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ストーンハンター

7 ストーンハンター


 正午過ぎの羅冶雄の部屋、ちょうど羅冶雄が学校で江崎達とやり合っている頃、昨夜から眠り続けていた多舞が目を覚ます。何かの気配を感じて、

 ガチャガチャと部屋の扉のノブが回される。そしてドアが開き中に誰か入ってくる。

「ラジオなの?」

 そう声をかけるが返事はない、

 布団を持ち上げてその隙間から様子を見ると見知らぬ男が部屋に立っている。

 男は部屋を見回すと白い手袋をはめた手で羅冶雄の勉強机の引き出しを開けて中を探る。

 そして箪笥の中、押し入れの中、台所の棚の中、そこら中を物色する。

「泥棒なの、でもお金なんてないの、ラジオは貧乏なの」

 それを見ている多舞はそう呟くが別に男は何も盗もうとしない、

 部屋を一通り物色し終わると男は背広のポケットから携帯電話を取り出して電話をかける。

「もしもし、私です。ええ、部屋を探しましたがどこにもありません、ええ、経由者ではなく奇願者の可能性があります。肌身離さず持っている可能性が、どうします。ええ、わかりました、今晩行使します。はい」

 男は通話を終えると携帯電話をポケットにしまい、そうして笑みを浮かべる。

 待ちに待った獲物をついに仕留められる。それは悪魔が浮かべるような笑いだ。

 電話をする男の声を聞いた多舞は蒲団の中で凍りつく、その声には聴き覚えがある。いや、忘れられない、決して忘れることのできない声、悪夢の中で繰り返し聞かされる声、それは両親を殺した男と同じ声、あの男が今、目の前にいる。

「やっと見つけたの」

 多舞は蒲団から出て立ち上がる。

 部屋から出て行こうとする男は何かの気配を感じて振り返る。

「…?」

 しかしそこには誰もいない、男は背広の内ポケットから何か取り出す。それは紫色の小さな石でほのかに光っている。

「どう言うことだ?」

 奇跡の力を放つ石に他の石も影響される。力が強い石は下位の石が起こす奇跡を光る事で持ち主に教える。何者かが奇跡の力を使い自分を狙っている。

 もう一度部屋を見ても誰もいない、しかし自分を見つめる何者かの視線を感じる。

 男は今度は懐から拳銃を取り出し部屋の中に構える。

「誰だ?出てこい!」

 そう叫ぶが誰も出てこない、思わず部屋の中に向けて拳銃を乱射したい衝動に襲われる。

 その時、部屋の中の気配が消える。石を見るともう光ってない、

 男はフーッと溜息を洩らす。

 危ない所だった。こんな所で拳銃を乱射したら騒ぎになる。事が計画どおり進まなくなる。

 拳銃を懐にしまうと男はドアを開けて部屋の外に出る。

 ドアを閉めてアパートの階段を降りながらもう一度振り向いて部屋を見る。

「一体何者が…」

 あの小僧が自分の襲撃に気が付き、そして石の力を使ったとは考えられない、強制的に石の力を使う方法を知っているとは思えないし願字の事すら知らないのだ。おそらくまだ石の力を使った事はないはずだ。では誰が?心当りは沢山ある。石を求めて今まで多くの者を殺してきた。それを恨みに思う奴は沢山いる。別の石を求める者に殺されかけた事もある。いまさら気にする事は無いか…

 男は路上に止めた車に乗り込む、それは悪路走行用のランドクルーザー、エンジンをかけて車を発進させる。

 その車の後部ハッチ、そこに取り付けられた梯子にしがみつく一人の少女がいる。黄色いヘルメットを被ったその少女は車内を覗き込んで呟く、

「逃がさないの」

 住宅地を抜けた車は県道を疾走する。

 少女の長い髪が風圧で揺れる。

 しかし誰も、そんな危険な事をしている少女がいる事に気がつかない、

 車は郊外の田園地帯から山間部に入り、やがて車は一軒の建物の前で停車する。

 それは一軒の別荘のような建物、しかし古い洋館をあしらった造りの建物は長く手入れする者がいないのか方々が傷んでいて、まるで幽霊屋敷のように見える。

「すごい雰囲気なの、幽霊が出そうなの」

 自分のことを棚に上げて多舞はそう感想を呟く、

 車から降りた男は玄関を開けて中に入る。

 その後に続いて多舞も玄関を開けようとするがもう鍵がかけられている。だから中に入れない、

 入れる場所を求めて多舞は建物の周りをぐるぐる周る。

 やがて建物の2階に開いている窓がある事に気づく、横の木に登れば枝から中に入れそうだ。

 多舞は木に登り、そうして枝から窓に入ろうとするが、枝から窓までの距離は目測より少し遠い、しばらく躊躇ったあとに意を決して枝から飛んで窓に飛び込む、

 床に叩きつけられる衝撃に身構えるが、なぜか柔らかい感触に包まれる。

「あらあら、かわいらしいお嬢さんが空から降ってきたわ、天使のように」

 ベッドの蒲団の上に無事着地した多舞は声がした方を見る。

 そこには車椅子に座った一人の老婆がいる。

「わたしの事が見えるの?」

 多舞は思わず質問する。

 羅冶雄以外自分の事がわかる者はいない、でもこのおばあさんは…

 老婆は微笑むと、

「いいえ、見えないわ、私の目はもう何も映さないの」

 その声は若い女性の声に聞こえる。老婆の声とは思えない、しかし老婆は瞑っていた目を開く、そこには白く濁った眼球のなれの果てがあるだけだ。

「目が見えないの」

「そうよ、それに耳も聞こえないのよ、話もできないのないのよ」

 耳も聞こえず。目も見えない、口が利けない、それならどうしてわたしの事がわかるんだろう、

 多舞は不思議そうな顔で老婆を見つめる。

「私には心に目があるの、耳があるの、口があるの、だからどんな物でも見えるのよ、どんな音も聞こえるのよ、誰にでも話しかけられるのよ、だから見えなくなったあなたの姿を見て声が聞けるのよ、話ができるのよ」

「どうして見えなくなったとわかるの」

「力を感じるのよ、石の力を、強い力があなたを見えなくしている。あなたの事を目で見ることは出来ないわ、あなたの声を耳で聞くことは出来ないわ、あなたの事を体で感じる事は出来ないわ」

「でもラジオはわたしが見えるの、話が出来るの、感じられるの」

 老婆は微笑むと、

「心が繋がったのよ、そんな奇跡が起きたのよ、その人は心の目であなたを見て、心の耳で声を聞き、心であなたを感じるの」

「奇跡なの?この石がわたしを見えなくしたの?」

 多舞はペンダントを取り出すとそれを老婆に見せる。でも見えないはず。でも見えるらしい…ややこしくなって首を傾げる。

「安心して、ちゃんと見えるわ」

 老婆は光輝く青い石を見えないはずの目を眩しそうに細めて見つめ、やがて、

「マリンブルーストーン、煌く青い海の石、あなたはそれをどこで手に入れたの?」

「おかあさんにもらったの、お守りなの」

「そう、それはちゃんとあなたの事を守っているわ」

「でも悲しいの、苦しいの、寂しいの」

 そう言って多舞は苦しそうに顔を歪める。

「でも、それはあなたが望んだ事なのよ、あなたが感じる苦しみは全て代償となって石の力に変わるのよ」

 多舞はペンダントの石を握りしめる。そうして、

「おとうさんもおかあさんも殺されたの、わたしも死んでしまいたいの」

「死のうと思っても無理よ、苦しむだけ、石は決してあなたを殺させない、苦しみだけを与える。代償を得るために、そうして力を出すために」

「もう消えてしまいたいの!」

 悲痛に叫ぶ多舞の姿を見えない瞳で見つめて老婆は考える。祈願者の苦しみ、それは痛いほどわかる。なぜなら自分も失うものが無くなるほど多くを失ったのだ。しかしこの子はまだ全てを失った訳じゃない、石は力を出し続けている。願いは完全に聞き届けられていない、完了していないのだ。そこに恐怖を感じる。この子は石の力で何千、何万年も生かされる。そうして、この地上にこの子の他に誰も何も存在しない状況になった時、その奇跡は完了するのだ。

 なんとかしてやりたい、そう老婆は考える。永遠の孤独、永遠の苦しみから解放してやりたい、どうすれば…一度失った物はもう取り戻せない、しかしこの子はまだ失った訳じゃない、失い続けているだけだ。だから取り戻す事が出来るかも知れない、どうすれば、

 そこで老婆は気づく、この少女の言ったもう一つの奇跡の事を、

「あなたの事がわかる人、その人も石を持っているの?」

 床に座り込んで項垂れていた多舞は顔を上げると少し笑みを作り、

「持っているの、わたしと同じ青い石なの」

「その石は光った事がある?」

「光ったの、出会った時なの、でもラジオは石を捨てようとするの、呪いの石だと言うの、でも死んだおかあさんにもらった大切な石なの、わたしと一緒なの」

 その石には何者かの手により願いが込められていたようだ。おそらくは死んだという母親の手で、何のために?その小さな奇跡は必然に起きた。偶然じゃない、だから出会った。それはこの子を救うため?それだけか?でもそうとしか思えない…

「あなたはこんな所にいる場合ではないわ、早くその人の所に帰りなさい、そうすればきっと救われるわ」

「ラジオも助けてくれるって言ってくれたの、ナイト様なの、旦那様なの、とても優しいの」

「そう、よかったわね、でもあなたはここに何をしに来たの?」

 そう言われて多舞は突然思い出す。両親を殺したあの男の事を、

「おとうさんとおかあさんを殺した男がいるの、ここに入っていったの」

「あの人があなたの両親を殺したの?」

 老婆はしばらく前からここに滞在するようになった組織の男を思い出す。ストーンハンター、それが組織でのあの男の肩書であり石を狩る者、だから石を手に入れる為には非合法な事も平気でする。人殺しも厭わない、この子の両親はその犠牲になった。そしてこの子も、

「復讐するの?でもあなたは何もできない、違うかしら」

 多舞は唇を噛みしめて、

「知りたいの、殺された理由が知りたいの」

 訴えかけるようにそう言う多舞の顔を見えない目で見つめて老婆は、

「殺された。その理由は簡単よ、あなたが持っている石を、それを奪うためにそれだけよ」

「この石のせいなの?」

 多舞はペンダントの石を見つめて、そして握りしめる。

「その石はミラクルストーン、奇跡の石、神秘の力が込められた石、だから求める者は多いわ、本当は正当な持ち主以外手に出来ない、でも組織は持ち主から石を奪い、その所有権をすり替える方法を発見したの、そうして世界の陰に潜んで石を集め続けている。何の為に、それはわからないけど…でも石の力を使い何かを企んでいる。それは決していい事に使われない、そんな気がするわ、あなたの両親は組織の非合法な活動の犠牲になったのよ」

「そしきは石を奪うの、おばあさんもそしきの人なの?」

 老婆は首を振り、

「わたしは組織の者じゃないわ、ストーンマザーそう呼ばれる存在の1人なの、世界中を巡る石達は持ち主を探す。そうして一時的に一人の人間の元に多くの石が集まる事がある。集積者、そう呼ばれる者は求める者に石を託すの、その多くの者が女性なの、だからストーンマザーと呼ばれるの、多くの石が集まるわたしに組織は目をつけた。それからわたしはここに閉じ込められているのよ」

 話の内容がよく理解できない多舞は目をパチクリさせると、

「石があつまるの?石のおかあさんなの?」

 だからわからない事を尋ねてみる。

「石を呼び寄せる。そう言う体質なのよ別に石を産んだりはしないわ」

 多舞はよく理解できずに首を傾げる。そうして

「閉じ込められているの?」

 理解出来ている部分を尋ねる。

「ええ、そうよ、もう十年もここにいるわ」

「逃げださないの?」

 老婆は溜息をつくと、

「わたしには逃げるための足がないのよ、それに逃げる必要はないのよ、ここにいても、どこにいても何もできない、同じなのよ」

「かわいそうなの」

 老婆は微笑むと、首を振り、

「わたしは、今のあなたの方がかわいそうだと思うけど、わたしはもうすぐ終われる。それを知っているから」

「死んじゃうの」

「ええ、そうよ」

 そうして老婆は嬉しそうに微笑む、もうすぐ苦しみから解放される。その日が来るのだ。

「寂しいの」

 多舞は動かぬ老婆の左手を握る。

「わたしの為に悲しんでくれるの、ありがとう、優しい子ね、あなたはきっと救われるわ」

 そう言って動く右手で多舞の手を握り返す。

 その時、部屋の扉が開いて中に誰か入ってくる。

 入ってきたのはあの男だ。男は部屋を見廻す。またあの気配がする。そんな気がして、しかし一瞬感じた気配はもう何所にも無い、

「気のせいか」

 そう呟いて男は老婆に歩み寄る。

「気分はいかがかな、マザー」

「最低よ、見たくない者が部屋にいるのよ」

 心の声でそう返事する。

「これは、これは、嫌われたものだ」

 男はそう言って肩をすくめる。

「また人を殺して、そして石を奪うの?」

 男は嬉しそうに笑い、

「ああそうだ。それが俺の仕事、生きがいだ。でも今度の仕事は少し物足りない、相手は高校生の小僧で能力者でもないガキだしな」

「そんな子供にまで手を出すの」

「ああ、それが生きがいだと言っただろう、高石羅冶雄、変った名前のガキだが今夜奪いに行く」

 その話を聞いて老婆の手を握った多舞の手が震える。

「そんな話をするためにここにきたんじゃないでしょ、あれが欲しいのね」

「御明察、仕事では何が起きるかわからない、だから念のために力を補充しておく必要がある」

 そう言うと男はポケットから石を取り出す。紫色の小さな石を、そしてそれを老婆に差し出す。

 多舞の手を離して老婆は石を受け取る。そして念を込める。

 それはチャージと呼ばれる秘法、代償を支払わない限り石はその力を振るわない、しかし代償を支払って力を得た者の中には、別の石にその力を与える事が出来る者がいる。チャージされた石を持つ者は蓄えられた分の力を自由に使う事が出来る。代償を支払うことなく、しかしそれで得た力は一時的な物で石に力が無くなれば効力は切れる。だから定期的にチャージする必要がある。

「満タンでたのむぜ」

 男はそう言って老婆の手の中で光り始める石を見つめる。

 ストーンマザーそう呼ばれる存在は大抵この能力を要している。石を呼ぶ体質、それが何か関係しているのかもしれない、

 やがて老婆はぐったりする。手の中で光っていた石は輝きを失う、

「寄こせ」

 そう言って男は老婆の手から石を取り上げる。そして手に握りしめる。石が再び輝き始め、そして失いかけていた力が蘇る感覚がする。

「ふーっ」

 男は息を吐いて手を開いて石を見る。石にはまだ充分力が残っている。

「御苦労さん」

 男はそう言って部屋を後にする。

 ぐったりしている老婆に多舞がすがりつく、そして涙を流す。

「どうしたの、わたしはまだ死んでいないわ」

「ラジオが殺されるの、あの男に殺されるの」

 多舞はそう言いながら泣きじゃくる。

「ラジオ…そうなの、あの男はあなたの大切な人を殺して石を奪おうとしているのね」

「殺されるの、ラジオもおとうさんもおかあさんもみんなあの男に殺されるの」

「落ち着いて、そんな事はさせないわ!」

 老婆はそう言うと動く右手で車椅子を探って何か取り出す。

 取り出したのはハンドベル、老婆はそれを振る。

 数秒もしないうちに部屋の扉が開いて、中に誰か入ってくる。

 入ってきたのはメイドの格好をした女性、

「御用ですか、奥様」

 そう言って彼女は老婆に頭を下げる。

「美沙希さん、あなたに仕事を頼みたいの、車を運転して街まで行く、それだけの仕事よ」

「街まで行く?それだけですか?」

「そうよ、大事なお客さまを街まで送るの、なるべく早く」

 ?マークを頭に浮かべて美沙希は部屋を見廻す。

「残念なことにあなたには見えないの、とてもかわいいお嬢さんよ」

 ?マークを浮かべたまま美沙希は老婆を見つめる。

 奥様は冗談を言って人をからかったりするような人じゃない、きっと訳があるんだ。

「かしこまりました」

 そう言って美沙希はまた頭を下げる。

「お願いするわ」

 そう言って老婆は多舞の手を握ると、

「さあ、お行きなさい、この人があなたを街まで運んでくれる。大切な人の許に帰りなさい、そして2人で逃げるの、あの男の手の届かない所へ」

「おばあさん、ありがとう」

 めずらしく語尾にのを付けず。そう言って多舞は老婆に頭を下げる。

 美沙希が部屋の扉を開ける。多舞はそこから部屋の外に出る。

 出て行く多舞を見つめて老婆は言葉にできない呟きを洩らす。

「これが悪意の込められた運命だとしても変えられる。奇跡を望む思いがあれば…」

 老婆は力を使い未来を見つめようとする。しかし赤くぼやけた未来を見ることができなかった…最後に見た未来、その抵抗の為に、赤い霧が運命中にただ漂う。



「もう、閉めてもいいのかしら」

 部屋の外で美沙希は自分には見えない存在を確認しようと目を凝らすが、やはり何も見えない、思わず可笑しくなってプッと吹きだす。この面白い冗談のような行いがなぜか気に入ってしまい、

「そこにいるんでしょ、こっちよ」

 そう言って扉を閉めて廊下を歩きだす。これから街まで見えない相手と一緒にいる。そんな芝居をしてみるのも面白い、気晴らしにもなる。

 玄関を開けるとそこにはあの男がいる。車に荷物を積み込んでいる。

 男は美沙希の姿を見るとニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。

「おや、おねえちゃんお出かけかい」

 男の下品な口調に美沙希は顔をしかめる。

「買い物よ、街まで出かけるの」

 本当の事は話せない、だから適当に嘘をつく、

「買い物?何を買うんだ。食料品は不足してないぞ」

「雑誌よ、今日が販売日なの」

「そうか、こんな所にずっといたら退屈するな、本ぐらい読みたい、そう言うことか、でも寂しくなったら俺がかわいがってやってもいいぜ」

 そう言って男は下品な笑いを浮かべる。

 美沙希は顔を背けると男を無視して車に向い歩きだす。

「かわいくねーな」

 男はそんな美沙希の態度の感想を述べる。、

「失礼な男ね」

 美沙希はそう呟く、その時小鳥が飛んできて美沙希の足元に紙切れを落とす。美沙希はそれを拾い、そして屋敷の二階の窓を見上げる。その紙切れをエプロンのポケットに仕舞い込む。

「やっぱり訳ありか…」

 車のドアを上げながら、美沙希はまた呟く、その横で多舞は目を丸くする。

 スーパーカーそう呼ばれる類の車、低い車高、太いタイヤ、金色の流線型のボディは速さを感じさせる。

 運転席で美沙希は反対側のドアを自動で上げて、

「お乗りなさい」

 見えない相手に指示を出す。

 多舞は言われたように車に乗り込む、

「乗ったのかしら?」

 そう言って首を傾げてしばらく間を置き美沙希は助手席のドアを閉める。

「シートベルトを締めてね」

 そう言われても多舞には何の事かわからない、

 美沙希はボタンを押してエンジンをかける。静まり返った山中に多気筒、大排気量の爆音が響き渡る。

 ギヤを入れ、そしてクラッチを放してアクセルを踏む、その大きなトルクが与えられた後輪は駐車場の砂利を後方に巻き上げる。一瞬アクセルから足を放してすぐに踏み込む、車は一瞬がくんと揺れて蛇行しながら加速する。そうして駐車場の出口を目指す。

「ひゃぁ」

 大きなシートにめり込みながら多舞は小さな悲鳴を洩らす。

 山道のワィンディングを美沙希はフルスピードで駆け抜ける。テールを滑らせドリフトする。

 コーナーの度に多舞は右に左に振り回される。捕まる場所がどこにもない、やがてシートから転げ落ちてフロアーマットの上で丸くなる。

「なるべく早く、奥様からそう言われたの」

 そう言いながら美沙希は忙しそうにハンドルを左右に回す。

「別にそう言われなくてもいつもこんな運転だけど…」

 車は山間部を抜けて田園地帯にさしかかる。美沙希はそこで少しスピードを落とす。その間に多舞はシートによじ登る。

「あなたは奥様のお客さんなのね」

 美沙希は誰もいないシートに話しかける。

「奥様は優しい人、そしてかわいそうな人なの、多くの人の幸せの為にあんな体になってしまったの、犠牲を払い奇 跡の力を使い続けた為に、わたしも奥様には恩義があるの、だからずっとお傍でお世話しているの、あの組織とは関係ない、だから安心してね」

 赤信号で停車中の時に美沙希はエプロンのポケットからさっきの紙切れを取り出す。文字が書かれている。しかしその字は誰にも読めない字、願字で書かれている。

「フーン、そう言う事か、やっぱり運転するだけの仕事じゃないのね、それにあなたの事もわかったわ、ラジオ…、クスッ、変な名前、その少年を見つけて保護すればいいのね、組織の鼻を明かしてやるわ、見てなさい、わたしが必ず助けてあげる」

 信号が青に変わり美沙希はアクセルを床まで踏み込む後輪がスリップして白煙が上がる。

 そしてカタパルトで打ち出されたように突然加速する。多舞はまたシートに貼りつく、

 金色のスーパーカーは県道を制限速度の五倍の速度で駆け抜ける。



 駅前のバスターミナル、その端に車を止めてドアを開く、そうして車から降りて美沙希はキヨロキョロと辺りを見廻す。

 車から降りた多舞は青い顔でうずくまる。

 バスの乗降客達の視線が美沙希に集中する。

「この格好はちょっとまずったか…」

 自分の着ているメイド服を摘んで眺める。

 これじゃぁどこかのメイドカフェの客引きにしか見えない、失敗だ。

 案の定、ミーハーそうな若者が傍に寄ってきて話しかけてくる。オタクらしき奴らが遠巻きに眺めて、そして携帯で写真を撮っている奴もいる。

 高校生、そう見える奴に話しかけ、少年ラジオの情報を聞く、しかしその計画は失敗しそうな状況だ。

「おねえさん、どこの店の人?」

「チラシ配ってないの?サービス券ないの?」

「御帰りなさいませご主人さまって言ってみて」

 群がる若者達の質問攻めに耐え切れず。頭を抱えて、

「あぁ~っ、うるせえぞガキ共、あっちに行け!」

 そう怒鳴りつけても、

「へえ、そう言うキャラなんだ」

「斬新な感じがするね」

「おねえさん、かっこいいー」

 五月蠅いハエは飛んでは行かない、

 その時、途方に暮れる美沙希の傍を通り過ぎる人影がある。

 その異様な姿にハエ達の視線がそちらを向く、

 黒いコートを着込みフードを下し右足を引きずり歩くその姿は、何か不吉な者を連想させる。

 しかしその姿を美沙希はよく知っていた。

「希美!」

 コートの背中に声をかける。

「…えっ!」

 振り向いたコートの人物は美沙希の姿を認めると驚きの声を上げる。そして、

「姉さんさん…」

 そう呟く、

「いい所で逢えたわ、ちょっと聞きたい事があるの」

「……」

 しかし希美は体を震わせ無言だ。

「どうしたの希美?」

「姉さん今までどこに居たの?3年も家に連絡なしで」

「あ、いや、ちょっと仕事で」

「昔の悪い、あの人達とまたつるんでいたの?」

「今はもう連中とはつきあっていないよ、でもあいつらもそんなに悪い奴らじゃないんだけど…」

「でも暴走族よ!」

「違うわ、ローリング族!峠の走り屋よ」

「似たようなものよ、どっちもうるさいもの」

「あのな、希美!俺たちは命をかけて公道を走ってきたんだ。街頭のパレード屋ごときと一緒にするな!」

「ほら、昔の言葉に戻ってる。やっぱり暴走しているのね」

「暴走じゃあねぇ!激走だ!」

「似たようなものよ、それに何?その恰好?メイド姿で暴走するのが流行っているの?最近の暴走族はコスプレするの?」

「暴走族じゃねえ、コスプレじゃねえ、本物のメイドだ!」

「本物?でもその恰好全然似合わないわ、無理して若作りしているみたい、年増のくせに」

「おまえだって学芸会に出てくる悪役の魔女みたいな恰好してんじゃねえか、顔やスタイルに自信がねえからいつも隠しているんだろう」

 いつしか二人を囲むようにして集まった観衆が固唾を飲んでメイドと魔女の対決を見物している。

 二人はその視線に気づいて周りを見る。

「……」

「……」

「希美!とにかく車に乗れ」

「厭よ!姉さんの車はうるさいんだもの」

「いいから乗れ!」

 美沙希は嫌がる希美の腕を掴むと強引に車まで引きずって行く、そしてリモコンを操作するとドアを開けてその中に強引に押し込む、

「あなたも乗って」

 さっきから道に座り込んで、そして目の前で繰り広げられていた。よくわからないが面白いイベントを見ていた多舞はそう声をかけられ車に乗り込む、

「ちょっと狭いけどここで我慢して」

 シートの後ろのラゲッジスペースに入るように指示される。多舞にとってはシートに座るより居心地がいい場所だ。

「一体、誰と話しているのよ?」

 車から出ようとしてじたばたする希美がそれををやめて不思議そうに尋ねる。

「ちょっと待て話は後だ」

 美沙希はドア閉めエンジンをかけて車を強引に発進させる。

「きやっ!」

 シートベルトをしていない希美は左右に振り回されて悲鳴を上げる。

 蛇行する美沙希の車はターミナルに入ってきたバスと接触しそうになりクラクションを鳴らされる。そして紙一重でバスをかすめてターミナルから出ていく。

 茫然とその一部始終を見ていた観衆の1人がぽつりと呟く、

「メイドが魔女を拉致して行った…」

 爆音を立てて金色の車は駅前から走り去る。



 市内の国道を金色のスーパーカーは疾走する。右に左に先行する車を追い抜きながら、

「止めて!ぶつかるわ!きやーっ!」

 死を体感する恐怖に思わず希美は悲鳴を上げる。

「まだまだ。半分よ!」

「姉さんは恐怖を失くしたから、その感情を石に捧げたから、だから平気なのよ!」

 その言葉を聞いて美沙希はアクセルを踏む足の力を抜いて、なぜか車をゆっくり走らせ始める。

「そうよ、わたしは恐怖を感じない、どんなにスピードを出しても、どんなに高い所に登っても、刃物や銃を突き付けられても、目の前で壮絶な事故が起こって次が自分の番だと知らされても何も怖くない、全てはこの乗り物、これを速く走らせるために得た力の代償」

「狂っているわ!」

「いいえ、狂っていたの、でもあの人に逢ってわたしは正気を取り戻したの」

「あの人?」

「あなたもよく知っている人、奥様よ」

 希美は驚きの表情で運転する美沙希の横顔を見つめる。

「奥様が生きているの?でも、そんな…何回占っても奥様の所在はわからない、生きているの?本当に」

「偶然に出逢ったのよ、そして今は奥様のお世話をしているの、山奥のお屋敷でね」

 奥様、この2人の姉妹は彼女の事をそう呼ぶが、実は彼女はこの2人の祖母である。子供の時からそう呼んでいたため、いつの間にか呼び名として定着してしまっていた。赤石珠恵、それが奥様と呼ばれる彼女の名前だ。

「その山奥の屋敷で奥様のお世話をしている姉さんが、街で何をしているの?」

「そうだ!思い出したわ!」

 美沙希は急ハンドルを切ると車を国道沿いのドライブインの中に進入させる。

 しかし急ハンドルすぎて後輪がグリップを失い滑りはじめ、やがてスピンを始める。

 スピンしながら停車した車はドライブインの外れの駐車帯の中にきれいに納まる。

 車内には目を回す者が2人いる。

「もう、ねえさんの車に乗りたくない…」

 希美は頭からフードをかぶってそう呟く、

「ヒロインはわたしなの…」

 多舞はヘルメットを押さえて、わけわからずそう呟く、

「目を廻している暇はないわ、これを見て」

 美沙希は紙片を希美に突き付ける。

 それを受取って、そしてフードをあげて読もうとする希美だが、

「ぐるぐるして読めないさんさん…」

「しっかりして、あんたラジオって知っている」

「ラジオ?この車にもついているんじゃないの?」

 美沙希は手を伸ばすと希美のフードをめくり上げる。

「やめて、痛い、痛い、光が痛い!」

 希美はそう叫んで両手で顔を覆う、

「あんたがボケばっかしかますからよ、これでしゃんとした?」

 そう言って妹の頭にフードをかぶせてやる。

「でも最初にぐるぐる回したのはみさきなの」

 後ろから多舞がそう突っ込むが誰にも聞こえない、しかたなく口を尖らす。

「あんまりよ、酷すぎるわ、学校帰りの女子高生を車で拉致して監禁、そして市内を連れまわして暴走、そうして最後に拷問、貴女は人間じゃない…悪魔よ!」

「悪魔だと、ケッ、血の石の魔女め、よくもそんなことが言えるな、しおらしい顔をしてたってあんたの本性はわかってんだ。かわい子ぶるのもたいがいにしな」

 美沙希とはどういう人格の持ち主なのか?多舞はもうわけがわからなくなってしまう、でもこのままこんな2人に任せておいたら時間ばかりが無駄に流れ間に合わなくなって羅冶雄はあの男に殺されてしまう、多舞は焦り始める。

 いつしか太陽は西に大きく傾き空を赤く染め始めている。もうすぐ長い長い冬の夜がやって来る。



「おおよその事情はわかったわ」

 希美は読んでいた紙片を美沙希に返して後ろを振り向く、

「ここに、その子がいるのね」

「そんなことより、あんたラジオを知っているの?」

「彼とは2時間ぐらい前に話をしていたわ」

「2時間前、午後2時半か…」

「午後の授業が自習になったから部室に行ったの、そうしたら彼が寝ていて起してしまったの、そして石の事を聞かれたわ」

「石の事!話したのか?」

 頷いた希美は顔を伏せシートの後ろを指さすと、

「知っていることを大まかに、そしてこの子の事を聞かれたわ、救えるか?と…」

 美沙希は希美の顎を掴んで顔を上げさせフードの奥のその目を見つめる。そして

「なんて答えた?」

 目を見つめたままそう質問する。

「可能性は残されている。と…」

 美沙希は希美の顎から手を放す。

「ならラジオはまだ絶望していない、そう言う状況だな、それなら今は必ずこの子を探して街をうろついている。探しに行くか…」

 希美はコートのポケットからタロットカードを取り出す。

「闇雲に探し回っても見つけられないわ、居場所を占ってみる」

 そう言ってタロットカードの小アルカナのカードを切ると膝の上に並べ始める。

「金貨が2枚、聖杯が3枚、クラブが1枚、剣が1枚、方向は中央…カーナビを見せて」

 美沙希はナビのスイッチを操作してこの町の地図をモニターに写しだす。

「銀行が2件、飲食店が10件以上、交番に、それに学校…彼はここにいるわ」

 希美はモニター画面の1点を指さす。

 その位置を見て美沙希は顔をしかめる。ここからだと10㎞はある。

「ちょっと遠いな」

「彼は移動している。急がないと見失うわ」

 美沙希はエンジンをかけるとアクセルを目一杯踏み込みノークラッチでギヤを入れる。

 スキール音を響かせて車は凶暴に加速する。

「ななな、何を…」

 希美は体にかかる慣性重力のせいでそれ以上喋れない…

「あんたが急げって言ったのよ!」

 希美は急がないでと心で叫ぶ、そしてレジタル式のスピードメーターを横目に見る。その速度を確認して、そして失神する。

 シートの隙間から景色がぶっ飛んで行くフロントガラスを見つめて目を廻しながら多舞は呟く、

「ラジオ…きっと…たすけて…やるの…」


 希美の指定した場所に車は3分で到着する。市街地の10㎞の距離を3分、恐ろしい…

 美沙希はコイン駐車場に車を止めて横で失神する希美の頬を叩く、

「う、うう~ん」

 反応があまりよくない…

 美沙希はドアの下にはめ込まれた非常用の懐中電灯を取ると希美の顔をライトで照らす。

「ぎや~っ!」

 今度は良好な反応だ。

「こ、殺す気…」

 フードの奥から赤く目を光らせ希美が睨んでくる。

「光が当たっても痛いだけなんでしょ、大袈裟よ、それより早く下りて、ラジオを探すわよ」

 車から降りた希美はぶつぶつ何か呟き始める。

「殺す…殺す…絶対殺す…」

 その姿は呪文を唱える魔女のようだ。

「あの子も降りたかな?」

 美沙希は車の中を覗き込むが見えるはずもない、

 希美みたいに失神していたら置いて行くことになってしまう、どうしたものかと考えていると、

「ちょっと待って」

 そう言って希美がコートのポケットからケースを取り出して蓋を開ける。

 そして、それをかざして辺りを歩き始める。

「何のまじない?」

「幽霊探知機よ」

 やがて美沙希の隣辺りに石が一番強い反応を示す事がわかる。

「あの子はここにいる」

 そう言ってそこを指さす。

「きゃっ!」

 そう叫んで美沙希が飛びあがる。

 希美はその姿を今度はフードの奥から白い目で睨んで、

「白々しい、怖いもの知らずのくせに」

「冗談よ、それじゃあ、探しに行くわ」

 そう言って歩き始めたが、しかしここはこの街の歓楽街、メイド姿の美沙希はすぐにみんなの注目の的になる。

「おねぇちゃん、色っぽいね」

「同伴?一緒に行こうか?」

「どこの店、サービスしてくれる?」

 こんな風に早い時間から出来上がっている酔っ払い共にからまれてしまう、

 すると突然、美沙希は希美に手を合わせる。

「お願い、一生のお願い」

「な、何よ」

「そのコートちょっとだけ貸してくれないかな」

 その願いに希美は驚愕する。

「え、ええ!え!えーっ!」

「たまには光を浴びるのも健康にいいはずよ」

「ひっ!」

 生命の危機を感じた希美は逃げ出そうとする。しかし右足を引きずっていたのでは早く動けない、やがて何者かに掴まれて動けなくなる。振り返ると、

「取ったぁ~」

 悪魔の笑みを浮かべる美沙希がコートの裾を掴んでいる。

「ひーっ!」

 多舞はさっきからそんな2人の様子を茫然と見つめている。こんな風に姉妹で漫才やコントをしながら歩かれてはちっとも羅冶雄が探せない、本当に困った人達だ。

 その時、姉妹でコートの奪い合いをする2人に声をかける者がいる。

「なにやってんだ。おまえら?」

 石崎は無表情な顔で2人を見つめる。

「ラジオの友達なの、マシンなの」

 その男の登場に多舞は羅冶雄の所在を期待する。さらにその芸人泣かせな表情に2人が漫才やコントをやめることも期待する。

 姉妹はコートの奪い合いを中止して石崎に向かい合い、そして希美が、

「高石君を見なかった?探しているの」

 そう尋ねる。

「たかいし?…ああ、ラジオの事か、見てねえよ、俺も探しているんだ。家に行っても留守だし、どこほっつき歩いてんだ。あいつ」

 希美はフードの中の目を暗くして、

「彼を探している?あの目的のために?」

「そうだ。だから見つけないと」

「だめよ、今の貴方では力が足らない、殺されるわ!」

 その時、美沙希が2人の話に割り込んでくる。

「どう言うことなの?」

 希美は黙り込み、その替りに石崎が、

「あいつが俺のラッキーシンボルって言う話だ。それよりスピード狂の姉ちゃん、久しぶりだな、飛ばしすぎてあの世に行っちまったと思っていたぜ」

「お生憎様、あの世まで行ってみたけど、でも空の上には走る道がないから退屈で、だから戻ってきたの」

「相変わらず、すっ飛ばしているって訳か、あんたの車に乗るとなかなか面白い、今度乗せてくれ」

「いやよ、あんた面白くないんだもん、どんな事をしても表情一つ変えず座っているだけで走り涯がないの」

 石崎は無表情な顔に笑みを作る、そして、

「それより、ラジオを探しているんだろ、見つけたら電話してやる。だから携帯の番号を教えろ」

 そう提案する。

 姉妹は顔を見合せて、

「希美の携帯に」

「姉さんの携帯に」

 同時にそう言う、そしてしばらく沈黙したあと、

「あんた携帯持ってないの?」

「姉さん携帯持ってないの?」

 同時にそう言う、そして、

「嘘でしょ!女子高校生の必需品、携帯電話を持っていないなんて、あんた生きた化石、さては友達いないんでしょ」

「携帯のディスプレイ画面の光が嫌いなのよ顔に当たると痛いの、電話すると耳がちぎれそうになるの、だからそんな物騒な物はいらないの!それより姉さんだって時代についていけない前世紀の化石じゃない」

「携帯は前世紀にもあったわよ!わたしはね、山奥に引きこもっていたから持っている必要も意味もないの、圏外だし…」

 そんな2人を横目で見つめ、

「話になんねえ」

 そう言って石崎は歩きだす。

「待って、無謀な事はしないで!」

 その背中に希美が叫ぶ、

 石崎は振り返らず返事もせず。右手だけを上げて雑踏に見えなくなる。

 その様子を無言で美沙希が見つめる。

 そんな雑踏を歩く石崎の後ろをついて歩く者がいる。

 誰にも見えない者が、

 あの2人といるよりこの男といる方が羅冶雄を見つける可能性が高い、そう考えた多舞は石崎の後ろを歩く、そして呟く、

「ラジオを助けるの、きっとわたしが助けるの」

 街は赤い夕焼けに染められる。2人が出逢ったあの日と同じように。






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