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『光の王女』Dragon Sword Saga 外伝2  作者: かがみ透
第七部『囚われの王女』
19/45

それぞれの想い

 ベアトリクス城では、盛大に新王女誕生のお披露目がなされていた。


 国中の上流貴族や重役を始め、各軍隊の将軍たち、中流貴族が招かれている。


 マリスが、国一番の腕を誇るデザイナーによって作られた、彼女の瞳と同じ、

暁の淡い紫色の美しいドレスを身にまとい、姿を現した時、そこにいる誰もが、

その美貌に、深い溜め息を漏らしたのだった。


「なんと清楚な……! 」


「まだお若くして、あのような美しい姫君が、この世に存在していようとは……! 」


 きりりと引き締まった目元に、どちらかというと中性的な雰囲気の彼女は、小柄な

やさしげな少女というのとは大分違っていたが、しずしずと、国王の隣に進んでいく

彼女を、誰もがうっとりと見つめていた。


「彼女こそ、余の最後の娘、マリス・アル・ティアナ・ベアトリクスである! 」


 国王が、マリスを引き寄せ、そう言うと、歓声が上がった。


「マリス殿下、万歳! 」

「王女殿下、万歳! 」


 王の隣で、マリスは、それを、ガラス玉のような、何の感情も映し出さない瞳で、

眺めていた。


 引き続いて、王のとり決めた、マリスの許嫁(いいなずけ)が発表される。

 常に、このような場を取り仕切る役の大臣が、得意そうな笑みを振りまき、

発表した。


「新王女殿下のご誕生と同時に、愛の神に定められた、後の伴侶となるべき清らかな

お方は……アークラント大公家、セルフィス・アル・フランシス・アークラント公子

殿下にございます! 」


 わあっと、城内では、歓声が再び起こる。


 どうせ他国のさえない王子が相手だとばかり思っていたマリスは、驚きのあまり、

ひっくり返りそうになっていた。


(セッ……セルフィス!? )


 もちろん、セルフィスも大公夫妻とともに会場に出席してはいたが、マリスが王女

として現れただけでなく、自分の婚約者でもあったことに、セルフィスは、この上も

なく驚いていた。


「セルフィス、こちらにおいで」

 伯父でもある王に呼ばれ、ぼう然としていたセルフィスは、ぎこちなく王の前まで

進み出ていった。


「本日を(もっ)て、二人を許嫁と定める」


 王の言葉に、一同歓声を上げ、二人を褒め讃えた。



「お兄様、どういうことですの!? 」


 披露パーティーのさなか、国王と、その妹であるアークラント大公夫人エリザベス

は、国王付き魔道士バルカスが扉の前に立つ以外は誰もいない、控えの間に移動して

いた。


 エリザベスは血相を抱え、王に問い続けていた。


「隠し子がいらっしゃるなんて、急に打ち明けてこられたと思えば、彼女は、

セルフィスの友人ではありませんか! 」


「ほほう、そうであったか! それでは、ちょうど良かったではないか」


 王は笑った。


「よくはありません! だいたい、わたくしに何のご相談もなく、勝手にお決めに

なっておしまいで、セルフィスの母親は、わたくしなのですよ! あの子の縁談など、

まだまだ先だと思っておりましたのに! 」


「セルフィスももう一六。この国において、二番目の身分を持つお子である彼に

とっても、いい話ではあると思ったのだがな。ベアトリクス王国一の身分である

第一王女では、結婚相手に不服があるとでも言うのかね? 


 下手に他国の王女を(めと)るよりも、彼にとっては、その後この大国を背負って

いく身というのは、決して悪い話ではないと思ったのだがな。彼ほどの聡明な公子

ならば、余の王女とともに、ベアトリクスを任せても良いと、余は判断したのだが、

はて、見立てが間違っておると言うのだろうか? 」


 王は、わざととぼけた口調になった。

 エリザベスは、一歩引いた。


「……い、いいえ。相手に不足があるとは、何も申してはおりませんわ。確かに、

この近隣諸国の田舎王女などと結婚させるよりは、お兄様のお子とご一緒になり、

この国の王となった方が、あの子の才覚も行かせることとは存じますが……


 わたくしが言いたかったのは、なぜ、あの子の母親であるこのわたくしに、たった

の一言も相談なく、決めてしまわれたことでございます」


 王は静かな目で、彼女を見下ろした。


「アークラント大公から話は聞いていよう? 余と大公とティアワナコ神殿祭司長

との取り決めたことだ。誰から見ても、これ以上の確かな組み合わせなどはなかろう。

そうであるからこそ、しばらくは手元に置いておきたかった余の娘であるにも

かかわらず、神の意思に乗っ取り、そなたの息子に託そうというのだ。


 相談するも何も、そなたもそれが一番いいと思っておるのだろう? この国が、

絶対王政というのは、何も、今に始まったことではなかろう。余や、そなたの結婚も、

先代の王と相手の王ーー今回の場合は、アークラント大公だがーーのお決めになった

ことであったはずだ。母親と当人の意思は関係なく」


 エリザベスは、口を噤んだ。


 国王は、形式通りに事を運び、どこも法律違反はしていない。

 夫からも、セルフィスの婚約相手が、国王の血縁者であるとまでは聞いていた。


 ハンカチを持つ手はぶるぶると震えていたが、やがて、諦めたような溜め息が、

彼女の口からこぼれ落ちた。



「いやあ、マリスが、実は王女だったなんて……しかも、僕と許嫁だったなんて、

驚いたなあ! 」


 祝賀パーティーでは、杯を持って、セルフィスがマリスの脇に立っていた。


「あたしだって、ビックリよ。てっきり、他国のバカ王子と結婚させられるんだと

ばかり思っていたわ」


 『でも、あなたなら……』マリスは、そう心の中で言いかけて、慌てて彼から

目を伏せ、顔を赤らめた。


「とにかく、これからは、僕の護衛は、他の者に頼まなくちゃいけなくなっちゃった

な。また護衛兵の中から、選び直しかなぁ」


 セルフィスが微笑むと、バルカスが、つと彼の横に現れた。


「殿下、それには及びませぬ」


 バルカスの後ろには、中肉中背の、魔道士の青年が立っていた。


 まだ若く、といっても、マリスやセルフィスよりは多少年齢は上であったが、細く、

青い瞳をした灰色の髪の青年であった。


 彼は魔道士にしては、それほど病的な外見ではなく、特にハンサムということも

なかったが、普通の青年らしい雰囲気の中にも、その細い目は、油断なく光っていて、

頭の切れそうな印象だった。


「彼は? 」


 セルフィスが、バルカスに視線を戻し、尋ねた。


「わたくしの魔道士の塔の後輩であり、ここベアトリクス出身である若手の魔道士に

ございます。彼は、なかなかの能力の持ち主でして、魔道士の塔でも、優秀な魔道士

としてのお墨付きなのでございます」


「お初にお目にかかります。ギルシュと申します」


 青年魔道士は、セルフィスに丁寧に頭を下げた。

 ただそれだけの動作であったが、他の魔道士たちと違い、親しみ易い感じを、

セルフィスもマリスも覚え、好感が持てた。


「わたくしの推薦により、陛下が彼を殿下のお側付きにと、お決めになられたのです。

マリス様に引き続き、この先、公子様をお守り致します。カシス・ルビーもご用意

致しましたので、後ほど、儀式の方をお願いいたします」


「わかった」


 バルカスに、セルフィスが頷いてみせると、二人の魔道士は、人混みの中に姿を

消した。


「儀式って? 」

 マリスがセルフィスに尋ねた。


「宮廷魔道士っていうのは、あのバルカスを始め、皆、額にルビーをつけている

でしょう? あのカシス・ルビーは、主人と従者の契約によって付いているもの

なんだ。彼を、僕の側付き魔道士にするということは、僕の手でルビーを彼の額に

付けてあげなくてはならないんだ」


「ふうん。そうなの」


 その日、宮廷では、明くる朝まで、華やかな宴は、衰えることなく続いていた。



 美しい月夜の晩であった。


 金獅子団に所属しているダンは、その夜、なんとなく眠れずに、宿舎の中庭に出て、

剣の素振りをしていた。


「誰だ! 」


 暗い木の影で、何かが動いた気がした彼は、振り返った。


 木の枝に、黒い魔道士のマントを風にたなびかせた男の姿が見える。


「何者だ? 」


 ダンは、五感を目一杯働かせ、相手の気配を探る。


 男は表情のない青い瞳で、ダンをじろりと見下ろした。髪はダンと同じく黒く、

頬のこけた、不健康そうな中年の男だ。


 知らない顔だった。

 男は重々しい口調で語りかけた。


「ダンよ。ゴールド・メタルビーストを守護に持つ武将よ。よく聞くが良い」


 ダンは剣を構えたまま、油断のない鋭い目で男の顔を見つめる。


「お前は、ゴールド・メタルビーストを背負っている。その力を発揮する時が来た

のだ」


 ダンは、男の真意がわからず、剣を構えたままだ。


「唐突な。お前はいったい何者なんだ? なぜ、そんな話をしに来た? 」


 魔道士は、平坦な声で続けた。


「お前もまた、この世に意味を持って生まれ出た者。今が旅立ちの時。お前の進む

べき道へ、今こそ突き進むのだ」


「勝手なこと言うな! いったい何の話だ? ゴールド・メタルビーストが、

どうしたって? そんなのは、伝説上の生き物じゃねえか! 」


 ダンは声を荒げ、対照的に、魔道士は冷静な声で続けた。


「お前には、戦士としての、武将としての才覚がある。この国には、勇猛な武将が

多い上、陰謀も多い。お前が武将となるのは、かなり先となろう。それまで、この

ようなところでくすぶらずとも、さらに良い道が、お前にはある。早くに、お前の

才覚が日の目を見るには、何も、この国にこだわることはないのだ」


「ちょ、ちょっと待てよ! お前は、いったい何を言ってるんだ!? 」


 彼はかなり大きな声で、その魔道士に呼びかけているのだが、不思議と、寝静まっ

た宿舎から騒ぎを聞きつけて、誰かが飛び出して来る様子はない。


 魔道士の瞳は彼にそそがれ、再び重々しい声が、木の上から流れた。


「お前は、一国の王となる素質を持っている。伝説上、最強の力を持つゴールド・

メタルビーストが、お前の後ろについているのだ。それに護られた者は、勇猛な武将

や、王になることも多い。お前も、そのひとりだ」


「……俺が、一国の王……だって……? 」


 彼は、幼い頃の夢を、ふと思い出した。


 確かに彼は、いずれは国を取り、一国の王になるという、あまりにも若かりし頃の

幼い野望を、こっそりとマリスにだけ打ち明けたことを思い出したのだった。


(……そうだった。俺は、あの頃、そんな夢を描いていたんだっけ)


 彼の脳裏に、幼い頃のことが、ふいに甦る。


(士官学校の、腕っ節の強い奴等を集めて、ハヤブサ団を作っていた時、ふと思った。

俺はただの平民だけど、自分の力だけでのし上がり、国を作り上げられたら、どんな

にいいか……それが、マリスが一緒なら、できるような気がしていた。


 あいつには、戦士としての才能がある。幼心に、俺はそう思った。俺とあいつは、

この世で最強の戦士になるんだって、そういう気がしていた。俺たちが組めば、

どんなことだって出来ると、まるで、運命がそのように定められているとでもいう

かのように、俺の中では、その思いは強くなっていった……! 


 そして、そうなれば、平民と伯爵令嬢という身分を乗り越えられると、なんとなく

そう思っていたのかも知れなかった。……だけど……! )


 ダンは自分の思いに浸り、拳に力を込めた。


(やっと騎士として認められ、貴族の称号をもらえても、マリスの気持ちが俺では

なく、別の男の上にあるのだったら、……そんな身分など、あってもなくても同じ

ことだ……! )


「ゴールド・メタルビーストよ。若き獅子よ。おのれを待つ国目指して、今こそ、

旅立つのだ」


 魔道士の姿は、ふいに闇の中へ、黒く溶け込んでいった。


「あっ! おい、待てよ! 」


 ダンが叫ぶが、辺りには、もう人の気配はなく、ただ丸い月が、銀色に輝いている

だけであった。


「……夢か……? 」


 ダンは、ぼう然と、その場で呟いた。



 その日は、朝から町中が賑わっていた。


 新王女と許嫁のパレードが、城下町を一周するというので、前日の夜から、国民は

浮かれ、大騒ぎであった。


 王女と公子を載せた馬車の通る道に沿った露店がずらりと並び、二人の肖像画や、

大公家、王家の紋章を刻んだメダルや杯、置き物、旗など、王国の繁栄を祝福する

ものが中心であった。


 町人たちは正装し、子供達にも一張羅(いっちょうら)を着せ、王家と大公家の紋章

が描かれた旗を持つ。


 パレードの始まる数時間前から人々は集まり、今にも、警備隊が押しつぶされそう

なほど、混雑していた。


 馬車は、アークラント家から出発し、街を一周した後、ベアトリクス城へ戻ること

になっている。


 マリスは城から馬車に乗り込み、大公家へと向かった。


 あれほど何度も脱出を試み、国王に反抗していた彼女も、ようやく現実を受け入れ

る気になっていたところであった。


「……あっ! お願い、止めて! 」


 まだ馬車がいくらも走り出さないうちに、マリスが窓の外に何かを見つけ、馬車を

止めさせた。


 マリスは夢中で、飛び出していた。


「殿下、どうなさったのです! 」


 侍女のソルボンヌが慌てて後を追おうと、続いて飛び出すが、マリスが走りながら

振り返る。


「ちょっとだけ待ってて。大丈夫、すぐに戻るから! 」


 ドレスを着てはいても走る速度は速かったため、どのみちソルボンヌには追いつけ

なかった。


 侍女は、その場でおろおろしていた。護衛兵たちも後からウマで駆けつけたが、

王女の命令を彼女が告げると、三騎ほどが探索に向かい、残されたものは、その場で

立ち往生していた。


 マリスは、そっと様子を見に来ていたらしいある者の後ろ姿を、懸命に追い、樹々

の間へと入っていった。


「待って! 」


 その者は、止まろうとはしない。


「待って! どうして逃げるのよ、……ダン! 」


 彼女が追いかけていたのは、まさしく幼馴染みの彼であった。


 樹々の合間を抜けた彼は、煉瓦でできた道をひたすら走っていく。


 そこは、ベアトリクス城からアークラント家に向かう裏道でもあり、表通りと違い、

静まり返っていた。


「待って! あたし、ダンに会いたかった! 会って、いろいろ話したかった。

だけど、魔道士の結界に見張られていて、城を出ることが出来なかったの。

そのうちに、なんだか、こういうことになっちゃったのよ! 」


 ダンの走る速度が、少しだけ緩んだ。


「あたしだって、ショックだったわ! お父様たちとも離れ離れになっちゃって、

とても淋しかった。ダンにだって、会いたかった。ダンなら、国王とお父様に

ハメられたあたしの気持ちをわかってくれるって、そう思ってたんだから! 」


 ダンの足がピタッと止まり、振り向いた。


 マリスも、思わず立ち止まる。


 彼女の白いドレス姿が、彼の瞳に映った。


 シンプルなデザインの、光沢のある純白のドレスであった。


 王家の紋章と神聖な模様を金色の糸で縫い取った帯を斜めにかけ、縦に巻かれた

髪が、肩につかないくらいに下りている。


 彼女のその姿が、貴族的で美しければ美しいほど、彼との間に距離が出来ている

ことを証明する。


 マリスは既に王女なのだ。本当に、手の届かない存在となってしまったのだ。


 ダンには、そう思えた。


 紫水晶の瞳が、彼の瞳をとらえる。


 黒い瞳は、()る瀬なさそうに、歪んでいる。


「セルフィスがいるじゃないか。これからは、やつとずっと一緒なんだ。俺になんか、

なにも相談することなんてないだろ」


(そうさ! お前は、俺のものになど、なりはしない。お前は、地位も権力も、唯一

お前と対等なあいつのものなんだ! どうあがいても、俺には両方とも手にすること

はできない……! )


 再び、彼は走り始めた。


「待って! 」


 マリスは彼を放っておけない気持ちになり、彼の後を追い、路地に入った。


 その時、背を向けて走っていた彼が、急に、マリスの腕を掴んで引き寄せた。


 ふいをつかれた彼女の身体が、強く抱きすくめられると、次の瞬間、ローズ色に

彩られた唇は覆われていた。


(……えっ!? )


 マリスの瞳は大きく見開かれ、頭は混乱し、彼の力強い腕の中で、身動きが出来

なくなっていた。


 やがて、怯えたように顔を反らすが、彼の唇からは逃げ延びることは許され

なかった。


「……や、やめて、……ダン……! 」


 ダンは、無言で口づけ続ける。有無を言わさぬ口づけに、マリスは、ずっと身を

強張(こわば)らせていた。


 その荒々しい口づけがやっと終わると、ダンの黒曜石のような瞳には、せつない

想いが浮かんでいた。


「俺とお前は、もう別々の道を歩むんだ。俺のことなんか、いつまでもダチだなんて

思うな。今後はもう、男と二人っきりになるのは避けろよ。身分をわきまえるんだな、

王女様」


 彼は、マリスを置いて、一気に駆け出していった。


 マリスはぼう然と、その後ろ姿を見送っていた。もう彼の後を追うことはなかった。


(……知らなかった……)


 マリスは、皺になったドレスを直すこともなく、その場にへなへなと座り込んだ。


(……ダンが、あたしのことを……想っていてくれてたなんて……)


(だけど、あたしは、既にセルフィスのことを……)


 紫色の瞳は、()る瀬ない思いで、もう見えなくなってしまった彼の後ろ姿を、

見つめていた。



「どうかしたの? 」


 パレードの馬車の上で、純白の正装をしたセルフィスが、隣を見る。


 マリスが、はっとしたように彼を見上げた。


「今日は、なんだか、いつもと様子が違うみたいだね」


「そ、そう? 」


 マリスが慌てて微笑してみせる。


 あれから間もなく護衛兵に見つけられた彼女は、化粧を直し、走ったおかげで

乱れた髪も直してから、大公家へ向かった。


 パレードは、無事終わろうとしている。


 マリスは、歓声を上げる国民たちに微笑んで手を振っていても、たびたび、ダンの

ことが頭を掠め、自然と、セルフィスとも口数が少なくなっていた。


「そういうふうに、おとなしいマリスも好きだよ」


 マリスは頬をピンク色に染めて、そう(ささや)くセルフィスを見上げた。


(やっぱり、あたしはセルフィスが好き! )


 彼の微笑む顔を見上げているうちに、胸が切なく鳴り出すのは、彼女にも誰にも、

もう止められなかった。


「さあ、来てくれた何十万人という国民に、微笑んで手を振ってあげよう、王女殿下」


 セルフィスは、やさしく彼女の肩を抱くと、民衆の方を向き、再び手を振り始めた。


 それをしばらく見つめてから、彼女も、民たちに微笑み、手を振り続けたのだった。


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