬のこけた中年くらい

の男だったわ。そいつが、いきなり来て、この場所を教え、『公子を救え』って言っ

たの。それだけ言うと、さっといなくなっちゃって。胡散(うさん)臭くは思ったけれ

ど、そいつがいい加減を言っているような気はしなかったから、散歩がてら来てみた

ら、森のざわめきが聞こえてきて、久しぶりに、『これは魔物だ! 』って、カンが

告げたの。そんなわけよ」


 ラン・ファが肩を竦める。


「すごいなー、ラン・ファは! 魔物まで倒せるんだもの! あたしも魔除けの石が

欲しいなー! それなら、セルフィスがまた魔物に襲われるようなことがあっても、

あたしがずっと守っていってあげられるわ! 」


 ラン・ファが、くすくすと笑う。


「なあに? 何を笑ってるの? 」


 マリスが、怪訝そうにラン・ファを見上げた。


「ごめん、ごめん。いやあ、あんたの恋の仕方も、随分変わってるなーって思って。

私も人のことは言えないけど」


「こっ、恋っ!? 」


 マリスが、ぽかんと口を開けてラン・ファを見ていたと思うと、しばらくして、

頬が紅潮していった。


「あっ、あたしが、セルフィスのこと、好きだって言うのっ!? だっ、誰が、あん

な頼りない人――! 」


 ラン・ファの目が、意地悪そうに光った。


「あら、私は別に、公子様のことなんて、言ってないわよ」


 マリスは、カーッと赤くなった顔で、ラン・ファを睨みつけた。


「ラン・ファの意地悪っ! 」


「冗談よ、冗談! 」


 マリスは逃げるラン・ファの後を追って、駆け出す。


 二人の影は、既に暗闇の中に溶け込んでいた。


 夜空の星は、何事もなく瞬き、美しく光る丸い月は、今日も下界を銀色に照らして

いた。


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