表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある街のある図書館で  作者: いぬぬっこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

受付のいない図書館

 その休日は、予定が何もなかった。

 珍しく仕事の連絡も入らず、時計の針だけが進んでいく。何かをしなければと思いながら、結局思いついたのは、街の図書館に行くことだった。


 普段、図書館を利用することはほとんどない。静かすぎる場所は、少し落ち着かない。それでも今日は、誰にも急かされず、時間をやり過ごせる場所が必要だった。


 昼過ぎ、久しぶりに訪れた図書館は、外観こそ記憶と変わらなかったが、中に入った瞬間、微妙な違和感を覚えた。


 ――静かすぎる。


 空調の音と、遠くで紙が擦れる気配だけがある。入口正面のカウンターに目を向けて、足が止まった。


 受付に、人がいない。


 代わりに置かれているのは、大きなディスプレイと無機質な操作端末だった。〈ご利用の方はこちら〉という文字が淡々と表示されている。


 周囲を見渡すと、利用者たちは迷いなく端末にカードをかざし、本を手にして通り過ぎていく。誰一人、受付を気に留めていない。この街では、これが当たり前なのだろう。


 時代が変わっただけだ。そう自分に言い聞かせ、主人公は館内へ足を踏み入れた。


 読みたい本は決まっていた。だが、検索端末はどれも使用中で、空く気配がない。立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。


「何か、お探しですか?」


 振り返ると、知らない女性が立っていた。三十代くらいだろうか。図書館の職員のようにも見えるが、名札はつけていない。


「本の場所が分からなくて」


 そう答えると、女性は少しだけ微笑んだ。


「どんな本ですか?」


 タイトルを告げると、女性は迷うことなく歩き出した。その足取りがあまりに自然で、主人公は半歩遅れて後を追う。


 書架の間を進むあいだ、女性はほとんど何も話さない。ただ、棚番号を一瞥し、曲がり角ではさりげなく速度を落とす。その様子を見て、ふと疑問が浮かんだ。


「……この図書館で、働いている方ですか?」


 一瞬、女性の歩みが止まった気がした。だがすぐに、首を横に振る。


「いいえ。たまに来るだけです。ボランティアみたいなものですね」


 その言い方が、なぜか胸に引っかかった。


 目的の本はすぐに見つかった。女性は棚から一冊を抜き取り、差し出す。


「これです」


「ありがとうございます」


 礼を言うと、女性は軽く会釈をして、そのまま別の書架へと離れていった。


 本を手にしたまま、その背中を見送る。

 たまに来るだけの人が、なぜここまで詳しいのだろう。


 ふと、視界の端に「郷土史」と書かれた棚が目に入った。きちんと揃えられた本の列の中で、一冊だけが不自然に斜めになっている。


 なぜか、それが妙に気になった。


 読みたい本を抱えたまま、郷土史の棚へと足を向ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ