36.守りたいもの
僕の身体は歴代の勇者に支えられ光を帯びていた。僕は考えることなく身体が勝手に動き出しドラゴンをぶった斬っていた。ドラゴンの攻撃は全て避けて、一撃重いのをドラゴンに与えた。
「ありえぬ…こんな事…魔王様以外ありえぬ…」
それもそうだろう…コイツは勇者を知らない。勇者を知らないまま封印されていたから魔王に対抗できる存在の事を知らなかったのが悪い。僕が持っていた剣は7つに分身して剣の持ちての先には歴代の勇者が握っていた。
初代勇者がドラゴンに一撃をいれると同時に2代目が一撃入れて3代目もそれに続くように攻撃しに行った。そして僕の番になると勇者達が僕の方を向き頷き、僕に道を示してくれた。
僕は迷いなくドラゴンに最後の一撃を入れて討伐することができた。僕はそのまま力が抜けるように海へと落ちていった。
5日程僕は眠っていたらしい。起き上がった時にはみんなが心配してくれていたが父さんの姿はなかった。ケカゴン島の村はすっかり整備されて街になっていた。ケカゴン島の住民は僕達のことを英雄として崇めて本当の意味で僕は勇者になれた。
学園には了承をへて僕達は伝統行事を達成することができたが、約束である本の事をまだ父さんから教えてもらってなかったので父さんを探しに行った。父さんはまた木の下にいたので僕達は約束を尋ねるとそっと口を開いた。
数百年前に起きた戦争で放射線を浴びた僕は魔力を得た。のちに新人類と呼ばれる今の君たちの祖先に出会ったが酷い仕打ちを受けたから僕は呪いという意味を込めて「魔力」を埋め込んだ。
魔力っていうのは一般的に魔法を扱うのに必須の物で誰しもが持っている物で身体を作る血液の働きも持っているんだ。魔力を注いだ人間…君たちの祖先はまだ血液と結合してなかったから不十分だったけど、血液と結合した今なら魔力を失えば死ぬでいく。
血液=魔力になった現代に僕が注いだ魔力を元あった場所に返せば君たちは全滅していく。人間だろうが動物であろうが魔族だって魔力の根源は僕にあたる。
僕が魔力を呪い定義していたのは、僕の生活を邪魔して奪う奴を簡単に懲らしめる為の時間をかけた作戦。あの時味わった新人類を殺した時の快感をもっと味わいたいと思ったから…
けどここ数年でその気持ちは変わったんだよね。ユウキとシルフィと出会って数年経つけど僕にとっての数年は寝たら過ぎるくらいに儚いのに何でこんなに時間を大切にしたいと思ったんだろうって。
本当は新人類なんか滅ぼそうと思っていたのに何でか守りたいものが増えていく一方。恨んでいたものがかけがえのない存在になってからは見る世界が変わったよ。
魔王も本当はただの動物から始まってさ、試行錯誤を経て人間のような姿に創り上げたんだけど性格に難アリで人族と居るのを拒絶してしまったんだ。魔王は同じ様な種族を自分で創り出して国にまで成長させて凄いな…って感じたんだけど僕が倒したい新人類をコイツラが倒したらどうしようって考えた時に作ったのが初代勇者である人工魔力生物のゴーレム。
物語上勇者は魔王を倒すっていう感じになってるけど本当は、新人類を倒されたくない為に魔王に抵抗するように作った物でしかない。ユウキ…僕はそんな僕が作り上げてしまった物語の道具になってほしくないよ。
今の魔王もさ、僕が創り上げだ魔王の子孫だからさ僕の子供の様な存在なのよ。そして勇者であるユウキ達も僕が身勝手に魔力を注いでしまった僕の子供達。僕はどちらの味方でもあるけど、敵でもない。
歴代の勇者は魔族を魔王を滅ぼそうとしていたけどどうにかして和解してくれないかな。創造した僕が言うのもなんだけど8代目勇者ユウキには魔族との平和条約を結ぶ旅をして欲しいんだ。
ユウキだけじゃない…全責任である僕も行くから、ユウキは勇者として民の心の支えになり魔族の抑止力になってくれ。後は僕になすりつけて構わないから。
ユウキは僕の顔を強く殴った。
馬鹿野郎…何が魔族を創っただ、魔力は呪いだ…全責任は自分にあるだ…。無責任にも程があるし…そんな極悪な父さんは王都の襲撃の時に僕達を救ってくれて家族として迎えてくれた。僕も父さんの力になりたいと思ったけどアンタは何も話してくれない…僕もシルフィもさ、信用されてないって思ってだんだ。
母さんやアンジーナさん達に父さんの事を聞いても何も知らないって言ってたよ。知らない間に王都に来て知らない間に薬屋をしていて…父さんの今の話を聞いて思ったのが、仲良くなった所を全て壊そうとしてたんでしょ?ポーションを売ってヒールを掛けて王都からの信頼を経た所で全て無かったことにしたかったんじゃないの?どん底までに落ちた母さんたちの顔を見て高揚感を浴びたかったんでしょ?
魔族が王都襲撃してさ…結果的に王都は陥落して殆どの民の命は失ったよ。もしかしてさ、襲撃されるのも知っていたわけ…こうなる事を全て分かった上で僕達を助けてきたわけ?次の対象はリンガルの皆ってことでしょ。あそこは交易都市で沢山の人もいるから父さんにとっては殺しがいのある場所なんでしょ?ねぇ…どうなのさ…
だから話したくなかったんだよ、僕しか知らないから僕が言わなければ勇者が魔王を倒してハッピーエンドで丸く収まったのに。僕はさ、自分の過ちを正すために平和条約を結びたいんだよ。分かってくれ息子よ…こんな駄目な父さんで悪かったな。
母さんには言っておいてくれ…もう戻らないと。




