エピローグ
「よう、あんたたち、すげえ強いんだな! 」
そう感激して、声をかけてきた青年がいた。
年は二〇歳前後。人懐こい瞳をくるくると輝かせ、長い金髪に、額には
黒いバンダナを巻いた、見るからに傭兵のいでたちをした男であった。
彼は、銀色の甲冑に身を包み、頭には、すっぽりと黒い兜を被った、彼よりは小柄
な剣士に話しかけていた。
甲冑の戦士の隣には、背の高い黒マントの男がいる。一見して、魔道士とわかる
装いであるが、フードを深く下げてしまっているので、どのような顔立ちであるか
までは、見ることはできない。浅黒い肌の一部が、僅かに見えているのみであった。
黒い兜の中の、油断のない紫色の瞳が、傭兵のハンサムな、だが軽薄そうな顔に、
眉をひそめる。
例の男と似ている。この手のタイプは、不誠実な遊び人に違いないーーその目は、
そう言っていた。
「あっ、もしかして、俺のこと、怪しんでる? 大丈夫、大丈夫。俺は人畜無害な旅
の傭兵さ。それよりさ、あんたたち、メシ食ったか? 俺、いいとこ知ってんだよ。
助けてもらったお礼に、ご馳走させてくれよ! 」
兜の中の瞳が、不審なものでも見るかのように、細められる。
「お前を助けた覚えはない」
兜のせいで、いくらかくぐもってはいるが、その口調は男のようであった。
「だって、ローザを野盗から助けてくれたんだから、俺にとっても恩人じゃねえか。
それに、俺は、こう見えても、剣の腕は、割と立つ方なんだぜ。いれば、何かと、
役に立つかも知れねえぜ」
男は腰に差した、きらびやかな細工を施した剣を、自慢そうに指差してみせた。
甲冑の戦士よりも、魔道士の方が、その剣に興味を持ったように、フードの奥から
見つめていた。それは、はたからは、わからなかった。
『彼は、魔法剣の使い手だ』
魔道士は、兜の戦士に、『心話』で呼びかける。戦士は、魔道士を振り向くが、
そのうち仕方なさそうに、青年の同行を許したのだった。
「ありがとよ! ちょっと待っててくれ! 仲間にお別れしてくるぜ! 」
傭兵は飛び跳ねて、そこから少し離れたところで、様子を伺っている娘に向かって、
言った。
「ローザ! 俺、あの剣士に付いていくことにしたぜ! 」
「ええっ!? 」
金髪を後ろで束ねた町娘が、驚いて飛び上がった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな急に……! 」
「俺のカンじゃ、あいつは、そんじょそこらの剣士とは違う。今まで、俺の見た中で、
最強かも知れねえんだ! 俺は、あいつについていく! 新しい旅に、出発しようっ
て、今、決めたんだ! 」
傭兵は、戸惑っている娘の額に、口づけた。
「じゃあな、ローザ! 元気でな! みんなにもよろしく言っといてくれ」
「待ってよ、カイル! 」
彼女は止めても無駄だと、すぐに悟った。彼と出会った時も、そうであったのを
思い出したのだ。
『男は、夢を追う生き物なのさ。誰も、俺を縛ることは出来ない。例え、それが、
最愛の女でもな』
彼は、常にそれが口癖のように語っていた。彼女の前に姿を現した時も、風のよう
に現れて、風のように、今度も去っていくのである。
(バカ。あたし程度の女で満足すれば良かったのに……)
彼女は、いつまでも、彼を見送っていた。
傭兵は、戦士と魔道士にすぐに追いつくと、さっそく町の食堂へ案内した。
「ここのウシの肉料理は最高なんだぜ。おっさん、木の実酒追加な! 」
青年は、既にその店の顔なじみで、店員たちとも、ペラペラとよく喋っていた。
「聞いたか? ベアトリクス王国の失踪した王女は、まだ見つからないんだってさ」
「まだ少女だが、かなり剣の腕が立ち、得体の知れない武術も極めているそうだ」
そのような噂話が、彼らの近くのテーブルから、聞こえて来る。
「おっ! 料理が来たぜ! 」
傭兵が、歓喜の声を上げる。
「そう言えば、まだ名前言ってなかったな。俺は、カイル。カイル・アズウェル。
さっきも言ったが、旅の傭兵だ。よろしくな! あんたは? 」
「マドラス。こちらは、魔道士のヴァルドリューズだ」
「ヴァ、ヴァル……なんだって? 」
「ヴァルでいい」
マドラスと名乗った戦士は、黒いマントで甲冑を覆い、兜の口の部分だけを開けて、
食べ物を口へ運んでいた。
食事の時も兜を外さないとは、随分用心深いと、傭兵の目は、彼を観察していた。
口元だけ見る限りでは、彼よりもまだ大分若い少年であるかも知れない、と思った。
「ベアトリクスでは、国王も謎の失踪で行方不明になっちまったんだと。それで、
代行を勤めていた国王の妹が、そのまま女王になっちまったんだってなあ」
そのテーブルの男たちは、笑い声を上げた。
「そういやあ、女王の息子が王子となり、どこかの大きな国との結婚話も出ていると
か、いないとか」
「王子だって、もう一八歳だというぜ。王族じゃ、そんな話が出て来ても、おかしく
はない年齢だろう」
「例の失踪した王女と婚約してたらしいが、逃げられちまったもんだから、急いで
他を探してるんだろう」
「それにしても、王も王女も逃げちまったってことは、ベアトリクスの宮廷ってのは、
よっぽど過ごしにくいのかねえ! 」
そんな噂話を背に、カイルは好奇心にまた瞳を輝かせて、マドラスに話しかける。
「なあ、あんた、どこの国から来たんだ? 随分いい甲冑を着てるじゃねえか。
どっかの騎士だったのかい? 」
マドラスは、彼の問いかけには終始無視していた。
食事が終わると、外に出た彼らは、宿を取りにいった。
「この先は、たいして大きな町はないぜ。ここから、一番近いのは……そうだな、
モルデラの村かな。そのずっと向こうは、アストーレ王国の領域だぜ。あんたたち、
次はどこに行くのか、もう決まってるのか? 」
「いや、特に」
マドラスが首を横に振る。
「そっか。特に決まってないんなら、ゆっくり決めればいいや。俺は、どこでもいい
からさ」
「お前を連れてゆくとは、言っていない」
「えーっ! 」
マドラスの冷たい声に、カイルが悲痛な叫びを上げる。
「なんでさー? 迷惑かけないって、言ってるじゃねーか。なあ、連れていってくれ
よー。連れてってくれなくても、無理矢理ついてってやるからなー! 」
彼の悲痛な表情と、だだっこのような様子に、マドラスは、思わずくすっと笑った。
「仕方のないヤツだ。その代わり、遅れたら、置いていくぞ」
「やったぜーっ! 」
カイルが小躍りする。
「あっ、そうそう、今、思い出したぜ。さっき言った、この先のモルデラの村には、
変な噂があるんだよ」
「変な噂だと? 」
カイルの言葉に、マドラスの兜の中の瞳が細められる。
「ああ。あそこの村にある山には、魔獣が棲んでるって、言われてるんだ」
「魔獣……! 」
戦士と魔道士が顔を見合わせる。
「小僧、それは、本当だろうな? 」
自分よりも年下だとにらんでいた者から小僧呼ばわりされても、なぜかあまり
違和感はなかったようで、カイルは気にも留めず、頷いた。
「本当だよ。しかも、ずーっと昔からの言い伝えなんだってさ。そんな不吉な噂の
ある村だから、誰もよりつかなくなっちまって、あそこへ訪れるヤツなんざ、
よっぽどの物好きか、何にも知らねえドアホのどっちかだよ」
マドラスが、兜の中で笑っているのに、カイルは気付いた。
「……おい、まさか、あんたら……」
カイルは、二人を交互に見た。
「まさか、モルデラに行くつもりじゃ……? 」
おそるおそるそう尋ねたカイルに、マドラスは、にやりと笑う目を向けた。
「私たちは、『よっぽどの物好き』なのでな」
カイルは、ぞくっとしたように、二人を見つめた。
暗い闇の中に、突然、その二人は現れた。
ひとりは銀色の甲冑に身を包み、頭を黒い兜で覆った者。もうひとりは、黒い
フード付きのマントをはおった魔道士である。
「カイルのヤツは、先に来ているはずだが……」
銀色の戦士が、くぐもった声で、魔道士に言う。
魔道士が指さす方向では、騒々しく、獣のような声が、暗い森の中に響いている。
「ふ~ん……」
戦士は、兜を外して、脇に抱えた。
夕焼け色の髪に白い顔、暁のような紫の瞳が現れた。
「戦闘は、もう始まっているみたいね。敵は? 」
かわいらしい女の子の声が、マドラスと名乗った者から発せられる。
「獣人型モンスターだ」
魔道士のマントとフードが、風でめくれる。
浅黒い顔に黒髪、碧い切れ長の瞳が現れる。額には、真っ赤なルビーが輝いていた。
「ヴァル、もうちょっと近付いてみましょう」
魔道士が彼女をマントの中に包み込むと、二人の姿は、ふいっとそこから消えた。
「サイバー・ウェイブ! 」
長い金髪の傭兵が、宝飾のついた剣を一振りする。そこから現れた銀色の霊気が、
黒い靄のモンスターたちを消し去った。
それを、上空から見つめる二つの影がある。
「やるじゃない、カイルのヤツ! あれは、やっぱり、伝説の魔法剣だったのね! 」
彼女の嬉々としていたアメジストの瞳は、その近くにいるもうひとりの青年の上で、
ピタリと止まった。
「あ、あれは、……もしかして……! 」
栗色の髪の、青い傭兵服に身を包んだ青年の、振り翳す巨大な剣に、彼女も、
魔道士も、目を留めた。
分厚い鉄の塊で出来たような剣を、いとも簡単に振り回し、上半身が獣で下半身が
人間というおぞましい獣人モンスターたちを、一気に十数人ほど薙いでいった
のだった。その風圧で飛んでいく獣人もいたほどだ。
「すごい……! あれは、……あれは、バスター・ブレードだわ……! 」
彼女は、彼の戦闘振りに、思わず見入っていた。
その時、低い獣の唸り声が聞こえると、近くの洞窟から、灰色の丸い塊が現れ、
それがみるみる巨大化けネコへと、変貌していったのだった。
「魔獣だわ! 」
アメジストの瞳が引き締まる。
「『サンダガー』を召喚か」
「待って」
魔道士を、少女が止める。
「もう少し、あの男の子の戦いを、見てみたいわ。あのバスター・ブレードの威力も
ね」
二人は、そのまま空中に浮いていた。
魔獣は、宿家一棟分ほども大きく、さすがに大きな剣を持った青年も、苦戦して
いるようだった。
彼が魔獣に向かって走り、その足に斬りつけようとした途端、魔獣のからだは、
飛び上がった。
魔物の黄色い血走った目は、青年が守っていた、黒髪の娘を、ぎょろっと睨んだ。
「まずいわ、ヴァル、降ろして! 」
彼女は兜を被り、彼の手の中から離れると、地面に降り立ち、一瞬にして、長い
黒髪の娘を抱きかかえると、高く飛び上がったのだった。
じゅっ!
地面と草が焼ける匂いが漂う。魔獣の目から発射された光線が、地面を焦がしたの
だ。
「ああっ! 」
カイルが声を上げる。
バスター・ブレードの青年も見上げ、彼の大きな群青色の瞳が、見開かれた。
彼らは、銀色の甲冑に身を包んだマドラスが、神官服を着た黒髪の娘を抱き上げた
まま、舞い降りて来るのを、驚いて見つめていた。
「マドラス! 遅かったじゃねえか! 」
カイルが安心したように叫ぶ。
「カイル、お前、酒場にいたこの剣士と、一緒にいた魔道士とも、知り合いだったの
か? 」
バスター・ブレードの青年が、カイルに尋ねる。
(へえ、この人、いつの間に、あたしとヴァルのことを……)
マドラスは、兜の奥から、感心したように、青い傭兵服の青年を見た。
その後ろの空間から、ヴァルドリューズが現れる。
「下がっていろ」
マドラスは彼らに告げると、魔獣に向かって、ロング・ブレードを引き抜いた。
魔獣が空を飛び、マドラスに躍りかかっていった。
彼が、ひらりと舞い上がる。
ごとっ!
巨大ネコは悲鳴を上げる間もなく、その首は、すさまじい形相のまま、地面に落ち
た。
魔道士以外、驚いて、声も出ない様子であった。
「出て来る! 奴がーー! 」
マドラスの兜の中の瞳は、魔獣の出て来た穴へと、見据えられていた。
更に大きく不気味な黒い魔獣が、洞窟から現れた時、傭兵たちは、マドラスが驚く
べきものに姿を変えていくのを、目の当たりにした。
魔獣ほどの丈になったマドラスだったものは、全身を黄金の甲冑に包まれていた。
暗闇の中に光り輝くその神々しい姿に似合わず、邪悪な笑いを浮かべている美しい
顔立ちの巨人が、口を開く。
「ふははははははは! 俺様は、ゴールド・メタル・ビーストの化身、獣神『サンダ
ガー』様だーっ! 」
すべての戦いが終わった後、青年たちを囲った魔道士の結界が解かれた。
焼け焦げた地面の上に立ち尽くす、銀色の鎧の戦士の姿を見つけると、カイルが
駆け出していった。
「マドラス! なんだったんだ、今のは!? 俺は、聞いてないぞ! 」
血相を変えて走って来るカイルに、彼が振り向いた時、黒い兜が、ぱりんと音を
立てて割れた。
ふわっと降りる夕焼けを思わせるオレンジ色に輝く髪に、透き通るような整った
白い顔、キリッと引き締まった眉、煙るような紫水晶の瞳が、まず目に付く。
小高く筋の通った鼻、凛々しく整った顔立ちの中で、唯一可愛らしさを携えた
ピンク色の唇。
少女的な少年、否、少年的な少女を思わせる、中性的な容姿であるが故に、普通の
人間離れしていて、どちらかというと、エルフのような、妖精だとか、人間以外の
種族を連想させた。
その存在感は、人の上を行く者として、人々に感じさせて来たことだろうと、見た
者に想像させる。
「あぁあ、仮面、割れちゃった」
凛々しい顔立ちには似つかわしくない、高く通る声に驚いて見つめる彼らに対し、
マドラスは、にっこり微笑む。
「初めまして。あたし、マリス」
「おっ、おっ、お前っ、マドラス……!? 」
カイルも、バスター・ブレードの青年も、神官服の娘も、一同、唖然と彼女を見て
いた。
「そ。男装してたの。男性名使ってね」
マリスは、バスター・ブレードを既に背に戻している、青い服の青年を見つめた。
背の高い、ほどよく筋肉のついた均整の取れた体格。獣人たちを薙ぎ倒していた、
無駄のない動きは、彼女には、なんとなく自分の武術と通じるものが感じられていた。
戦闘の仕方は、彼女とは大いに違っていた。圧倒的な力でねじふせる彼女とは違い、
彼は、静かに強かった、と彼女は思うのだった。
それは、相手に合わせて、いくらでも強くなっていく可能性をも秘めていて、彼の
実力はまだまだ計り知れないと、さきほどの僅かな戦いにおいて、彼女は、彼をそこ
まで評価していたのだった。
それまで見てきた戦う者たちーーベアトリクスの騎士、野盗じみた兵士に、野盗
そのもの、旅の傭兵たちーーなどの中では、一番の実力を持つ武道家であったと思え
たにもかかわらず、彼は意外にも、そのさらっとした栗色の髪に、大きな群青色の瞳
といい、猛々しい武人というよりは、まだどこかに少年らしさを残した、どちらかと
いうと、かわいらしい顔立ちと雰囲気であるのだった。
彼が誠実な人間であることは、誰にでも、一目でわかることであった。
対する彼の方は、突然現れたその少女戦士に、非常に強烈な印象を持ったようで、
彼女から、ずっと視線を反らさなかった。
彼も、おそらく、それまでに出逢って来た戦士たちの中で、彼女が最強に思えたに
違いなかった。
彼の純粋な瞳は、はたから見てもわかりやすいものであった。
当然、彼女にも、彼の、自分への評価は、率直に伝わっていた。
マリスは、満足気に、バスター・ブレードの青年を見上げて、微笑んだ。
宿に移動し、一通り話をしてからであった。
「時に、あなた、見たところ、傭兵のようだけど、なかなか剣の腕が立つみたいね。
お手持ちの剣も興味深いわ。クレア(レディー)を置き去りにしたのは、ちょっと
いただけなかったけど。ま、キミほどの実力なら、助っ人として、あたしが雇って
あげてもよくってよ」
カイルが、自分にはマージンをくれないのかなどと、マリスにぶうぶう言っている
横では、マリスの言葉に、傭兵の群青色の瞳が、一瞬見開かれたが、すぐに引き締ま
り、慎重な面持ちになった。
「その前に、きみたちの目的を教えてくれ。悪いことの片棒を担ぐのは、お断りだか
らな」
落ち着いた声が返ってきた。
マリスは、目を見開いた。
意外に思ったのだった。
それまで、彼女の誘いをすんなりと受け入れなかった者などは、いないに等しかっ
た。(武浮遊術の愛技を多少使ったこともあるが)
それは、彼が、外見で人を判断しない人間だという証明だった。
(面白い……! )
どうやら、自分の見立てに間違いはなかったと、マリスは満足気に微笑した。
青年の剣の腕を買ったことには違いなかったが、戦士らしくない穏やかな性質と
童顔ではあっても、彼の大きな瞳には、誠実さと芯の強さが現れていたのが、信用
出来る人間と映ったからこそ、彼女はスカウトした。
見た目よりは、実年齢は、もう少し高く、もしかしたら、自分よりも上であるの
かも知れないと、密かに思ったと同時に、マリスの中では、ある少年の面影が、彼に
重なっていったのだった。
(ああ、そうだわ。この人、ダンと、どこか感じが似てるんだわ! 顔は全然似て
ないのに……)
幼馴染みとともに、野盗や敵国の兵士たちと戦ったことが、さっと彼女の脳裏を
よぎり、思わず、懐かしさがこみ上げてきていた。
そして、その時のような感覚で、拳を振り上げ、元気に言ったのだった。
「あたしたちの旅の目的は、ヒマ潰しに悪いヤツらをやっつけながら、世界を征服
することよ! 」
相棒のはずのヴァルドリューズは、そっぽを向いていた。
「あのなあ、それじゃあ、悪者と、目標同じだぞ? 」
青年は、思い切り、眉間に皺を寄せていた。
「冗談よ、やーね」
「……なんか、あんまり冗談にも聞こえなかったけど」
青年の彼女に向けられた目は、だんだん呆れていった。
だが、マリスは、彼を、満足気に見つめている。
そのようなやり取りの最中に、ヴァルドリューズが、ふとバスター・ブレードの
青年の、腰に差している方の剣にも注目する。
(あれは、ドラゴン・マスター・ソード……! もしかしたら、この青年が、『黒い
魔神』の言っていた者では……! )
青年の顔を、魔道士は、じっと見ていたのだが、青年は、そんなことにはまったく
気付かず、マリスと契約していた。
魔法剣を持つ金髪の傭兵カイルに、元巫女で、ヴァルドリューズに弟子入りし、
魔道士見習いとなったクレア、そして、バスター・ブレードとドラゴン・マスター・
ソードの二つの伝説の剣を持つ傭兵ケインが、こうして、マリスとヴァルドリューズ
の冒険行に加わり、後に、迷子になっていた妖精のミュミュが見つかり、魔界の王子
ジュニアも現れることとなる。
運命的な出会いは、さびれた町で、実にひっそりと、始まったのだった。




