51.勇者になんてなりたくなかった
僕は情報が追いつかずそこから逃げてしまった。何処か遠くに遠くに逃げていき現実から目を背けた。僕は勇者として魔王を倒さないといけないのは分かっていたけど、それをずっと3年間も戦争していることを僕だけに黙っていたことが悲しいよ。
勇者は魔王の天敵であるのと同時に今を生きる人類の最後の砦でもある。今更になって勇者になったことを後悔することになった。僕があの時勇者の剣を掴まなければこんな事にはなって無かったし、こんな苦しむ事も無かった。
おそらく話さなかったのは勇者がいることを隠し通すことと、力の温存だろう。入学する前に話していたら王都にいた家族の為だと言って無駄死にしていたんだ。たとえ勇者の力に目覚めた時も力の使い方がまだ未熟だから言わなかったんだよね。僕は遠くを見つめそう思っていた。
なんか全てがつまらなくなった気がした。新しい家族が出来て家ができて、学園で仲間ができて卒業では皆に迎えられて。そんな楽しい毎日を送っていたけど流石に限界があった。
僕は…いや、勇者には悪いけど勇者として魔王を倒すよりも自分の今の幸せを選んだ。僕も何処か遠くに旅にでも出るとするか…
温泉では…
やっと皆の止血が終わった、とりあえずはお疲れ様。シルフィ達もゆっくりしときなって、ユウキは何処行った?
シルフィ
走って家を飛び出していったよ。もしかして血まみれになった姿を見て気を悪くしたんじゃないの。
僕は広範囲にユウキだけを探知した。ギリギリの所に大きい反応がある。だが数秒で見失ってしまった。探知の範囲から抜けてしまったのだ。ユウキは旅に出たんだろう、自分探しの度に。勇者としての責任から逃げたかったんだろうな、シルフィは追うかい?
シルフィ
私は魔王の戦争に出るよ、父さん達と一緒に王都を取り返すんだ。
そうだな、勇者がいなくても倒せるかもしれない。これから何ヶ月何年戦っていくか分からないけど、自分を見つけることができた頃に遅れてやってくるんじゃないかなユウキは。
さて、王都奪還の準備なんだが西部諸国が連合を組んで王都最前線の拠点タサマイに向かっている。詳しい話によると異世界から勇者を召喚したらしいが、何を考えてるんだろうか。
リンガルは銀の盾メンバーと十字団と猛火の守護者という3つのクランと現リンガル帝国の騎士団の総勢3,000の兵で迎え撃つ。僕とサラは怪我人を癒す後方部隊に入るけどシルフィは前方部隊にする?
シルフィ
私も後方がいい、正直この戦争に参加するのは初めてだから軽く戦場の状況把握がしたいの。それ次第で隊を率いて前方部隊として向かう。
一方最前線拠点タサマイでは…
俺の名前は柊海斗1,000年前に起こった戦争で命を失い別の星つまり異世界転生した。そこでは漫画やゲームであった世界が広がっていてまさに王道ファンタジーだった。
勇者として転生した俺は数々の敵を倒し魔王を倒し終わるとやる事が無くなってつまらない毎日を送っていた。そんなある日、この世界に転生させてくれた女神が俺に言った。
「お困りのようでしたら別の世界に転移させてあげましょうか?」
その言葉を聞いた俺はすぐに承諾して仲間と共に別の世界へと転移した。次の世界ではどんなファンタジーが待っているんだろうと胸を膨らませていたが現実はそう甘くなかった。
召喚された直後に魔王がいる城まで討伐軍を率いて倒しに行ってほしいと言われた。イキナリすぎると思ったけど退屈しのぎにはなると思い数にして15,000の軍を率いてタサマイという拠点に向かった。
なんか初めて来た世界なのに懐かしさを感じるな。転生前に居た世界にちょっと似てる地名とかあって女神様に念話で確認した。
驚きだったのが僕が転生する前の世界の数百年後らしい。あっちの世界とこっちのせかいでは時間の進み方が違うのかな。
タサマイに着いたはいいもののここからでも王都?から禍々しいオーラが見える。ひょっとして俺が倒した魔王よりも強いかも…と自信が無くなりながらも他の軍を待った。
戦うのは俺らだけじゃなくてリンガルって都市からも軍が来るらしい。まぁ、俺たち勇者パーティがいれば何人いようが関係ないんだけどね。




