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劣等薬屋は世界を救う  作者:
劣等薬屋 序章 ミヤ編
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7.そこにあった物

王都は毒で溶けていた。息を吸うと喉が焼けるように痛く頭痛が激しくなっていた。溶けた家からは人々の亡骸や感染して苦しむ者の姿があり、見るなり吐き気が止まらなかった。僕は顔を水魔法で覆い感染を防ぎ自身の家まで走った。 


 家は毒で崩れかかっていたがカエデ嬢達の声がしたのでひとまず安心した。ここに来る途中教会に人が沢山群がっていたけど治療してくれているのか…いや、あれって人間だったのか?恐ろしくて思い出したくない。


 僕はカエデ嬢達の声がするとこまで行ったが最悪の事態だった。万が一の事を考えてはいたが予想が的中してしまった。カエデ嬢やヴァイオレットさんシアメルさんがウイルスに感染していたのだ。意識はあるみたいだけど今は魔力が枯渇していてヒールができないし、ポーションを作ろうにも毒で溶けたり素材自体もウイルスで腐ってしまっていた。


 やむを得ないので僕はカエデ嬢達をアイテムボックスに入れることにした。アイテムボックスの中は時間が止まっているので感染を一時的に止めることができる。本人達は眠っているという感じになるので苦しむ事は…ないとは言い切れない。


 僕は家をでて教会に向かった。教会は女神の加護を受けていたので毒で溶けるのを多少は防いでいた。教会付近で群がっている人達は…人ではなくウイルス感染でコントロールを失ったゾンビだった。


 ここで殺らないと感染の強度が増すばかり。だけれどそうしようとする気持ちもあるが行動に移せなかった。だってあのゾンビの中には酒場で酒友になった奴もいるし、いつも美味しいパンを作ってくれるおばちゃんや魔法工具店のじっちゃんに冒険者組合の受付のお姉さん。


 王都に来て独りだった僕を支えてくれた人達を僕が殺める何て考えたくもないけど、ウイルスで苦しみ死ぬこともできないゾンビになった状態を見過ごすわけにもいかない。僕は涙を流しながらコレまでお世話になった恩を噛み締め聖属性魔法の一つ【浄化】を行った。


 【浄化】は単に魔物を消滅させるものではなく、悪の心を綺麗に流し来世に送ってあげる魔法である。痛み等はなく苦しまずに倒すことができるのでこの人たちを送るのに最適だった。


 浄化…浄化…浄化…。その人達がこの世を去るのに目を瞑ってはいけない。最後まで見届けてあげるのに意味があるし、少しでも来世では良くなってほしいから…。


 僕は悲しみで顔が赤く成りながら涙を拭い教会の中に入った。教会の中は荒れ果てていた。数名の神官と家族の死を泣いていることしができない人の姿があった。


 神官の話を聞くにあのウイルス蔓延後この国の王は死去されていて城内の地下にいた王族の双子は神官に教会まで連れてこられた。ここまで双子をつれてきた神官は残念ながらゾンビになる前に自害していた。


 神官は言う、ここも長くはもたない。いずれ加護の力は弱まり教会もなくなるであろう。だから今生き残る可能性がある僕に王族最後の生き残りであるこの子達を預けてほしいと。そしてこの場所でなくても王国を再建してほしいと神官は強く嘆き僕に双子を託し、一人だけウイルスに感染していない神官もいた為一緒に行くことにした。


 ある程度の時間は女神の加護でウイルスを防ぐ事ができるネックレスを神官は装備していた。双子はカエデ嬢と同じくアイテムボックスの中に入れて神官と共に冒険者組合に行った。まだ生き残りがいるかもしれないからと思い走ること数分、冒険者組合の玄関口でギルマスのレスダーさんが倒れていた。


 ウイルスに感染はしているものの息はあった。さすが元A級冒険者といったところ。レスダーさんもアイテムボックスに入れた。このアイテムボックスはけして万能ではない。容量制限があるので入れることができても数人でいっぱいになる。ここからはこの先生きるのに必要な人を人選していかなければならない。全員は助からない事に自身の力なさに苛立っていた。


 冒険者組合は生き残りはいた。主に受付の人達と魔物解体屋の人がいたが人数が多すぎてアイテムボックスには入らない。


 この王都はもうすぐウイルスが全体に蔓延して死の国になる。ここで死にたくなかったら一つ僕の言う事を聞いてくれ。


 ウイルス感染は肌でなく口や鼻で吸った時に感染する。僕の水魔法でその口と鼻を覆うから息が途切れる前に全力で王都外に走って下さい。それしか生き残る方法がありません。僕がそう言うと直ぐに従ってくれた人も居たがこの王都が故郷だから王都と共にするという人もいた。


 僕は助けたい気持ちもあったが自身の気持ちを相手に押しつけるわけにもいかないので、残りたい人達を尊重した。


 僕らは王都外に出て走った。少し離れたところまで行って水魔法を解いた。消えゆく王都を眺め行く当てもない道を歩いていくのであった。

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